• 公開日:2020年11月26日
  • | 更新日:2022年11月21日

サージに適切に対応したい方へ TVSダイオードの使い方

先進のプロセスルールを使用した集積回路(IC)を使用した産業機器が増えるにつれて、より堅牢でスペース効率の高い回路保護の需要が高まっています。CPUFPGA等、nmプロセスのICが登場し、処理能力は向上しましたが、反面、産業機器でよくみられる外部ストレスの影響を受けやすくなりました。
産業機器は製品寿命が長く、民生品よりも厳しい環境で動作します。このため、ほとんどの産業機器は、IEC61000-4-5のサージ保護やIEC61000-4-2の静電気放電(ESD)保護等の規格を満足する必要があります。
また、サージの電力はESDの電力よりもはるかに大きいため、ESDダイオードで保護することができず、専用のTVSダイオードが必要になります。

本記事では、サージの説明からTITVSダイオードについて解説します。

サージとは

TVSの話をする前に、サージを理解しておく必要があります。
サージは、過大な電圧のことを言い、雷サージ、開閉サージの2種類があります。

雷サージとは、落雷時に発生するものです。
開閉サージとは、遮断機を開閉したときに発生するものです。
また、雷サージ、開閉サージの誘導により2次的にサージが発生します。

サージが発生する環境としては、以下のようなものが考えられます。

・屋外で操作される機器
・高電流または高電圧で動作する電源入力
・頻繁な負荷の変化
・ホットプラグイベントの発生が予想される機器
・近くの高出力機器から誘導サージが発生する可能性が高い長いケーブル
・他のシステムと並行して実行されるケーブル接続を備えたシステム(たとえば、配線ダクト)
・カーバッテリーに接続する自動車用機器

雷によって誘発されるサージは、屋外の機器や回路に直接結合した雷です。雷によって誘導される磁界、接地から結合されるGNDの乱れ等があります。
サージは、一般的な静電放電(ESD)とは異なり、長い周期と高い電力を持っています。
このため、ESDダイオードでは処理ができないためTVSダイオード等の素子が使用されます。

IEC61000-4-5では、機器がサージに耐えられるかどうかを評価するための標準的な試験の規格を提供しています。

サージ波形の特徴

すべてのサージは電流成分と電圧成分の両方で構成されているため、サージの大きさはどちらの量でも表すことができます。
実際にサージの電流または電圧のいずれか(または両方)がシステムに損傷を与える可能性があります。

電流サージ

サージは、その要因によりさまざまの波形になりますが、IEC 61000-4-5規格では、サージの電流波形を立ち上がり時間が8μs、半値になるまでの時間が20μsとしてモデル化しています。
また、サージのエネルギーは、ESDのエネルギーよりも大きなものとなります。
2つの波形を図1で比較します。

図1 モデル化したESDとサージの電流波形

出展:Texas Instruments  https://www.tij.co.jp/jp/lit/pdf/slyy152?keyMatch=SLYY152&tisearch=Search-JP-everything

サージ波形は赤色、ESD波形は青色で示されています。
サージの半値になるまでの時間(20μs)は、ESDの100nsと比較すると、200倍長くなっています。
ピーク電圧レベルは、ESDの方が高くなっていますが、エネルギー量を比較した場合、サージはESDよりも何倍も大きくなります。
波形のサージエネルギー量が大きいため、適切なサージ保護が必要になります。

1は、電流波形をモデル化したものです。

機器に与えられるサージの電圧レベルは、元のサージがどのように引き起こされたかで変わります。この電圧は、スマートフォンケーブルの活線挿抜などのイベントの100Vから、誘導性負荷を駆動する主要な産業用モーターの4kV(またはそれ以上)まで、大幅に変動します。

電圧サージ

IEC61000-4-5ではオープン回路で電圧波形の立ち上がり時間は1.2μs、半値になるまでの時間が50μsで規定され、サージ電圧によりクラス1~クラス4に分類されています。

図2 モデル化した電圧サージ

出展:Texas Instruments  https://www.tij.co.jp/jp/lit/pdf/slyy152?keyMatch=SLYY152&tisearch=Search-JP-everything

IEC61000-4-5のクラス、インピーダンスおよびサージ電流の関係

IEC61000-4-5

サージ耐性が求められるシステムは、多くの場合、IEC 61000-4-5に合格するように設計されます。
IEC 61000-4-5規格は、機器の設置場所に応じて、クラス1からクラス4つを規定されています。
たとえば、クラス1は部分的に保護された環境用であり、クラス3はケーブルが並行して走る環境用です。

IEC61000-4-5 のクラス、インピーダンス及びサージ電流の関係を表1に示します。

1 IEC61000-4-5のクラス、インピーダンスおよびサージ電流の関係

出展:Texas Instruments  https://www.ti.com/lit/pdf/slyy127

サージ電流の算出方法とインピーダンス

サージ電流の計算は、クラスによって決定されるサージ電圧をサージの発生源とシステム間の接続のインピーダンス(Req)で割ることで求められます。

インピーダンス(Req)については、以下の4点によって決まります。

− ケーブル,導体又はラインの種類(交流電源,直流電源,相互接続線など)
− ケーブル又はラインの長さ
− 屋外又は屋内の条件
− 試験電圧の適用(線間又は対地間)

2Ωのインピーダンスは,サージが直接影響する場合に用います。

それ以外の高インピーダンスは、サージがシステムに直接発生するのではなく、隣接するケーブルなど、サージがシステムの近くで発生する場合に適用します。サージが直接結合するときのインピーダンス(2Ω)に結合インピーダンスを加えます。

12Ω (10 Ω+2 Ω) のインピーダンスは,低電圧電源系統と接地との間の電源インピーダンスを表します。
42Ω (40 Ω+2 Ω) のインピーダンスは,ほかのすべてのラインと接地との間のインピーダンスを表します。
502Ω(500Ω+2Ω)のインピーダンスは、非常に小さなセンサーの場合に使用されます。

表2 IEC61000-4-5 結合回路のインピーダンス
出展:Texas Instruments  https://www.tij.co.jp/jp/lit/pdf/slyy152?keyMatch=SLYY152&tisearch=Search-JP-everything

31kVサージ時の電流を示します。各アプリケーションにより適用するインピーダンスが異なり、短絡電流が変わってくることがわかります。
この短絡電流は、TVSダイオードを選定するときに使用します。

表3 結合ネットワークの効果
出展:Texas Instruments  https://www.tij.co.jp/jp/lit/pdf/slyy152?keyMatch=SLYY152&tisearch=Search-JP-everything

実際の例

ここで例として、突然オフになり、1kVの過渡現象を引き起こすモーターを考えてみます。
このモーターのケーブルは、図3に示すように、別のプロセス変数を監視する近くのセンサー用のケーブルと並列に、ダクト内を配線されています。モータードライブの出力段はケーブルを経由し直接接続されているため、1kVが印加されます。インピーダンスは、が適用されます。故障電圧は1kV、故障電流は500Aになります。

図3 サージ結合の例
出展:Texas Instruments  https://www.tij.co.jp/jp/lit/pdf/slyy152?keyMatch=SLYY152&tisearch=Search-JP-everything

次に、近くの機器について考えます。

この例では、センサーとPLCは、同じ1kVのサージを受けますが、直接的な導通はなく、モーターの電源ラインと通信ケーブルが同じダクト内で隣接して配線されています。
主電源ラインのサージは、42Ωインピーダンスとしてモデル化された減衰で表され、センサー通信ラインに小さな電流を誘導します。
したがって、センサーが認識するサージは1kVですが、24Aのみです。

このように、サージ保護回路を設計するには、サージの電圧と電流の両方の大きさを決定することが重要です。

TIのTVSダイオード

TIのTVSダイオードは、IEC61000-4/5の1kVに耐えることができます。IEC61000-4-5の規定上では、Class1またはClass2に対応することができます。
ピーク電流値については、デバイスによりIEC61000-4-5(8/20μs)27A~43Aになっています。

TITVSダイオードは、優れたIV特性を持っており、TVSダイオードの損失を抑えることができます。
このためSON8WSON8DSBGA4等の小型パッケージで実現することができました。
これは従来のSMBJxxSMAJxxと比較して、25%以上の省スペース化を図ることができます。

 

図4 様々なTVSダイオードのIV特性
出展:Texas Instruments https://www.tij.co.jp/jp/lit/pdf/slvae53

TVSダイオードの主な特性について、表4に示します。

Device Working Voltage Clamping Voltage (max) Ipp(8/20μS) Leakage Current (typ)
at Vrwm (27℃)
Leakage Current (max)
at Vrwm (85℃)
TVS3300 33V 40V 35A 19 nA 600nA
TVS2700 27V 34.1V 40A 1.8 nA 450nA
TVS2200 22V 28V 40A 3.5 nA 400nA
TVS1800 18V 23.4V 40A 1.2 nA 330nA
TVS1400 14V 18.8V 43A 2.2 nA 300nA
TVS0500 5V 9.5V 43A 0.07 nA 220nA
TVS3301 33V 42.5V 27A 2.5 nA 450nA
TVS2701 27V 35.7V 27A 0.8 nA 400nA
TVS2201 22V 30.7V 30A 2.0 nA 330nA
TVS1801 18V 28.8V 30A 0.4 nA 290nA
TVS1401 14V 22.2V 30A 1.1 nA 260nA
TVS0701 7V 11.7V 30A 0.25 nA 200nA

4 TVSダイオードのラインアップと主な特性

その他の製品やデータシートにつきましたはこちらのページをご参照ください。

最後に

サージ保護は、環境条件とIEC61000-4-5を理解していれば、システムを効果的に保護することができます。
TIのTVSダイオードは、IEC61000-4-5のクラス1とクラス2に対して、小型化のメリットがあります。
興味のある方は、弊社にご連絡ください。