• 公開日:2018年04月20日
  • | 更新日:2022年11月21日
ステッピングモーター

ステッピングモーターの制御で重要な“Decay(電流減衰)”って知っていますか?~第ニ部:AutoTune™~

はじめに

先月に続き、今回はTexas Instruments社(以下、TI社)が開発したAutoTune™というDecay(電流減衰)技術を紹介します。

第一部では、ステッピングモーターにおけるDecayの重要性を説明しました。本記事では、TI社のAutoTuneの仕組みや優位性を説明していきます。

まだ第一部を読んでいない方は是非一度こちらをご覧ください。

ステッピングモーターの制御で重要な“Decay(電流減衰)”って知っていますか?~第一部:Decayとは~

AutoTuneとは?

モーター・ドライバはステッピングモーターのコイル電流が目標の電流値になるように、チョッパー出力を繰り返します。前回でも説明しましたが、モーターコイル電流を減衰させる行為をDecayと言います。下図の赤線はFast Decay、青線はSlow Decayが実行されている部分です。

AutoTuneは、一つ前のチョッパー出力での状況を見て、次のDecayに対して、モーター・ドライバが自動的に最適な設定を選択して実行します。これにより、「正確な電流制御」や「Decayチューニング不要」等のメリットを提供します。

AutoTune
図1. AutoTune(出典:Texas Instruments Inc. DRV8846 Datasheet)

AutoTuneのメリット

メリット1:正確な電流制御

スムーズなStep移行

次のステップに移る際、Fast Decayの割合を上げることにより短い時間で次のステップに到達することができます。これは従来のDecayに比べて、モーターを高速に回転させても、目標の電流に対してより正確に電流制御ができるメリットがあります。

ステップ移行時の比較
図2. ステップ移行時の比較(出典:Texas Instruments Inc. SLYY066ホワイト・ペーパー)

トルクアップ

AutoTuneは状況に応じてFast DecayとSlow Decayの割合を変化させるため、割合が固定設定である従来のMixed Decayに比べて、Fast Decayの使用を最小限にすることができます。これにより電流リプルが小さくなり、平均電流を上げ、結果的にトルクをアップさせることができます。

電流リプルの比較
図3. 電流リプルの比較(出典:Texas Instruments Inc. SLYY066ホワイト・ペーパー)

低電流レギュレーションでも正確な制御

ステップアップ時の低電流制御(ほぼ0Aの制御)をSlow Decayのみで行うと、Decayでのエネルギー放出分よりFET ONによるエネルギー供給分が多くなり、その結果、目標の電流値から外れていってしまう場合があります。AutoTuneは状況に応じてFast Decayを入れるため、低電流制御時にも目標値付近で制御することができます。

低電流制御時の比較
図4. 低電流制御時の比較(出典:Texas Instruments Inc. SLYY066ホワイト・ペーパー)

メリット2:Decayチューニング不要

AutoTuneは駆動中に下記パラメータが変化したとしても、自動でFast DecayとSlow Decayの割合をリアルタイムに修正して追従することができます。

  • 供給電圧
  • 負荷インダクタンス
  • 負荷抵抗
  • ステッパモータの逆起電力(BEMF)の割合
  • レギュレーション電流(トルク)の大きさ

この機能を用いれば様々なモーターやその駆動状況においても最適なDecayで常時駆動することが出来ます。下記は、従来Mixed Decay使用時の最適な電流減衰が行われなかった場合の電流波形とAutoTune使用時の電流波形とを比べた例です。

BEMFにより歪んだ電流波形となめらかな電流波形
図5. BEMFにより歪んだ電流波形となめらかな電流波形
(出典:Texas Instruments Inc. SLYY066ホワイト・ペーパー)

メリット3:高いパワー効率

AutoTuneでは、出来るだけSlow Decayの割合を多く使うことにより高効率化に貢献しています。Slow Decayを多く使うことは、スイッチングロスを最小限に抑え、ローサイドFETを常に使うことでパワーの効率を上げることにつながります。

下図は、従来のMixed DecayとAutoTuneを比べた図です。青がコイル電流で、黄・ピンクがHalf-bridgeの出力電圧波形です。水色の枠で囲われた部分でAutoTuneのほうがピンクのパルスが少なくなっています。ピンクのパルスはFast Decayを使っている瞬間を示しています。つまり、AutoTuneの方がFast Decayを少なめにし、Slow Decayを多めに使っていることがわかります。

従来のMixed DeacayとAutoTuneの効率比較
図6. 従来のMixed DeacayとAutoTuneの効率比較
(出典:Texas Instruments Inc. SLYY066ホワイト・ペーパー)

その4:ノイズ低減

電流リプルが小さいことによりモーター駆動におけるノイズを低減します。

下記は、TI社製のモーター・ドライバDRV8880を使って、同じモーターをDecay設定のみを変えて駆動させた時の波形です。Mixed Decay時に比べ、 AutoTuneの方が、電流リプルが小さい(=ノイズが少ない)ことがわかります。

Mixed DecayとAutoTuneの電流リプル比較
図7. Mixed DecayとAutoTuneの電流リプル比較

2つのAutoTune

AutoTuneにはDynamic DecayとRipple Control Decayの2種類のモードが用意されています。

いずれも前回スイッチング時の情報から最適な設定を選択し、実行するのですが、Ripple Control Decayは、トップ電流だけでなく、バレー電流も見ています。それによりDynamic Decayよりリプルを小さくすることができますが、スイッチング周波数の変動は大きいです。一方、Dynamic Decayは電流リプルがRipple Control Decayより大きいものの、スイッチング周波数の変動は小さいです。

Dynamic DecayとRipple Control Decay
図8. Dynamic DecayとRipple Control Decay
(出典:Texas Instruments Inc. DRV8886AT Datasheet)

要するに、どっちも一長一短です。では、どういう時にどちらのモードを使ったらいいのでしょうか?

基本的には平均電流を高くすることができる(=トルクアップできる)Ripple Control Decayがオススメです。その半面、スイッチング周波数の変動が大きいので、それを嫌うのであればDynamic Decayがいいでしょう。

電流波形の比較

以下の図はTI社製のモーター・ドライバDRV8886ATを使って、同じ条件(24V, 600mA, 1000pps, 1/16step)で同じモーターを駆動させた時の各モードの電流波形を測定した結果です。Ripple Control Decayの波形が最も電流リプルが小さくなめらかに電流制御できています。

Mixed Decay(Fast 30% / Slow 70%)の波形
図9. Mixed Decay(Fast 30% / Slow 70%)の波形

 AutoTune(Ripple Control Decay)の波形
図10. AutoTune(Ripple Control Decay)の波形

AutoTune(Dynamic Decay)の波形
図11. AutoTune(Dynamic Decay)の波形

AutoTune搭載モーター・ドライバ ラインナップ

下記の表はAutoTuneを搭載したモーター・ドライバのラインナップです。

DRV8846 DRV8880 DRV8881E DRV8886AT
モーター電圧 4~18V 6.5~45V 6.5~45V 8~37V
ピーク電流(OCP閾値) 2A 2.5A 2.5A 3A
インターフェイス Step/DIRタイプ
(CLKINタイプ)
Step/DIRタイプ
(CLKINタイプ)
Phase/Enableタイプ Step/DIRタイプ
(CLKINタイプ)
Dynamic Decay
Ripple Control Decay

モーター・ドライバの選定などでお悩みの際には、組込み技術ラボのモーター・ドライバのフォーラムに投稿していただければ弊社のエンジニアから回答、提案させていただくことが可能ですし、定期的に開催しているオープンセミナーに参加いただき、弊社エンジニアにご相談いただいくことも可能です。

まとめ

全2回にわたって、Decayの重要性とTI社独自のAutoTuneの優位性を説明しました。

Decayはステッピングモーターを駆動する上で必要となる制御ですが、適切な制御をしないと正常に回らなかったり、十分なトルクを得られなかったりしてしまいます。しかし、Decayの制御をマニュアルで設定するのはとても煩雑です。

AutoTuneはこれらの課題を解決することができます。TI社のAutoTuneを使ってステッピングモーターを簡単かつ効率的に回してみませんか?

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※:AutoTune™はTexas Instruments社の商標です。