はじめに
ミリ波レーダーとは?
ミリ波とは波長が短い電磁波を使用したレーダー技術です。30GHzから300GHzの周波数帯の電磁波を送信し、物体に当たって反射して戻ってきた信号を用いて距離や速度、角度を計算して、物体を検知する技術になります。この電磁波は波長としては1mmから10mmになりますので、ミリ波と呼ばれております。

物体の距離や位置を検出する技術には、ステレオカメラや超音波や、光学を用いたToFセンサ等ありますが、ミリ波レーダーの利点としては、検出精度が高いこと、アンテナ含めサイズを小型にできること、また、暗闇や悪天候、極端な温度条件下、といった環境による影響に対して安定したセンシングを行う事ができるということが挙げられます。
ミリ波レーダーの技術については、
こちらも参照ください。
Texas Instruments社のミリ波レーダー製品の特長
従来製品との違い
従来の技術では、ミリ波レーダーのシステムを実現するために、レーダーの送受信を行うRF部分と、受信データをデジタル変換する部分、デジタルデータを計算処理する部分がそれぞれ別々の部品として存在しておりました。このため、システムとしてのサイズやコストが大きく、消費電力も高いという課題がありました。Texas Instruments社(以下、TI社)はこの課題に対して、CMOS技術を用いたミリ波レーダーのデバイスを検討し、これらの機能を1チップで実現できる製品を開発することができました。

また、TI社のミリ波レーダーでは、Frequency Modulated Continuous Wave (FMCW)という技術が使用されております。文字通り、周波数変調された連続波を使用して、距離や速度、角度を測定しております。
Texas Instruments社ミリ波レーダー製品のポートフォリオ
産業用途向けレーダー製品
TI社のミリ波レーダーチップは、大きくは車載用途と産業機器用途の2つに分かれます。型番としてAで始まるものが車載向け、Iで始まるものが産業機器向けとなります。今回は、産業機器向けのIWRシリーズの製品についてご紹介します。

上記の図の通り、まず、60GHz帯(60GHz-64GHz)に対応したIWR6xxxと77GHz帯(76GHz-81GHz)に対応したIWR1xxxxに分かれます。また、型番の下一桁は、送信アンテナの本数、下2桁目は受信アンテナの本数を示します。
内部ブロックについても図を参照頂ければと思いますが、FFT演算を行うハードウェアを内蔵したIWRx443、DSPを内蔵したIWR1642、両方を内蔵したIWRx843という形になります。
点線で囲まれたデバイスについては、ハードウェア的にピン互換であることを示しております。
なお、IWR6843には、アンテナをチップ上部に実装した、AoP(Antenna on Package)品も用意されております。
対象アプリケーション
産業用途におけるミリ波レーダーの代表的なアプリケーション
代表的なアプリケーションとして下記の通り、4つ挙げています。
まずは、タンク内の液体や粉末などを高精度に計測するレベルセンシングが挙げられます。小型の物から100m程度を検知する大型の物まで対応が可能です。
次に交通監視系です。信号機や道路標示などに搭載した例になりますが、屋外でも長距離かつ速度も計測できるので注目されております。
3つ目が、移動体においての衝突検知の用途になります。図の通り、ドローンやロボット、自走するAGVのようなアプリケーションでの活用が期待されます。
最後が、ビル内部や自動ドアにおける人の検知です。例えば、会議室やエレベータ内の人数カウントのようなものにも用いることもできるかと思います。ミリ波を使用した場合、ポイントクラウド(いわゆる点群データ)を取得するだけですので、監視カメラ等と違い、プライバシーの観点でも問題になりません。
デモ動画
実際の使用例についての動画についていくつか取り上げます。
こちらは、スプリンクラーで降雨をイメージした状態でのデモ動画になります。雨が降っていても、安定して物体を検知できることが動画から確認できるかと思います。
次はショートレンジセンシングとイメージセンサ(画像)を組み合わせた例になります。
駐車場における車の動きをポイントクラウドで表示できていることがわかるかと思います。
モジュール製品
Texas Instruments社製チップを搭載したモジュール製品について
ここまでは、TI社が提供しているチップ単体のお話しになりますが、アンテナを内蔵してパッケージングしたモジュール製品も他社から用意されております。
モジュールについては、別で用意がございますので、下記を参照ください。
ミリ波センサーはだれでもどこでも使えるの?
さいごに
評価環境について
最後にTI社が用意する評価環境の一部を紹介します。
ハードウェアとしては、下記のようなボードが用意されております。

ソフトウェアとしては、下記のようにGUIツールとSDK(Software Development Kit)が用意されており、これらはTI社のサイトから無償でダウンロードすることが可能です。(my.TIへのユーザー登録が別途必要)
その他
TI社のミリ波レーダー製品について紹介させて頂きました。
製品については、下記のブローシャについてもご確認頂き、不明点等があれば、お問合せ頂ければと思います。
各種資料はTI社にも用意がございますし、以下のようにトレーニング動画も多数用意されていますので、併せてご確認頂ければと思います。