エレクトロニクス未経験者でも分かるプリント基板実装の流れ

エレクトロニクス製品には、大なり小なりプリント基板が入っていますが、どのような流れで製造するかご存じですか?

みなさんは電子回路の実装工場に作業を依頼したことがありますか?
基板実装に関しては聞きなれない言葉がならびますよね?

ここでは、はじめて回路図をひいて基板を作る!実装する!といった初心者の方。ぼんやりとは知っていたが急にお客様や先輩から細かい質問をもらって「・・・うっ!」となってしまった方。ちょっとでも実装費を下げるために工夫を考えている方。

そんなみなさんを対象に実装工程を写真入りで解説させていただきます。マクニカのものづくり事例(半導体を中心とした開発企画、製造サービス)が気になる方は以下の記事も参考にしてみてください。

そもそも実装工場ってどんなところ?

電子回路の製造は基板製造部品実装の2つの製造工程にわかれていて、各工場での工程を経てみなさんが目にするあの緑の基板(青とか黒とか、緑じゃない基板もありますが)に部品が実装された電子回路ができあがってきます。

電子回路の製造は基板製造と部品実装

実装工場はこの写真のように部品が何も載っていないプリント基板(生板ベアボード、素地、PCBと言ったりもします)に対してICやコネクターなどの部品を実装し、電子回路を大量生産することを目的とした工場です。

実装期間は通常工程だと1週間~約10日ほどでしょうか。
(設計仲間の間では自分たちのコントロールが離れたこの期間に束の間の休息をとったりすることもしばしば…)

部品実装工程を分解してみる

それでは実装工場の中身に触れていきたいと思います。
部品実装の工程は「表面実装部品を実装する=SMT工程」「刺し部品を実装する=DIP工程」にわけることができます。

「表面実装部品を実装する=SMT工程」と「刺し部品を実装する=DIP工程」

部品を取り付ける際に基板に穴が開いていて部品の端子を差し込む場合(写真左)はDIP工程を通る、それ以外(写真右)はSMT工程を通ると覚えていただければと思います。DIP部品は最近は本当に見なくなりましたね、基板を持っても手が痛くなりません。

工程の組合せとしては、
・『SMT工程のみ』 
・『DIP工程のみ』 
・『SMT工程 + DIP工程』
といったパターンが存在します。

SMT工程① 塗れるはんだ材 クリームはんだ

表面実装部品のためのSMT工程最初の作業は、プリント基板を自動実装機にかける準備として、クリームはんだと言われるペースト状のはんだ材をプリント基板のランドに塗る作業です。

電子工作では糸状のはんだ材を半田ごてで溶かしながら部品を実装しますが、クリームはんだはその名の通り常温でもクリーム状になったはんだ材です。

クリームはんだと言われるペースト状のはんだ材

常温ではんだが溶けた状態でなく“非常に細かいはんだの粒子”と“フラックス“が混ざっている状態で別名ソルダーペーストとも言ったりします。何かの必殺技の名前みたいですね。そして、そのクリームはんだをプリント基板に塗る装置をクリームはんだ印刷機と呼びます。

SMT工程② 実装品質を決めるメタルマスク

クリームはんだ印刷と言われる工程ではもう一つ重要な点があります。それはこの写真のようにプリント基板上のランド(はんだ付けをしたい場所)と同じ位置に穴が空いたメタルマスクと呼ばれる金属板が必要になるということです。

実装工場に作業をお願いすると、見積書に必ず出てくるあれですね。

ランド(はんだ付けをしたい場所)と同じ位置に穴が空いたメタルマスク

実はこのメタルマスク、かなり精巧にできており、実装品質におけるノウハウの固まりです。

これが理想的な状態になっていないと、
・となり合ったピン同士がショートする
ボイド(実装部の気泡)ができて部品と基板で接触不良が発生する
・はんだが多すぎてセルフアライメントが効かずはんだボールとして基板に残留してしまったりする、ことがあります。

極小パッケージの半導体部品ではそのガイドラインに、マスクの板厚や開口寸法や形状、スリットの付与など、数十ミクロン単位で超微細な加工指示が記載されているほどです。英語で表記しているガイドラインにはStencil(ステンシル)として紹介されていると思います。

流れとしてはこのような感じになります。
①印刷機内にプリント基板をセット
②メタルマスクをかぶせる
③スキージでクリームはんだを上から押し付ける
④メタルマスクを外す
⑤基板のランドにクリームはんだが塗られた状態になる

①試作であっても量産であっても、自動実装機を通す場合はメタルマスク作成が必要になります。
②プリント基板の実装面ごとにメタルマスクをつくる必要があるので、プリント基板の両面に部品を実装する場合は2種類のメタルマスクが必要になるので費用も倍です。

SMT工程③ 部品を実装する(載せる)

クリームはんだが塗られたプリント基板に対して数百点もの部品を載せるためにチップマウンターと言われる自動実装機を使用します。
チップマウンターはあらかじめ「画像認識データ」「部品寸法データ」「基板配置データ」によって構成されたプログラムを準備し、実装時はプリント基板に実装する部品をフィーダーといわれる装置に部品をセットしておく必要があるので、部品点数が多ければそれだけ段取りの工数が多くなっていきます。

プリント基板に対して数百点もの部品を載せるチップマウンタ

①自動実装機ではこの写真のようにテープ状に梱包された巻物が実装機に引き込まれるような作りとなっているので、必要数だけテープカットされた部品を実装工場に支給してもフィーダーにセットできないことがあります。その場合、“まき直し“といった追加費用や、余分な工数が発生するケースもあるので部品支給の場合は余裕のある状態で渡してあげたいところです。
②実装機を通すために、フィーダーには人の手をかいして数時間かけて部品をセットします。実装数も大事ですが、実装する部品の種類をへらすこともコストに大きく影響する点です。

SMT工程④ リフロー炉ではんだを溶かす

チップマウンターによって部品が実装されたプリント基板はまだはんだ付けが終わっていないので、基板とは固定されていない状態です。
基板をゆらしたり、振り回せば部品が飛んで行ってしまいます。

そこでクリームはんだを溶かし、しっかり基板に部品を取り付ける装置が登場します。それがリフロー炉です。後で紹介している『フロー』と言葉が似ていますが違う工程をさすので注意しましょう。

リフロー炉では装置内が温度制御されていて、部品が載った基板が通過するとクリームはんだが溶けて完全にプリント基板に固定された状態になります。この温度の制御に各社の実装品質をあげるためのノウハウがあり、部品を熱で壊さないのはもちろんですが、温度プロファイルによってはんだの融解とフラックスの活性を最大効率で働かせることで実装品質をキープできるよう、装置内の温度を制御しています。

クリームはんだを溶かして基板に部品を取り付けるリフロー炉

リフロー炉はこんな感じで機能的にはデカいオーブントースターとでも言えばいいのでしょうか、炉内は数メーターの長さがあります。
(ちなみに写真はリフロー炉の開封の儀を拝借しています)
オーブントースターで半導体を実装している人を見たことがありますが、同じ理屈なのでしょうね。

SMT工程おまけ1 基板の表と裏をリフローするときは

両面にSMT部品が載るプリント基板の場合は、リフロー後の基板を裏返した状態で2回目のSMT工程を流すことになります。
2回目のSMT工程をながすということは2回のはんだ印刷が必要になるということです。

でも2回目のはんだ印刷は1回目と要領が違います、なぜだかわかりますか?

理由は1回目のリフローが終わってすでに部品が沢山ついた状態で進める2回目のはんだ印刷は、最初に実装した面を下向きにした際に基板を水平におくことができないためです。

その際、何も部品が載っていない側にクリーム半田を印刷するには、下の写真のように“印刷受け台”といった実装部品の形状にあわせザグリを入れたような治具が必要になります。これは電子回路設計の方もそうそう見ることはないかもしれません。

印刷受け台

というわけで、両面リフロー実装の基板は設備の追加で費用が積み上がる可能性があります。
試作品や、実装状態によってはこのような設備は不要で、アライメント可能な治具で済ませるケースもあるので実装工場と相談しましょう。

SMT工程おまけ2 どっちが表でどっちが裏?

少し話が脱線しますが、基板の裏表をそれぞれリフロー実装するときは、気分的に表面を実装してから裏面を実装するのだと思いがちですが、実は裏面から始めることが多いようです。

HW設計やアートワーク設計をされる担当者は、筐体事情の制約が無ければ大型の部品や製品の主力機能を補う大規模なSoC、FPGAなどは表面に配置する傾向が強いですよね? デバッグを考えたら当然のことです。(またはこれらの主役部品を配置する側を “表面”とか“部品面“とか”A面“と呼ぶ傾向があります)

もしこれらの重い部品を先に実装してから、2回目のリフローを実施するとどうなると思いますか? 答えはリフロー炉で再びはんだが溶けた際にその部品の自重でリフロー炉内で部品が落ちてしまうという問題が発生します。そのため、重い部品が実装される面は2回目のリフローで流すという工夫が盛り込まれています。

はんだが溶けても部品が落ちないようにボンド塗布で基板と部品を固定させることができるのですが、このボンドをつける工程自体が実装費を膨らませてしまうため、この作業がなくなるよう工場側では部品実装の順番を工夫しています。

SMT工程⑤ 実装状態を外観検査する

SMT工程後は部品がしっかり実装されているか確認する必要があります。
目視チェックでもある程度は確認できると思いますが、精度とスピードと物量的には自動光学検査装置(AOI : Auto Optical Inspection)と呼ばれる外観検査装置を使うことになります。

外観検査装置もいくつか方式があるようですが、3Dに対応した最新の装置を使用し、ものすごいスピードと精度で実装状態の検査をしている工場もあります。実際、どの程度の割合で検査でエラーが発生するのか伺ったことがありまして、エラーは無くはないとのことですが、逆に精度が良すぎて誤判断(実際にエラーが出た状態を検査員が確認して、問題ないと認められる状態)も多いらしく、まだ改善が必要とおっしゃっていました。

なお、本当に実装品質に問題があった場合は、人の手によって手直しやその他の対応といった工程が入ります。また、ここで紹介したAOIを使った検査工程はSMT実装後の状態を確認する作業になりますが、外観検査自体は各工程に含まれています。

たとえば、クリーム半田印刷後も正常にクリーム半田がペーストできているかSPI(Solder Paste Inspection)という光学検査装置をつかってはんだ印刷の品質をチェックしている工場があります。これだけ製造品質をチェックしてもらえれば安心して量産製造もお任せできます。

DIP工程 刺し部品の付け方で見積が大きく変わる

SMT工程が終わると、次は刺し部品のためのDIP工程です。
先に説明したようにDIP工程は表面実品以外の部品を実装する工程です。

表面実装品以外のもの=DIP部品挿し部品リード部品アキシャル部品ラジアル部品などいくつかの呼び名がありますが、基本的には基板を貫通させて実装する必要がある部品と認識してもらえれば良いと思います。

ICのDIP品は最近あまり見ませんが、コネクタ類は挿抜に耐える実装強度が必要なのでDIP品が多いですよね。

懐かしのDIP品たち

(むしろ探すのが大変だった懐かしのDIP品たち)

それでは3つの実装方式について説明させていただきます。

DIP品を全く使っていないSMT部品だけの基板はこの工程は必要なくなるということですね。
経験上、比較的人の手が介入する工程が多いので基本的には製造スピードや品質を考慮したら刺し部品は少なければそれだけ安定した製造が期待できそうです。

DIP工程① フロー実装

フロー実装とはフロー槽と呼ばれる装置を使用した部品の実装方法です。
名前が似ているので、よく「フロー リフロー 違い」とググられていますが、作業内容が違った実装方式となります。

リフロー   ⇒ 表面実装部品をはんだ付けする方式
フロー    ⇒ 刺し部品をはんだ付けする方式

フロー槽には溶けたはんだがプールのように貯まっており、基板の裏面をそこへジャボ付けすることでDIP部品がはんだ付けされる仕組みです。下の写真はフロー実装を行う際に使うDIPパレットとかDIPキャリア、フローパレットと呼ばれる樹脂板です。

DIPパレット、DIPキャリア、フローパレットと呼ばれる樹脂板

4枚の基板が載せられるパレット例です。一度に4枚実装できてお得です。

パレットはこのようにDIP実装部以外が覆われている作りになっていますので、他の部品にはんだが付着する危険はありませんが、DIP部品の周囲に部品が付けられているときなどは安全を考慮して次のポイント実装を使うケースもあります。

フロー実装で基板を量産する際、生産の連続性をあげるためにDIPパレットを10枚近く用意する必要があります。初期費用は数十万とそれなりにかかりますが。時間あたりの生産性は高いのでより多くの電子回路を生産することができます。フロー実装が使いたい場合は何よりも周囲の部品の距離感が大事です。

DIP工程② ポイントはんだによる実装

ポイントはんだ、卓ロボ、局所はんだと呼ばれる実装方法です。
フロー実装を同じくDIP品を実装する際に使用される装置ですが、ジャボ付けのフロー実装との違いは、はんだが噴流する細い金属管が下から突き出ていて、ティーチングで動かすことでフロー実装では対応が難しい局部的な実装が可能となることです。

ポイント実装ではこのティーチング動作で1点1点はんだ付けしていくので大量の実装製造には向いていません。

ポイントはんだ、卓ロボ、局所はんだと呼ばれる実装方法

この黒いパレットの裏にはんだ噴流されるノズルのようなものがあって、基板の裏からDIP部を狙い撃ちします。
※部品が少し浮き上がってしまっているのはリフロー工程で温度プロファイル解析をしたためです。

フロー実装同様、専用のパレットが必要になるケースがありますが、治具用のパレットはフラクサー用、実装用のパレットのみと少数で済むので初期投資としてはポイントはんだ実装に軍配があがります。

DIP工程③ 手実装による実装方法

フロー実装やポイント実装でも手に負えない実装や、そもそも機械実装を必要としない製造であれば、職人によって部品付けを行うこともあります。工場の多くではそのような手付作業に従事する方は認定されたプロの方が対応してくれます。人の手で行うのでイニシャル費は不要で、単純に実装工数の算出となります。

職人による部品の手実装

まとめ

私たちはお客様の開発プロジェクトをサポートさせていただいた延長で試作や量産の製造を依頼されることがあるのですが、新人のころは製造物によって初期費が大きく変わったり、工場によって作業名が変わることに「はんだ付けするだけなのに、なぜこんなに変わるの?」と不思議に思っていたことがあります。

これだけ色々な実装方法や設備投入の選択肢があるのであれば、確かに実装工場によって見積や工程が変わってくるのも頷けます。少し主観が含まれると思いますが、まとめるとこんな感じでしょうか。

工程

表面実装

DIP品実装

実装方法 リフロー フロー ポイント実装 手実装
初期治具設備 メタルマスク
(場合によっては印刷受け台)
DIPキャリア
(裏面に部品が無い場合不要)
パレット又は治具レス 不要
治具コスト
生産性

これから初めて量産を目的とした電子回路を製造するというスタートアップの方も、実装の流れと初期投入設備を把握しておけば製品コンセプトに影響のない範囲で「とにかく片面実装にこだわる!」「大きな部品を裏表ランダムに置かない!」など、開発段階で考慮することによって余計なイニシャル費が不要になるかもしれませんね。

さて、今回は『エレクトロニクス未経験者でもわかるプリント基板実装の流れ』ということで電子回路ができあがるまでの実装工程と設備について簡単に紹介させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。

工場によっては「この作業や設備はない」、「作業順序が異なる」、「追加で○○をしている」など紹介した内容と差分もあるかもしれません。そういったところも各工場のノウハウが詰め込まれているということだと思います。

製造面でお困りの事はありませんか?

冒頭にも書いたように弊社では半導体の調達・技術サポート以外にも取り扱いの半導体を中心とした開発企画、製造サービスを提供させて頂いております。少量多品種生産やロット数百台といった中規模生産までを得意としており、製造中止に強い部品選定力など半導体商社ならではの付加価値を添えてお客様のニーズに応えていきますので、お気軽にお申し付けください。

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