• 公開日:2020年10月05日
  • | 更新日:2022年11月21日

数アンペアの定電流回路

  • ライター:短絡亭過電流

とあるお客様からこのような御相談を頂きました。

「12Vのバッテリーへ充電したい。2Aの定電流で。 因みに放熱部品を搭載できるスペースは無い。」

いやぁ~、またハードなご要求を頂きました。

一般的に定電流回路というと、バイポーラトランジスタを用いた「カレントミラー回路」が有名です。下の回路図は、PNPトランジスタを用いたカレントミラー回路の例です。

この回路はRIADJの値を変えることで、ILOADを調整出来ます。
もしこれをマイコン等にて自動で調整する場合は、RIADJをNPNトランジスタに変更し、そのトランジスタをオペアンプとD/Aコンバーターで駆動することで可能になりますね。

お手軽に構成できるカレントミラーですが、大きな欠点があります。
バイポーラトランジスタを駆動する場合、コレクタ-エミッタ間には必ずサチュレーション電圧(VCE(sat))が発生します。VCE(sat)はベース電流により変化します。
VCE(sat)とコレクタ電流Icの積がそのまま発熱となるので、何とかVCE(sat)を下げます。一般的な大電流トランジスタの増幅率(hfe)は凡そ200(Max)程度ですが、そのままだとVCE(sat)は数Vにまでなるため、ベース電流Ibを増やしhfeを下げます。
では、どこまでhfeを下げればよいか?
とあるPNPトランジスタのデータシートでは、VCE(sat)を100mVまで下げるには、hfe=30との記載がありました。つまり、Ib=Ic/hfe=2A/30=66.7mAです。また、バイポーラトランジスタは熱によりその特性が大きく変化するので、余裕を鑑みてIb=100mA程度を確保しようとすると、エミッタ-ベース間での消費と発熱が顕著になります。
カレントミラー回路を並列に配置すれば熱は分散されますが、当然ながら部品数、及び実装面積は大きくなります。

今回は電流2A、かつ放熱部品無しという条件です。
カレントミラー回路だと ほぼ確実に発熱、又は実装面積においてトラブルが起こりますね^^;

さて、カレントミラー回路ではが使用できないことが分かりました。
それを踏まえた設計上の課題はこちら。
・発熱を少なくする → 電源効率を高くする
・電流の導通をバイポーラトランジスタではなく、FETにする → VCE(sat)の影響を排除する
・出力側の電圧(最大12V)が0Vでも10Vでも、定常的に2Aの電流を出力し続ける

そこで、スイッチングレギュレーターによる定電流回路を設計してみました。
その回路がこちら!

“出典:Texas Instruments – TINA-TI 『TPS54561とINA253による定電流出力回路』”

非同期式降圧スイッチングレギュレーター(TPS54561)と電流センスアンプ(INA253)を組み合わせてみました。
https://www.tij.co.jp/product/jp/TPS54561
https://www.tij.co.jp/product/jp/INA253
INA253は電流検出抵抗が内蔵されており、入力電流に対する出力電圧の関係が100,200,400mV/A(型式により選択)と、直感的にわかりやすい仕様になっています。
TPS54561の内部基準電圧(Vref)は0.8Vなので、2Aの電流で0.8Vが出力されるよう、INA253の周辺定数を設定する必要があります。

その結果がこちら!

シミュレーション時間は3秒ですが、電流が2Aでコンスタントに流れ込み、10-Fのコンデンサの電圧が一定の傾きで上昇しているのが分かります。

これは、成功と言って良いんではないでしょうか!

今回の要求は、出力側の電圧の最大値(目標値)が12Vなので、12Vに到達した時点でスイッチングレギュレーターのEnableをLowに引き下げる回路を追加すれば完成です。
入力が消失した場合を考え、充電先のバッテリーからの逆流を防ぐため、ダイオードを入れています。
また、回路の効率を上げたい場合には、スイッチングレギュレーターを同期整流にし、逆流防止ダイオードをFETに変更(※コントローラが必要)します。
注意点としては、バッテリーの電圧が上がるに連れDutyが広がっていくので、インダクタ電流のリップルが大きくなっていきます。インダクタの飽和にお気を付けください。

「こんな回路を実現したい!」との要望がありましたら、是非弊社エンジニアへご相談ください!

当記事のTINA-TIシミュレーションファイルのダウンロードはこちらから!
※このシミュレーションモデルは、実機での動作を保証するものではありません。ご検討の際は、実機での十分な動作検証をお願いします。
また、このファイルのシミュレーションの実行時間は非常に長く、一昼夜かかります。この点ご了承ください。