• 公開日:2020年10月08日
  • | 更新日:2024年03月14日

静電気でICが壊れてしまう。何とかしたい方へ

電子機器の試作も終盤にさしかかり、「ESD試験を行ったら通らない」あるいは、「製品を出荷したらなぜかICが壊れて戻ってくる」
こんな経験はありませんか?それはESD対策部品が適切に使用されていないことがあります。

本記事ではESDの原理の説明からESDダイオードについて解説します。

ESDとは

ESDは、静電気の放電でElectro Static Dischargeの略です。2つの物体が接触すると、1つの帯電した物体から別の物体に電荷が移動します。

真冬に金属のドアノブや車のドアを触って衝撃を受けることがありますが、これはESDの一例です。この時、数kVの電圧が発生しますが、人間の場合は痛みを感じるだけで、傷になったりすることはあまりありません。

それに対して、集積回路(IC)はESDに敏感です。ESDの高いピーク電圧と電流がICに破壊を引き起こす可能性があります。

多くの場合、ESDは外部と接続される信号ラインや電源ラインから侵入します。ESDの保護回路がシステムにない場合、外部からのESDの高電圧により、大きな電流スパイクがICに直接流れます。そして、損傷を引き起こします。静電気に敏感なICをESDから保護するためには、ESDダイオードを外部コネクタとICの間の各信号線に接続する必要があります。

ESDが発生した場合、ESDダイオードは導通して低インピーダンスの経路を作成し、電流をグランドに流すことによってピーク電圧と電流を制限し、ICを保護します。

図1 ESDダイオードの有無によるESDの経路

図2 ESDダイオードの有無による電圧の違い

出典:Texas Instruments https://www.tij.co.jp/jp/lit/sg/sszb130c/sszb130c.pdf?ts=1602130776515

なぜESDダイオードを使用するのでしょうか。

微細プロセスで製造されたICは、放電デバイスモデル(CDM)や人体モデル(HBM)などのデバイスレベルのESD仕様があります。しかし、デバイスレベルのESD仕様だけでは、システム内のデバイスを保護するには不十分です。

システムレベルのESDに関連するエネルギーは、デバイスレベルのESD仕様よりもはるかに大きくなるからです。この過剰なエネルギーから保護するには、より堅牢な設計が必要になります。

ここで対策を三つ考えてみます。

まず考えられる対策は、ICの中にシステムレベルのESD保護を実装するための回路を内蔵させることです。
この場合、必要なシリコン領域は、デバイスレベルのHBMおよびCDMの仕様を満足させる面積よりもはるかに大きくなります。シリコン面積が大きくなると、コストアップにつながります。
ICの製造プロセスが小さくなるにつれ、十分なシステムレベルの保護をマイクロコントローラーやアナログICの中に入れることがますます困難になり、コストがかかります。

次に、システムレベルのESD保護は、個別のディスクリート部品を追加することで実現できます。ただし、部品サイズが大きくなり、レイアウトが複雑になり、高いデータレートでの伝送特性が損なわれます。

最後にテキサスインスツルメンツ(TI)のESDデバイスは、省スペースで費用効果の高いソリューションを提供し、USB3.0やHDMI等の高速インタフェース伝送特性を維持しながら外部のESDからシステムICを保護することができます。

図3 デバイスレベルとシステムレベルのESDの違い

 

図4 ESD耐圧によるシリコン面積の違い

 

出典:Texas Instruments https://www.tij.co.jp/jp/lit/sg/sszb130c/sszb130c.pdf?ts=1602130776515

 

また、ESD保護は、システム設計の最終段階で検討されることがよくあります。
設計者は、基板レイアウトの大幅な変更や、基板サイズの変更が必要にならないESDデバイスを選択することが必要になります。

フロースルーパッケージを備えたTIESDダイオードを使用すれば、基板レイアウトの変更は必要ありません。

*フロースルーパッケージとは、信号ラインの上に取り付けられるパッケージのことを示しています。

図5 フロースルーパッケージの実装イメージ

出展:Texas Instruments – https://www.tij.co.jp/jp/lit/sg/sszb130c/sszb130c.pdf?ts=1602130776515

TIのESDダイオード

TIでは様々なアプリケーションに適合したESDダイオードがあります。

(1)オーディオ信号

オーディオジャックやコネクタがESDの入力になるため、ここに設置します。
オーディオ信号入力は、アンプの前段に接続されますが、±5Vを超えることはありません。一方、スピーカーにつながるアンプの後段では高い電圧になることがあります。オーディオ信号のため、30kHzを超えることがないため、ESDダイオードの容量を気にしません。
また、オーディオ信号はしばしばGND基準で±に出力されるため、双方向タイプが必要になります。

図6 オーディオ信号ラインの保護

出展:Texas Instruments – https://www.tij.co.jp/jp/lit/sg/sszb130c/sszb130c.pdf?ts=1602130776515

 

表1 オーディオ信号に使用するESDダイオードの例

デバイス ピーク
逆動作電圧VRWM
(V)
IEC61000-4-2
ESD Rating(kV)Contact/Air Gap)
容量
(F)
チャンネル パッケージ
サイズ(mm)
パッケージ
TPD1E10B09DPY ±9 20/20 10 1 1.0×0.6 X1SON (2)
TPD1E1B04DPY ±3.6 30/30 1 1 1.0×0.6 X1SON (2)
TPD2E1B06DRL ±5.5 10/15 0.85 2 1.6×1.2 SOT5x3(6)
TPD2E007YFM ±12 8/15 15 2 0.77×0.77 DSLGA(4)

 

(2)SDカード、SIMカード

SDカードは7ピンあります。データピン(DAT0、DAT1、DAT2、DAT3)、クロックピン(CLK)、I/OコマンドピンおよびVDD(2.6~3.3V)ピンです。SDカードへの書き込み速度は、最大で90Mbpsです。このためESDダイオードの容量は最小化する必要はありません。SIMカードも同様となります。

また、SDカードは非常に小さいため、ESDダイオードはできるだけ小さいものが必要とされます。

図7 SDカード、SIMカードの信号ラインの保護

出典:Texas Instruments – https://www.tij.co.jp/jp/lit/sg/sszb130c/sszb130c.pdf?ts=1602130776515

 

表2 SDカード、SIMカードに使用するESDダイオードの例

デバイス ピーク
逆動作電圧
VRWM(V)
IEC61000-4-2
ESD Rating(kV)(Contact/Air Gap)
容量
(pF)
チャンネル パッケージ
サイズ(mm)
パッケージ
TPD4E101DPW ±5.5 15/15 4.8 4 0.8×0.8 X2SON(4)
TPD1E6B06DPL ±5.5 15/15 6 1 0.6×0.3 X2SON(2)
TPD1E04U04DPL 3.6 16/16 0.5 1 0.6×0.3 X2SON(2)

 

(3)USB2.0

USB2.0は4ピン(VBUS、D+/D-、GND)で構成されます。

VBUSピンは5Vが伝送され、D+/D-ピンは480Mbpsを伝送します。VBUSに使用するESD保護は、5Vでブレークダウンが起きないようにする必要があります。D+/D-のデータラインに対するESDダイオードについては、480Mbpsの伝送ができるような容量値にする必要があります。

図8 USB2.0信号ラインの保護

出典:Texas Instruments – https://www.tij.co.jp/jp/lit/sg/sszb130c/sszb130c.pdf?ts=1602130776515

 

表3 USB2.0に使用するESDダイオードの例

デバイス ピーク
逆動作電圧
VRWM(V)
IEC61000-4-2
ESD Rating(kV)(Contact/Air Gap)
容量
(pF)
チャンネル パッケージ
サイズ(mm)
パッケージ
TPD1E10B06DPY ±5.5 30/30 12 1 1.0×0.6 X1SON(2)
TPD1E05U06DPY 5.5 12/15 0.5 1 1.0×0.6 X1SON(2)
TPD1E1B04DPY ±3.6 30/30 1 1 1.0×0.6 X1SON(2)
ESD122DMX ±3.6 18/18 0.2 2 1.0×0.6 X2SON(3)
TPD2E1B06DRL ±5.5 8/15 0.85 2 1.6×1.2 SOT5x3(6)

 

(4)USB Type-CTM

USB Type-CTMは、24ピンで構成され、USB 3.1 Gen2, DisplayPort, HDMI等さまざまのオルタネーティブモードをサポートすることができます。

高速のUSB3.1 Gen2Tx1+Tx1–Rx1+Rx1–Tx2+Tx2–Rx2+およびRx2–)は最大で10Gbpsに達するため、ESDダイオードの容量は低いものが要求されます。CC1CC2 SBU1SBU2ピンは、5.5Vまで達しますが、一方で高速ではないため低容量は要求されません。

図9 USB Type-CTM信号ラインの保護

出典:Texas Instruments – https://www.tij.co.jp/jp/lit/sg/sszb130c/sszb130c.pdf?ts=1602130776515

表4 USB Type-CTMに使用するESDダイオードの例

デバイス ピーク
逆電圧動作VRWM
(V)
IEC61000-4-2
ESD Rating(kV)(Contact/Air Gap)
容量
(pF)
チャンネル パッケージ
サイズ(mm)
パッケージ
ESD122DMX ±3.6 18/18 0.2 2 1.0×0.6 X2SON(3)
TPD1E05U06DPY 5.5 12/15 0.42 1 1.0×0.6 X1SON(2)
TPD1E01B04DPY ±3.6 15/17 0.18 1 1.0×0.6 X1SON(2)
TPD4E02B04DQA ±3.6 12/15 0.25 4 2.5×1.0 USON-10

 

最後に

ESDからICを適切に保護するためには、外付けのESDプロテクションダイオードを使用することが必要になります。
また、TIでは、システムにより最適なESD保護素子を選定いただくことができます。
興味のある方は、弊社にご連絡ください。

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