- 公開日:2021年07月30日
- | 更新日:2022年11月30日
Phase Inverting 昇圧DC/DCコンバータ―の動作
- ライター:短絡亭過電流
- 電源
低い電圧から高い電圧を生成する昇圧電源回路ですが、降圧電源に比べ、その設計の難易度は上がります。
その理由は、回路内を流れる電流が大きくなるから。
そこで、本稿では、回路を2つに分け、並列に動作することで電流を分散する「Phase Inverting(位相反転)」について、説明します。
【並列動作のメリット/デメリット】
DC/DCコンバーターにおいて、入力電流は次式で求められます。
※
Vin:入力電圧
Iin:入力電流
Vout:出力電圧
Iout:出力電流
η:効率(仮に90%に設定)
この式より、仮に5V入力/10V,1A(10W)出力の昇圧DC/DCコンバーターを設計した場合、入力電流は約2.2A(平均値)と算出できます。
DC/DCコンバーターの損失は主に整流素子(FETやダイオード)とインダクタの直流抵抗(Rdc)、それらを導通する電流により発生するため、電流が小さくなれば発熱を抑えることができます。
2回路並列動作のDC/DCコンバーターは、出力は1本にまとめられますが、入力は2回路に分けられるため、1回路あたりの電流は半分になり、各インダクタで発生する全損失も1/2となります。
従いまして、高電力出力DC/DCコンバーターの高効率化を実現するには、並列動作は非常に有効です。
ただ、1つの出力を得るのに複数の回路を要するため、実装面積,部品数,コストは圧迫されます。
また、「ただ複数回路を並べれば良い」というわけではありません。
正常な動作を行うためには、回路同士を「同期」させる必要があります。
【なぜ同期制御が必要?】
DC/DCコンバーターは、インダクタにどれだけ電流を流し、その結果どれだけ出力電圧が変化したか、を監視しつつ負帰還制御を行っています。
2つのDC/DCコンバーターが互いに同期されていない状態で動作を行った際に、出力電圧の変化が、
・自身の制御による結果なのか
・他者の制御による結果なのか
が判別できなくなり、制御系が不安定になります。
最悪なのは、2つの回路が同時に出力電圧を上昇しようと、動作/制御が重なってしまう状態です。出力発振を引き起こし、後段の回路を破壊する可能性があります。
DC/DCコンバーターの並列動作を行う際には、必ず並列動作が可能なICを使用してください。
【2回路並列動作 => Phase Inverting(位相反転)】
2つのDC/DCコンバーターを並列に動作させるための方式として、「Phase Inverting(位相反転)」があります。
DC/DCコンバータ―における位相反転とは、2つのDC/DCコンバーターのONタイミングの位相を180°シフトさせ、正位相と逆位相で制御を行うことを表します。
【Phase Invertingが可能な昇圧DC/DC LM5122】
Phase Inverting動作が可能な昇圧DC/DCコンバーター「LM5122」を紹介します。
製品紹介ページ
LM5122は単相/2相(Phase inverting)の両方で使用可能な同期整流型昇圧DC/DCコントローラーです。最大4相での並列動作が可能です。
2相回路例
4相回路例
出典:Texas Instruments –データシート
LM5122 3-65V Wide Vin, Current Mode Synchronous Boost Controller with Multiphase Capability
https://www.ti.com/lit/ds/symlink/lm5122.pdf
2相はMaster側のSYNCOUTピンと、Slave側のSYNCINピンを繋ぐことで構成できますが、4相では外部からのクロックが必要となります。
LM5122の製品紹介ページにTI社のシミュレーターTINA-TIのマクロががありましたので、少し回路を組み替えて走らせてみました。
9V入力→14V/0.7A出力の昇圧DC/DCコンバーターです。動作波形はこちら。
出典:Texas Instruments – TINA-TI 『LM5122 Phase Inverting構成回路』
Gate-ON波形の位相がMaterとSlaveで180°ずれており、同相とならないように制御されています。
またインダクタを導通する入力電流が2回路に分散されています。
前述の通り、入力電流が分散されることにより、インダクタでの消費電力が低下するため、Phase Invertingは効率向上及び発熱低減に寄与します。
また、スイッチング周波数も高くできるため、応答特性も向上します。
【最後に】
Phase Inverting DC/DCコンバーターはコストとしては2回路分となりますが、高品質な電源電圧を実現できます。
また、発熱も抑えられるため、放熱部品の削減も可能となります。
設計の難易度はやや上がりますが、機会がありましたら、是非Phase Inverting DC/DCコンバーターの設計にチャレンジしてください。