- 公開日:2020年08月14日
- | 更新日:2024年03月14日
屋内測位の新技術 AoAとAoDとは?
- ライター:Eri
- センサー
はじめに
屋内測位とは?
屋内測位とは、文字通り「屋内で位置を測定する」ものになります。近年、施設や工場等の屋内で人の追跡をしたい、という要望があります。屋外であればGPS機能が活用できますが、GPSは人工衛星を活用した技術であるため、屋内での計測には向いていません。屋内には屋内用の技術が必要になるのです。
屋内測位の新技術
2019年Bluetooth Core Specification 5.1(以下、Bluetooth 5.1)が発表され、「方向検知機能」、つまりは電波が来た方向が分かるオプション機能が追加されました。従来のBluetoothによる屋内測位精度は、メートル単位と言われていましたが、この新機能を使えばセンチメートル単位での測位が可能と言われています。AoAとAoDと呼ばれる2種類の方向検知機能がありますので、それぞれ説明していきます。
AoA・AoDの概要
AoA・AoDとは?
Bluetooth 5.1で発表された「方向検知機能」の技術には2種類あり、それぞれAoA・AoDと呼ばれています。AoAはAngle of Arrivalの略になり受信角度を意味し、AoDはAngle of Departureの略で放射角度を意味しています。
AoAは、単一アンテナの発信機が、複数アンテナの受信機に信号を発信します。受信機の各アンテナ間には距離があるため、位相の異なる信号を受信することができ、その位相差より角度を計算することができます。AoDはその逆で、発信側を複数のアンテナにすることで、各アンテナから出された信号を受け取り、位相差から対象の角度を計算することができます。
AoAの場合は、図のように複数のアンテナをスイッチしながら測定することになります。各アンテナは一直線に配置するため、隣接するアンテナ間の位相差は一定になります。これらの位相差より角度を計算します。
AoAによる距離の算出例
AoAで角度は分かりますが、実際に対象物の距離を測るにはどうしたらいいのでしょうか?AoAの例を用いて説明していきます。
AoAを用いた距離の算出
複数アンテナの受信機2つを任意の位置に置きます。Xは受信機間の距離になるので、既に知っている値になります。ここで電波を受信するとAoAによって送信機の角度A,Bが得られ、Cの角度も計算することができます。(A+B+C=180°)
受信機から対象物(送信機)までの距離YやZは、正弦定理を使えば得ることができます。
X, A, B, Cが分かっていることから、送信機までの距離YやZが求められることになりますね。
実用化に向けて
上記の例は2次元を想定して説明しました。実用化に向けては3次元を想定する必要もありますし、精度向上のためにはRSSIやToFも併せて利用する手法があります。また位相情報から角度を算出する方法にも様々な工夫があるようで、各ベンダーや開発会社で様々なアルゴリズムを考えていると思います。昨年発表されたばかりの新技術になりますので、今後の動向が気になるところです。
既存の屋内測位技術
ビーコンによる屋内測位
Bluetooth Low Energy(以下、BLE)やWi-Fi等で用いられる方法になります。電波を送信する固定装置(ビーコン)をいくつか屋内に配置します。アルゴリズムは様々ですが、電波強度から最も近いビーコンの位置を特定し、そのビーコンの位置を現在位置とする手法や、電波強度から距離を推定し、三点測量を用いて対象物の位置を推定する方法があります。物量で的確に測位することが可能ですが、コストがかかったり、電波の干渉に気を付けたりする必要があります。
三点測量のイメージ図
(3辺の情報があれば受信機の位置が分かる)
BLEでは最もメジャーな測位方法だと思いますが、精度は数メートル単位と言われており、数センチ単位の検出は難しいようです。また三点測量を使用する場合は、最低3個のデバイスが必要になりますが、AoAは2個のデバイスで屋内測位を実現できます。
UWBを用いた屋内測位
超広帯域無線通信(Ultra Wide Band)を用いた測位技術です。センチメートル単位の精度が見込まれ、消費電力も低いため、既存ソリューションの中でも非常に有力なものになります。送信デバイスをいくつか屋内に配置し、ToFによる測位がメインになるようです。超広帯域(日本では3.4~4.8GHz, 7.25~10.25GHz)を使用している特殊な技術になるため、UWB受信用のタグが必要になります。
民生機器に沢山使われているのがBluetoothのメリットになっており、AoAはビーコンやUWBと共存していくものと考えています。
AoA・AoDを用いたアプリケーション例
工場内の従業員・資材の追跡、レジャー施設の顧客追跡
工場の従業員や資材にBLEのタグをつけておき、それらを追跡します。資材の位置や流れを正確に把握しつつ、従業員が危険な区域に入ってしまう前に警告することができます。
レジャー施設では、お客様の位置を追跡し、滞在時間のデータ化、その場にあったサービスの提供、混雑状況の把握等もできるでしょう。
美術館の展示情報表示
屋内測位とは異なる技術になりますが、AoAはデバイスの角度が分かる技術になるため、例えばスマフォが向けられている、といったことも認識することができます。美術館の展示品にスマフォを向けると、その展示品の情報を表示させるといったことが可能になるかもしれません。これらはPOI(Point Of Interest)情報とも呼ばれますが、興味のあるものにスマフォを向けると沢山の情報が表示される、そんな時代もくると思います。水族館や動物園、デパートの売り物とかにも使えそうですね。
Texas Instruments社 AoAデモが可能な評価ボード
Bluetooth 5.1(AoA)対応 LAUNCHXL-CC26X2R1
TI社ワイヤレス・マイコンの評価ボードになります。無償でAoAのサンプルソフトウェアが提供されており、次のアンテナボードと組み合わせることで角度検出のデモが確認できます。
AoA用のアンテナボード BOOSTXL-AOA
複数のアンテナを搭載したボードで、上記のボードと接続して使用するものになります。
さいごに
今回は、屋内測位の新技術になるAoA・AoDについて説明しました。AoAやAoDは様々なサービスへ応用できる可能性があり、非常に注目されている技術になります。私はBluetoothイヤホンの片耳だけをよく無くしてしまうので、スマフォですぐに見つけられるようなものを作ってほしいですね!
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