• 公開日:2020年08月17日
  • | 更新日:2022年11月21日

超音波流量計とは

はじめに

超音波は人間の耳で聞こえる「可聴音」と同じ振動現象であり、その特徴も可聴音との共通点が多いです。例えば、気体、液体、固体などの「媒質」を伝わってゆきます。その伝わる速度は媒質ごとに異なり、また、速度の異なる媒質へ当たると反射が起こります。

一方で可聴音と異なり、超音波は20kHzよりも高い周波数の音とされています。この周波数が人間の耳に聞こえないことはご存じかもしれませんが、他の特徴として、指向性が鋭いことが挙げられます。

この超音波は測定に応用することが可能で、例えば、パイプの中を流れる液体や気体の流量計を作ることができます。ここでは超音波による流量計について紹介したいと思います。

超音波の概要はこちらもご参考いただけます:

超音波流量計の分類

パイプの中を流れる媒体の流量は、パイプの断面積と流速から求めることができます。

流量 = パイプ断面積 * 流速

上記より、パイプ断面積は定数と考えて、まずは流速を測定すれば流量を求めることができます。流速を超音波によって測定する代表的な方法として、ドップラー式と伝搬時間差式があります。いずれの方法も可動部品が無く、パイプ内の障害物が少ないため、長寿命と言われております。

ドップラー式

ドップラー効果を利用して流速を求める方法です。

ドップラー効果とは、音の送信側と受信側の距離が変化するとき、受信する音の高さ(周波数)も変化する現象です。

流量計の場合は、超音波をパイプ内の媒質へ送信すると、移動している媒質中の気泡、粒子、あるいはごみなどで超音波が反射するのですが、この反射波はドップラー効果の影響を受けて、周波数が変化します。よって、受信できた周波数から流速を求めることができます。

このドップラー式は、下水や汚泥など、超音波を反射する物体を含んでいる媒質へ利用されております。

図: 超音波流量計 (ドップラー式) の説明図

伝搬時間差式

パイプの上流から下流へ超音波を流すと、媒質の流速の分だけ音速が速くなることを利用して、媒質の流速を求めます。

図: 超音波流量計 (伝搬時間差式) パイプ部分の構成図

上図のように、パイプの上流と下流へ超音波の送受信器を取り付けて、超音波の伝搬時間から音速を求めます。ただし音速は温度によって変動するため、測定結果の誤差となります。この誤差への対策として、伝搬時間の測定は上流から下流(T12)のみでなく、逆方向の下流から上流(T21)でも行われます。2つの伝搬時間から音速を消去し、媒質の流速をより正確に求めることができます。

伝搬時間差式

伝搬時間差式による超音波流量計の構成例を示します。

図: 超音波流量計 (伝搬時間差式) の構成図

上図のように、パイプの上流と下流へ超音波の送受信器を取り付けて、送受信器1から2、反対に送受信器2から1へ超音波を送受信したときの伝搬時間をそれぞれT12、T21とします。この時、T12とT21は以下の式で表すことができます:

T12 = L / (c+v)   ・・・(1)

T21 = L / (c-v)   ・・・(2)

ただし、

c=超音波の速度、

v=媒質の流速、

L=超音波の経路のうち、媒質の流れる方向に沿った長さとします。媒質の流れる方向と垂直な経路の長さは無視します。

上記の(1)ならびに(2)より、超音波の速度 cを消去して 流速 vを求めることができます。

v = L/2 * (1/T12 – 1/T21 ) = L/2 * (ΔT) / (T21*T12)

ただし、 ΔT = T21 – T12

さて、上記を元に送受信の時間差T12とT21を測定します。送受信のタイミングを測定するためには、送信と受信のタイミング信号が必要です。送信のタイミング信号は制御回路から得られるため問題ないのですが、受信のタイミング信号を得るためには工夫が必要です。

可能であれば受信信号の先頭のタイミングを検出したいところなのですが、受信信号は送受信器や媒質を経由する過程で変形し、下のイメージ波形の通り先頭部分の振幅が小さいため、先頭部分のタイミングを直接的に検出することができません。よって、波形から他部分のタイミングを検出する必要があります。

図: 受信波形のイメージ

上記のような波形から受信のタイミングを検出する方法を3種類ご紹介します:

ゼロクロスを検出する方法

受信した波形の振幅がしきい値の電圧を超えており、かつゼロを通過したタイミングを受信タイミングとみなします。この方法で伝搬時間T12とT21を個別に求め、その後に伝搬時間の差 ΔT = T21 – T12 を求めることができます。

図: 受信波形からゼロクロスを検出するイメージ

受信波形をAD変換する方法

受信波形をAD変換によってメモリへ格納し、デジタルの後処理によって受信タイミングを判定します。

包絡線を生成し、しきい値を探索する方法

受信波形をAD変換して、デジタルの後処理によって各サイクルのピーク値を結ぶと包絡線を得ることができます。この包絡線がしきい値を超えた瞬間を超音波の受信タイミングとします。この方法で伝搬時間T12とT21を個別に求め、その後に伝搬時間の差 ΔT = T21 – T12 を求めることができます。

図: 受信波形のイメージ

図: 受信波形のAD変換データから包絡線を生成することで受信タイミングを探索する例

[精度向上への工夫]

メモリ上の受信波形を後処理するため、受信タイミングを判定するしきい値は、定数ではなく後処理で決定することが可能です。例えば、部品の個体差や環境変化によって信号振幅が変化する場合でも測定結果を安定化させる目的で、後処理によって包絡線最大値の10%を算出し、しきい値として使うことができます。

2波形の時間差をAD変換後に直接比較する方法

送受信器1から2へ超音波を伝播させたときの受信波形を波形1、反対に送受信器2から1へ超音波を送受信したときの受信波形を波形2とします。両方の受信波形をAD変換してメモリ上へ格納し、時間差を波形同士で比較します。下図の例では、波形1の時間をシフトしながら、波形2との相関が最大となるシフト量を探索します。この時の時間シフト量が時間差ΔTとなります。

図: 波形1と波形2の時間差を探索する様子

[精度向上への工夫]

この方法で得られる時間差の解像度は通常サンプリング周期1サイクル分となりますが、さらに補間を使うことで、時間差の解像度をさらに高めることが可能です。

まとめ

今回は、超音波流量計の代表的な方式をご紹介いたしました。その中でも代表的な伝搬時間差式についてはさらに詳しくご説明をいたしました。波形をAD変換する方法はメモリ上で後処理が可能であり、今後も性能向上が期待できると思われます。