• 公開日:2021年01月26日
  • | 更新日:2022年11月30日

負荷過渡応答を測定する治具例の紹介

  • ライター:Nishie

「電源の過渡応答性を良くするために」の記事でもご紹介したように、負荷変動に対する応答性は、電源ICにとって重要な性能になります。
実際の応答性を比較するためには、負荷を同等の条件として実機評価のもと比較する必要があります。ただし、数10Aレベルの負荷変動がある場合や、変動のスルーレートによっては電子負荷での評価が困難になってくるため、速いスルーレートで大電流に対応できるような治具を作っておくと便利です。

過渡応答評価用の治具例

今回は、弊社で活用している過渡応答の評価治具について紹介します。

弊社で使用している治具例

 

この治具に関しては、青スイッチを押すと9V電源が導通して発振器がONし、FETがON/OFFを切り替えて負荷変動を再現しています。設定電圧Voutに対して抵抗値を調整することで任意の負荷変動構成を構築できます。参考までに実際の評価内容は以下の通りです。

 

CH1:Vout CH2:Iout

この治具自体はよりコンパクトに、気軽に評価できることをコンセプトとし作成したものです。電流値については抵抗値の調整をすれば解決しますが、より速いスルーレートを実現させたい場合は極力寄生インダクタンス成分を減らすように構成する必要があります。

具体的には、評価系と負荷抵抗の基板との接続に注意する必要があります。ケーブルで接続するようであれば極力太く短いケーブルで接続し、寄生インダクタンス成分に配慮する必要があります。さらに寄生成分を減らしたい場合は銅板などで直接接続すると、より効果が期待できます。

また、今回の弊社の回路例のような抵抗を用いる場合、リード線の寄生成分が影響することもあります。巻線抵抗でも影響が出てくる可能性があるため、面実装タイプのチップ抵抗などで負荷抵抗基板を構成することも、効果的と言えます。

 

以上の内容をまとめると、

・評価系と負荷抵抗の基板との接続を極力太く短いケーブルで接続する

・さらにスルーレートを改善したい場合は評価系と負荷抵抗の基板を直接接続する

・負荷抵抗を電流検出用のチップ抵抗で複数構成する

といった対策を実施すると良いと言えます。上述の内容を極力考慮した状態で評価すると、過去には10A/μsレベルのスルーレートであれば実現することができました。

 

負荷応答治具の解説

今回の治具を作成するにあたって参考にした、テキサス・インスツルメンツ社が用意したアプリケーションノートはこちらです。よろしければ参考にしてみてください。以下に回路図を示します。

 

出典:Texas Instruments –アプリケーションノート
『AN-1733 Load Transient Testing Simplified』
https://www.ti.com/lit/an/snoa507/snoa507.pdf

 

速いスルーレートで実現した場合はFETの切替タイミングでリンギングが発生する可能性もあります。その際には赤枠の通り、ドレイン-ソース間にRCスナバを配置すると、リンギング低減の役割を果たせます。

 

青枠内は負荷抵抗基板側でのスルーレート調整用の回路になります。経験則ですが、測定系と負荷抵抗基板の接続を都度行うと、半田付け具合によって寄生成分が若干変わり、スルーレートが変わってしまうことも考えられるため、負荷抵抗基板側でも調整できるような回路を用意しておくと便利です。

 

おわりに

今回は、過渡応答評価の際に便利な治具の紹介と、その回路の説明をしました。
電源回路の正しい特性評価の参考としてください。

何かご不明点があれば、お気軽に弊社エンジニアにご相談ください!