• 公開日:2021年03月24日
  • | 更新日:2024年03月14日

どれを使えばいいの?主要な産業用イーサーネット それぞれの特徴と最新動向

FA(Factory Automation)や工場のIoT化に不可欠なフィールドネットワーク分野では、物理層にイーサ‐ネットを使用することで通信容量を増やし、かつハードウェアやソフトウェアに工夫を行うことでリアルタイム性を高めた”産業用イーサ―ネット”が近年の主流となっています。

また、現在EtherCATやPROFINET、Eternet/IPなどさまざまなプロトコルが開発されており、工場内においても、企業によって使用されるプロトコルが異なったり、工場内で複数のプロトコルが使用されることもあるようです。

そこで今回は、産業用イーサーネットの中でも高いシェアを誇るプロトコルである「EtherCAT」「PROFINET」「Ethernet/IP」について、知っておくべき「選び方」「各プロトコルの特徴と得意分野」「最新動向」を紹介します。

産業用イーサ―ネットプロトコルの選び方

前述の通り、産業用イーサーネットには複数のプロトコルがあるため、対応製品の開発や導入にあたり「違いがわからない」「特徴を知りたい」「どのプロトコルを採用すれば良いのか知りたい」と悩む技術者も多いようです。

プロトコルの選択時に重要なポイントとして、下記の2点が挙げられます。

  1. エンドユーザーの要望や、業界のスタンダードを確認すること

エンドユーザーの地域や業界によって、スタンダードなプロトコルは異なります。また、同じ工場の中でも、生産ラインとその上位の情報系では異なるプロトコルが使用されることが多くあります。採用するべきプロトコルは上流で決まるケースが多いため、まずはエンドユーザーの要望や業界のスタンダードを十分に確認することが重要です。

  1. マルチプロトコル対応を意識すること

例えばモータやインバータといった汎用的な製品を開発する場合、単一のプロトコルにしか対応していないと、装置メーカーなどのエンドユーザーから採用されにくくなります。マルチプロトコル対応を意識することが重要です。

 次に、それぞれのプロトコルの特徴や得意分野を紹介します。

EtherCATの特徴と得意分野

EtherCATの特徴

EtherCATはベッコフオートメーション社が開発したプロトコルで、ETG(EtherCAT Technology Group)が規格団体として技術サポートを行っています。

下図は、EtherCATのアーキテクチャのイメージ図です。

専用ハードウェアによって通信処理を行うため、処理速度が速く、リアルタイム性が高いことが特長です。TCP/IP処理を行わないため、ROM/RAMなどのソフトウェアリソースも少なくて済みます。開発時には、専用イーサーネットコントローラを持つチップを選択いただく必要がありますが、クリティカルな処理はハードウェアにて行われる分、開発難易度は比較的低いと言えます。

EtherCATでは、マスタ(PLCなど)とスレーブ(アクチュエータなど)によって、システムが構成されます。

マスタとスレーブの通信サイクルタイムについては、250μs(マイクロ秒)もしくはそれよりも早いご要求にも対応可能です。

スレーブは専用イーサーネットコントローラであるESC(EtherCAT Slave Controller)によって通信フレームを処理します。ESCに搭載されている高精度の時刻同期機能「DC(ディストリビュートクロック)」によって、1μs以下でスレーブ間の同期が可能です。

また、1つのフレームで接続したすべてのスレーブとデータ交換ができるオンザフライ方式が実装されているため、高速で高効率な処理を実現できます。

EtherCATの得意分野

高速処理の特長を活かして、ロボットなどのモーション制御をはじめ、半導体製造装置、電車、ロケット、舞台装置、農業機械といったリアルタイム性が求められる装置に幅広く採用されています。半導体製造装置など、アプリケーションごとのプロファイルがETGから提供されています。

PROFINETの特徴と得意分野

PROFINETの特徴

PROFINETはシーメンス社が開発し、PI(PROFIBUS & PROFINET International)が管理するプロトコルで、国内では日本プロフィバス協会が規格団体として技術サポートを行っています。

下図は、PROFINETのアーキテクチャのイメージ図です。

TCP/IPに準拠した通信を行うだけでなく、TCP/IP処理を経由しないRaw Socketを利用することで、リアルタイムな処理も実現できるのが特長です。またSNMP(Simple Network Management Protocol)によるネットワーク監視を利用できます。多機能なため、用意するソフトウェアの種類も多くなり、実装の難易度は比較的高い傾向にあります。

PROFINETでは、コントローラ(PLC)とデバイス(I/Oなど)によって、システムが構成されます。

PROFINETでは、対応する機能によって、下記の3段階のコンフォーマンスクラスが存在します。

コンフォーマンスクラス 概要
CC-A Raw Socketによるリアルタイム通信に対応
CC-B Raw Socketによるリアルタイム通信に加えて、SNMPによるネットワーク監視に対応
CC-C 専用コントローラによる処理に対応(リアルタイム性能が高まるが、専用ハードウェアが必要)

<PROFINETの得意分野>

欧州市場に強みを持っています。欧州での安全意識の高まりに応じて、機能安全分野での利用が増え、近年では、人との共同作業を要求される協調ロボットなど、セーフティ機能での採用事例が多くあります。

Ethernet/IPの特徴と得意分野

Ethernet/IPの特徴

Ethernet/IPはロックウェル・オートメーション社が開発したプロトコルで、ODVAが規格団体として技術サポートを行っています。

下図は、Ethernet/IPのアーキテクチャーのイメージ図です。

TCP/IPに準拠した通信がベースとなるため、一般的なネットワーク機器と親和性が高いことが特長です。TCP/IP通信を行う他のプロトコルとの共存も可能です。プロトコルはソフトウェアで実装されますが、TCP/IPスタックが流用できるため、実装の難易度は前述した2つのプロトコルと比べますと、中間程度になるかと思います。

 

Ethernet/IPでは、スキャナー(PLC)とアダプター(I/Oなど)によってシステムが構成されます。

CIP(Common Industrial Protocol)を用いることにより、対応する機器間でシームレスなデータ伝送を実現します。

通信速度は4ms(ミリ秒)程度と速くはありませんが、大容量データを扱いやすい特長があります。

Ethernet/IPの得意分野

米国市場で強みを持つほか、自動車業界や物流業界でも多く採用されています。

最新の産業用ネットワークの動向

最後に、産業用ネットワーク分野の最新動向として、注目されている動きを2つご紹介します。

1つは、大容量・高速通信を実現する「ギガビット化」です。背景には、カメラを活用するロボットやAIが登場し、動画など大容量データの高速通信が求められている現状があります。EtherCATにおいても、1Gbps(ギガビット毎秒)以上の通信速度に対応するEtherCAT Gが登場しています。

もう1つは、高精度な時刻同期を行う新たな規格「TSN(Time Sensitive Networking)」です。EtherCAT・PROFINET・Ethernet/IPなどのプロトコルにアドオンする機能として、今後、製品開発につながると見られています。

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