• 公開日:2021年07月06日
  • | 更新日:2022年11月30日

LCフィルタとは

クラスDアンプの出力で使用されるLCフィルタの目的

クラスDアンプの出力で使用されるLCフィルタにフォーカスして話をして参ります。オーディオ製品のスピーカアンプとして使用されるクラスDアンプは入力信号レベルに応じてパルスのDuty比を変化させるPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)が採用されているケースが多く、クラスDアンプからはパルス信号(High / Lowのデジタル信号)が出力されます。そのパルス信号は変調されているため、外付けフィルタにより高周波成分を除去してオーディオ帯域のアナログ信号に復調する必要があります。昨今、変調方式の工夫により外付けフィルタが不要な製品もリリースされていますが、スイッチングによる不要輻射の対策や音質向上の観点からLCフィルタが使用されています。除去する必要があるPWMのスイッチング周波数ですが、これはオーディオアンプICに依存し、数百kHz~数MHzの製品が存在します。一方、復調する可聴帯域は一般的に20Hz~20kHz程度とされていますが、ハイレゾ音源に対応するため、上限として40kHz以上のものが世の中に出回るようになってきました。

LCローパスフィルタの具体例

一口にLCフィルタと言ってもローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ、ノッチフィルタを構成することが出来ます。クラスDアンプの出力で使用することを想定していますので、ローパスフィルタにフォーカスしてお話しします。最もシンプルなシングルエンド入力のLCローパスフィルタの例は図1の通りです。入力VINにPWMのPulse信号が入力され、LCローパスフィルタを通り、負荷端VOUTでアナログ信号に復調されます。

図1 LCローパスフィルタ

 

伝達関数VOUT/VINは式(1)の通りです。

………式(1)

ここで、負荷のZが抵抗成分のみと仮定した場合、Z=Rになるため、式(1)を

………式(2)

と表すことが出来ます。

式(2)よりゲインG[dB]を式(3)で得ることが出来ます。

………式(3)

ここで、ωは

………式(4)

となり、fは周波数を指します。

例えば、インダクタL=10uH、コンデンサC=0.68uF、スピーカ・インピーダンスR=2Ωの周波数に対するゲイン特性は図2の通りです。

図2 スピーカ・インピーダンス2Ωのゲイン特性

 

カットオフ周波数fcは式(5)で求めることが出来ます。上記の条件ではfc=61kHzになります。

………式(5)

次にインダクタL=10uH、コンデンサC=0.68uFを固定し、よく使用されるスピーカの代表例としてスピーカ・インピーダンスを2Ω、4Ω、6Ω、8Ωにした場合のゲイン特性を確認してみましょう。図3の通り、スピーカ・インピーダンスが高いほど、カットオフ周波数近傍のゲインが盛り上がります。このピークゲイン近傍の周波数がオーディオアンプICに入力された場合、あるいはノイズとして飛び込んで来た場合、スピーカ・インピーダンスが高いほどその信号は増幅されます。ユーザが好きなスピーカを接続できるようなアプリケーションでは場合によってヘッドルームを超えてしまい、オーディオ信号が電源でクリップされ、予期しない歪みやカレントリミット、サーマルシャットダウンなどを引き起こす可能性があるため、注意が必要です。このような背景からLCフィルタのインダクタの値、コンデンサの値はオーディオアンプICのデータシートに記載されている定数で設計することが推奨されています。

図3 スピーカ・インピーダンス2Ω、4Ω、6Ω、8Ωのゲイン特性

 

また、図3のゲイン特性の傾向からスピーカ・インピーダンスが高いほどピークゲインも比例して高くなるため、スピーカが接続されていない状態、つまり無負荷の時には発振する懸念があります。これは使用するインダクタ、コンデンサ、基板パターン、スピーカ・ケーブル等によっても異なります。例えば、スピーカ・インピーダンスを1MΩ(スピーカを未接続)にした場合、ゲイン特性は図4のようになります。実際のインダクタにはDCR(Direct Current Resistance:直流抵抗)があり、ここまでピークゲインが高くなることはないと思われますが、無負荷が想定されるようなアプリケーションや接続するスピーカの高周波特性(高周波帯域で高インピーダンス)によっては設計時にこの課題をケアしておく必要があります。例えば、出力とGND間に抵抗とコンデンサを直列に接続した回路(Zobel Network)を挿入し、高周波領域で高インピーダンスにならないように対策します。条件によって異なりますが、抵抗値は数Ω~数十Ω、容量値は数十nF~数百nFが使用されるケースが多いようです。

図4 スピーカ・インピーダンス1MΩのゲイン特性

まとめ

クラスDアンプの出力で使用されるLCローパスフィルタにフォーカスして目的や注意点についてご紹介させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?使用するインダクタとコンデンサの値についてはオーディオアンプICのデータシートに記載されている定数で設計することが推奨されていますが、オーディオ帯域を更に高周波に拡張したい場合にはこれらの定数を変更します。具体的に検討される場合、SPICE Simulatorを使用することでゲイン特性がどのように変化するのかを簡単に確認することが出来ます。また、オーディオ帯域を拡張することでPWMのスイッチング周波数によるノイズの影響を受ける可能性があるため、最終的には実機にて各種特性をご確認下さい。

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