• 公開日:2021年01月06日
  • | 更新日:2022年11月30日

Smart Tuneのメリットとは?

はじめに

Smart Tune(※)機能をご存じでしょうか?
(※ Auto Tuneと呼ばれていましたが、現在はSmart Tuneと呼称が変更されています)

この機能はTI社のステッピングモータードライバーに搭載されております。
主に電流減衰(Decay)の用途に使用されます。
従来のFast DecayやSlow Decay, Mixed Decayでは、各種モーターやアプリケーションに合わせ、 電流波形を見ながら脱調や異音などを確認し、最適なチューニングを行っていたと思います。
その煩雑なDecay設定を自動的にチューニングしてくれるのがSmart Tuneになります。

さて、Smart Tuneのメリットは自動的なチューニング観点だけになりますでしょうか??
本ブログでは、Smart Tuneのメリットをアプリケーション視点で多岐に渡って掘り下げていこうと思います。

Smart Tuneのメリットとは?

チューニングを含めてアプリケーション視点でのメリットは主に3つになります。

①チューニングが簡単

過去技術記事にした内容がありますので、以下をご参照願います。
リンク先:https://emb.macnica.co.jp/articles/1003/

②放熱性の改善

理想としては、最適な電流波形となっているため脱調することがなく、かつ放熱性に問題が無い状態です。
Slow Decayだけでは、電流減衰が少ないので、最適な電流波形が作れず振動の原因になります。
また電流減衰が少ないこと、及び振動することによって、モーターの発熱量が多くなります。

一方、Fast Decayでは電流減衰が大きくなるのでSlow Decayよりも電流波形は改善されますが、電流リップルは大きくなります。
放熱性の面では問題ありませんが、電流減衰が大きくてトルクが出ないことと、電流リップルが大きいため、そもそもの動作自体に支障をきたします。

Mixed Decayは上記の中間に位置するも、最適な動作のチューニングにかなり手間がかかります。

このため、Smart Tuneを使用することで、最適動作かつ放熱の対策になります。

③静音性

ステッピングモーターを動作させた場合に、多くの場面でノイズ音が発生します。
このノイズ音の原因は、機械要素、磁石要素、電気要素の3つに分類されます。

■機械要素■
ステッピングモーターの構成上、物理的な構造の問題によるノイズになります。
機械的な固定が不十分、微細な変形、ベアリングのゆるみなど、不要な振動が組み合わさってノイズとなります。

■磁石要素(磁性的要素)■
ステッピングモーターの構成は内部の回転子(永久磁石)と外部のコイルで構成されます。
コイルが磁化されますので、磁場に応答して磁性体が膨張または収縮します。
磁歪が鉄を変形させるため、ローターとステーターの歯を互いに引き寄せて、結果的に可聴ノイズとして聞こえます。

■電気要素■
理想的な動作としては、動作時の電流波形として、正弦波(マイクロステップ時)や矩形波(フルステップ/ハーフステップ)のいずれの状態でもリップルがないことになります。
リップルによって、不均一なトルクを発生させて、結果振動となります。この振動が可聴ノイズの原因になります。
如何にリップルがなく、定電流制御ができるかが求められます。
Smart Tuneでは供給電圧, 負荷インダクタンス, 負荷抵抗, 逆起電力(BEMF), 負荷電流に応じて、都度最適な定電流制御を行います。
加えて、Ripple Control Decayの方式では、各電流制御におけるバレー電流を検知していますので、リップル電流はさらに小さくなります。
結果、Smart Tuneを使用することで電気要素のノイズ減少に寄与いたします。

Smart Tuneの効果の比較

Smart Tuneを使用した場合における放熱性、静音性の比較になります。

・放熱性の改善の比較 - Smart Tune vs Slow Decay

1/4ステップ設定、電流/電圧を同じ設定で、1時間動作後の放熱の比較になります。
Smart Tuneを使用した場合、10度ほど低いのがわかります。

※ 実際には使用するモーターの巻線のインダクタンス, 抵抗, また逆起電力, 電流レベル, 供給電圧などの要因で、各減衰モードの電流をどれだけ適切に調整できるかに影響します。

・耐ノイズ音比較 - Smart Tune vs Mixed Decay

1/256ステップ設定でSmart Tune(Ripple Control Decay)とMixed Decayでのノイズ音の比較になります。10kHzの部分では10dB程度のノイズ音対策になります。

まとめ

Smart Tuneはチューニング不要、最適な定電流を行うというのが主なメリットになりますが、それに伴って放熱性や静音性が得られることがわかります。
一例として、プリンターのサーマルヘッド等に使用され、限られたスペースの箇所などで放熱性や静音性の改善につながります。
放熱性や静音性の向上によって、結果的にアプリケーションの信頼性も上がります。

是非Smart Tune機能を使用して頂き、ステッピングモーターの制御性や信頼性の向上を図っていただければ幸いです。