- 公開日:2021年01月20日
- | 更新日:2022年11月30日
TI社 BAWテクノロジーを使用したクロックジェネレータ製品 ~BAWとは?BAWを使うメリットとは?~
- ライター:mtmt
- クロック
はじめに
BAWという言葉を聞いたことが有りますか?
BAW(Bulk Acoustic wave)は圧電体のバルク振動を利用した共振器です。
昨今、TI社から、このBAWテクノロジーを使用した超低ノイズのクロックジェネレータがリリースされました。
BAW共振器を用いたクロックジェネレータではどういったメリットが有るのでしょうか??
本稿ではBAWの構造やメリット、その特徴を生かしたアプリケーション例を説明します。
BAW テクノロジーとは?
BAWの構造を示します。BAW共振器は圧電薄膜共振器で、水晶振動子と同様に作用します。
上下2つの金属電極がピエゾ電気層を挟みます。電気エネルギーから機械的エネルギーに変換し、
Q値の高い振動を得ることができます。非常に安定した、コヒーレンスの高い共振回路が得られます。
BAW共振器の電気的等価性は、以下のBVD(Butterworth Van Dyke)モデルで表わせます。
水晶振動子と同様に、周波数Fpとシリアル共振周波数Fsで並列共振になります。
BAW テクノロジーのメリット
BAWテクノロジーのメリットは主に以下3点です。
①低位相ノイズ
BAW共振器を使用したVCOはVCBO(Voltage-Controlled BAW Oscillator)と呼ばれております。
以下はVCBOを使用したTI社のクロックジェネレータLMK05318の位相ノイズ特性です。
従来のLC共振型VCOに比べ、RMSジッターが桁違いに低く、33.3fs@12kHz~20MHzです。
以下はTI社のVCBOタイプLMK05318とLC-VCOタイプLMX2582の位相ノイズの比較です。
(※ VCOの周波数が同条件、高精度の従来型LC-VCOとの比較です)
低域での位相ノイズが大きく改善されます。RMSジッターの改善に寄与します。
②耐振動性
BAWの共振周波数は数GHzです。このため機械的振動の影響を受け難い特徴があります。
以下はBAW共振器搭載のワイヤレス向けマイコンCC2652RBでの耐振動検証結果です。
外付けの水晶振動子と比べ、振動発生時に最大7ppmほど耐振動性の改善に寄与します。
③温度特性
以下はCC2652RBの環境温度-周波数特性です。
BAW共振器は温度依存性が小さく、環境変化に強いことがわかります。
BAW テクノロジーを使用したTI社のクロックジェネレータ
TI社のVCBOを搭載したクロックジェネレータ一覧です。
いずれも高速ネットワーク向け、DPLL+APLL構成のネットワークシンクロナイザーです。
・LMK05318(http://www.tij.co.jp/jp/lit/ds/symlink/lmk05318.pdf)
・LMK05318B(http://www.tij.co.jp/jp/lit/ds/symlink/lmk05318b.pdf)
・LMK5B12204(http://www.tij.co.jp/jp/lit/ds/symlink/lmk5b12204.pdf)
・LMK5C33216(http://www.tij.co.jp/jp/lit/ds/symlink/lmk5c33216.pdf)
この分野ではデータレートが100Gbpsから400Gbpsに進化するとともに、ネット ワークシンクロ ナイザーの RMSジッターに対する要求が150fs未満@12kHz-20MHzが求められます。
従来のLC-VCOテクノロジーではループ帯域を100Hzとしても、百十数fs程度のRMSジッターになります。
要件を満たすことが難しいです。このため、VCBO搭載の上記ネットワークシンクロナイザーが必要です。
BAW テクノロジーを使用したTI社のクロックジェネレータの注意点
BAWテクノロジーを用いたクロックジェネレータ一を使用する際、注意すべき点があります。
VCBO周波数許容範囲は±50ppm@LMK05318, ±100ppm@LMK5B12204と狭いです。
周波数誤差がこの値を超えると、PLLは入力信号にロックできなくなる可能性が有ります。
このため使用する入力リファレンス(TCXO)等の周波数誤差に注意し、許容範囲に収まる必要が有ります。
まとめ
本稿にてBAWテクノロジーの構造やメリット、BAW共振器を使用したクロックジェネレータに関してご理解頂けたかと思います。
クロックジェネレータやジッタークリーナーの多くは、より優れた位相ノイズ特性を要求されることが多いと思います。
既存の製品で位相ノイズを満たせない場合には、是非ともVCBO搭載の製品を検討頂けば幸いです。