DC/DCコンバータの自己消費電流と
軽負荷効率がシステム駆動時間に与える影響は?
超低自己消費電流降圧型DC/DCコンバータTPS62840のご紹介
Texas Instruments社のTPS62840 は、自己消費電流が60nA (typ) と極めて小さい、高効率の降圧型DC/DCコンバータです。TPS62840は自己消費電流が低いことに加えて、システム稼働時間をさらに延長するためにスイッチングを行わずハイサイドFETを常時オンとする100% dutyモードを備えており、その際の自己消費電流はわずか120nAです。また、パワーセーブ・モード(PFMモード)では、1μAという低い負荷電流まで高い効率を維持することができます。
今回は、TPS62840を使用した場合に既存製品と比べてどのくらいシステム稼働時間を延長できるのかを算出してみたいと思います。
DC/DCコンバータの軽負荷時の効率の影響は?
負荷の消費電力の算出
システム稼働時間を算出するにあたって、まずはDC/DCコンバータの効率の影響を見ていきたいと思います。効率を算出するためには負荷の消費電力(Pout)が必要となります。例えば、電源電圧1.2Vのマイコンが1mAを消費する場合は、消費電力は1.2mW (1.2V x 1mA)となります。
今回は、マイコンを周期的に動作させるケースを取り上げます。入出力電圧条件は、図1のように入力電圧3V、出力電圧1.2Vとします。負荷電流の変化は図2のように、周期をT、マイコン起動期間をt1、マイコン待機期間をt2とします。それぞれの値は以下のように設定します。
- ・マイコン起動時(t1)の消費電流:1mA、
- ・マイコン待機時(t2)の消費電流:1uA
- ・ T=100sec
- ・ t1=1sec
- ・ t2=99sec
t1, t2それぞれの期間の消費電力Pout(t1)、Pout(t2)は以下のようになります。
- ・Pout(t1) = 1.2V x 1mA = 1.2mW = 1200uW
- ・Pout(t2) = 1.2V x 1uA = 1.2uW
図1 DC/DC概略図
図2 Duty比について
DC/DCコンバータの入力電流の算出
次に、DC/DCコンバータの入力電流を算出します。入力電流を算出する際にはDC/DCコンバータの効率が必要となります。また、効率は負荷電流によって変動します。その為、t1、t2それぞれの期間で別々に入力電流を算出する必要があります。また、今回のケースでは一定周期で負荷電流が変動する為、平均値を算出する必要があります。
●t1期間の入力電流の算出
入力電流は以下の計算式で算出されます。

TPS62840の効率は図3より、負荷電流1mA時は85%、1uA時は73%となります。従って、1mA時の入力電流は471uA、1uA時は0.55uAとなります。これらの入力電流が周期Tでt1, t2の期間流れるので、平均電流は以下のようになります。
- Iin(t1) = 471uA x (1/100) = 4.71uA
- Iin(t2) = 0.55uA x (99/100) = 0.54uA
従って、入力電流の合計は、Iin(t1)+Iin(t2)=5.25uAとなります。
図3 TPS62840効率カーブ
出展:Texas Instruments TPS62840データシート
DC/DCコンバータの自己消費電流の影響は?
自己消費電流と入力電流の合計
入力電流は先ほど求めた通りですが、これとは別にDC/DCコンバータICの自己消費電流も加味する必要があります。これはIC固有のものであり、TPS62840の自己消費電流は60nA(typ)となります。TPS62840は2020年11月時点でTI社の中で最も自己消費電流が低い降圧型DC/DCコンバータとなります。その次に自己消費電流が低いものはTPS62746などとなり360nA(typ)となります。
TPS62746も同様に入力電流を求め、それに自己消費電流を加えて比較したものが図4となります。TPS62840はTPS62746と比べて軽負荷効率が高いため入力電流が低くなっています。しかし、それ以上に自己消費電流の影響が大きいことがわかると思います。
図4 TPS62840とTPS62746の合計電流比較
稼働時間の差分はどのくらいになる?
TPS62840を使用した場合とTPS62746を使用した場合の差分
最後に、電池を使用してシステムを動作させた際の稼働時間の違いを見ていきたいと思います。システム稼働時間は電池容量と入力電力を用いて以下の計算式で算出されます。

ここまでで計算してきた通り、TPS62840とTPS62746の合計電流は5.31uA、5.82uAとなります。電池は、電圧は3V、容量は1Whとします(計算を簡易的にする為に電圧は終始3Vで考えます)。それぞれの入力電力は以下のようになります。
- TPS62840入力電力 = 5.31uA x 3V = 15.9uW
- TPS62746入力電力 = 5.82uA x 3V = 17.5uW
従って、1Whの容量の電池を使用した際の稼働時間、稼働日数は以下のようになります。
- TPS62840稼働時間 = 1Wh / 15.9uW = 62794時間
- TPS62746稼働時間 = 1Wh / 17.5uW = 57288時間
- TPS62840稼働日数 = 62794時間 / 24時間 = 2616日
- TPS62746稼働日数 = 57288時間 / 24時間 = 2387日
上記のように、稼働日数の差分は229日となり、7ヵ月以上の差になることがわかりました。
まとめ
以上のように、降圧DC/DCコンバータの軽負荷効率と自己消費電流によって、電池で動くシステムの稼働時間に大きな差が生じます。これから部品選定をご検討されている方は、ぜひTPS62840を一度ご検討してみてはいかがでしょうか。
これまで計算してきた結果は表1にまとめてありますのでご参照ください。
表1 稼働日数計算結果
TPS62840シリーズのご紹介
本製品資料については以下より参照ください。
TPS62840
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