- 公開日:2021年03月24日
- | 更新日:2022年11月30日
リニアレギュレーターのジャンクション温度の算出と実測値の比較
- ライター:Nishie
- 電源
はじめに
ジャンクション温度(Tj)の算出を行う場合、データシートに記載されているθJAを使って(Tj)を求めている方が多いと思いますが、本記事ではそのTjの算出とデバイス表面温度の実測値からψJTを使って算出したTjの違いをみていきます。
詳しいTjの算出方法は、こちらの記事で紹介しておりますのでご参照ください。
使用するEVMと測定機器・測定回路
使用するEVM
今回使用するEVMはTexas Instruments社製のTPS7A8001DRBEVMになります。
このEVMにはTPS7A8001が搭載されており、スペックは以下の通りです。
入力電圧(Vin) :2.2 to 6.5V
出力電圧(Vout):0.8 to 6V (adjustable)
出力電流(Iout):0 to 1A
ジャンクション温度(Tj):-40 to 125℃
熱抵抗値(RθJA):47.8℃/W
熱特性パラメーター(ψJT):1℃/W
使用する測定機器・測定回路
測定に使用した機器を以下に記載いたします。
・安定化電源:Agilent_3632A
・電子負荷:IKUSUI_LZ164WA
・電圧測定用マルチメーター/電流測定用マルチメーター:ADVANTEST_D7451A
・温度測定用マルチメーター:KEITHLEY_2700
・熱電対:タケダ理研工業_TR1101-130
また、測定回路は以下の図のようになっております。
図1 測定回路
図2 測定回路図
測定条件と結果
測定条件
測定条件をVin=4.5V, Vout=2.5V, Iout=0.05, 0.25, 0.5, 1.0Aとし、消費電力(Pd)が0.1, 0.5, 1.0, 2.0Wになるよう設定します。マルチメーターの値を見ながら安定化電源と電子負荷を調節し、測定条件に近い値になるようにします。
そしてこの時のデバイス表面温度(Tt)と室内の温度(Troom)を熱電対で測定し、Tjの算出を行います。
*本測定は簡易的な方法で行っているため、空調による温度変化を防止する対策や評価ボードを浮かせるといった対策を行っておりません。より正確に温度測定を行う場合は、評価ボードの周辺の温度変化を防ぐ対策を講じ、評価ボードに脚を取り付けて浮かせる必要がございます。
測定結果
それでは、測定結果を以下の表とグラフに示します。
表1 測定結果
図3 消費電力とTjおよびTtの関係
評価ボードは放熱しやすい作りになっており、簡易的な測定環境の影響であったため表面温度の値が低くでた可能性がございますが、RθJAを使って机上で計算したTjと実際に表面温度を測定してψJTを使って計算したTjで、値が大きく異なっていることが分かりました。
ではなぜここまで温度差が生じたのでしょうか。
それは、
・RθJAとψJTで基準となる温度の測定ポイントが異なる
・Tjを算出する際に周囲温度を考慮するか、デバイス表面温度を考慮するか
で異なるからです。
RθJAはJEDEC規格で規定された基板上で試験された結果です。
この基板は、実際にお客様で設計された基板とはかけ離れた条件での測定となっており、他デバイス・他メーカーとの放熱特性の比較には有用です。
ですが、RθJAを用いてTjの算出を行うと、実基板上での結果と大きく外れる可能性がございます。
一方、ψJTは基板に搭載したデバイスの樹脂パッケージ上部の表面温度とジャンクション温度の実測から取得したパラメーターになっており、Tjの算出には実測したデバイス表面温度(Tt)を使用するため、RθJAよりも実際のTjに近い値を得ることができます。
これにより今回のような結果が得られたと考えられます。
おわりに
実際に表面温度を測定し、RθJAとψJTでTjを求めてみました。
正直、表面温度がこれだけ低い値であったことに驚きました。
ですので、消費電力が大きい条件でリニアレギュレーターを使用する場合には、実際に評価して検討することをお勧めいたします。