- 公開日:2022年04月28日
- | 更新日:2022年12月01日
Texas Instruments社のお手軽電源シーケンス制御ICのご紹介
- ライター:短絡亭過電流
- 電源
はじめに
複数の電源電圧を必要とするデバイスやプロセッサー、FPGAなどでは、その電源の起動/停止に制約がある場合が多くあります。
その「制約」の一つとして、電源の投入順序があり、その順序を「電源シーケンス」と呼びます。
「電源シーケンス」を守るために、多くの設計者さんは苦労されていられるようです。
設計の苦労ポイントや対策について本記事でご紹介させて頂きます。
電源シーケンスについて
以下、例として電源シーケンス回路を作成してみました。
回路としては、特に問題はないように見えます。
充放電のスイッチに2chのSPDTスイッチのTS5A26542などを使用し、ここにHighを入力すると、電源ICが順序通り(1→2→3)に起動し、Lowを入力すると逆順序(3→2→1)でOFFしていくような制御回路となっております。
しかし、この回路では欠点があり、電源シーケンス回路として成立しておりませんでした。
電源シーケンス回路での問題点について
それは各SPDTスイッチ出力の、ONとOFFの時間間隔にバラつきがあることです。
以下の図は、バラつきを確認するためにシミュレーションを実行した結果になります。
こちらのシミュレーションをご自分で動かしたい、少し定数を変更して現状の回路がどの程度バラつきがあるか見たい方向けに
シミュレーションファイルをご用意して頂いております。
※Texas Instruments社の”TINA-TI”でシミュレーションしております。
以下URLより無償でダウンロードできます。
https://www.ti.com/tool/ja-jp/TINA-TI
出典:Texas Instruments – TINA-TI 『電源シーケンス構成回路』
上記図内の赤矢印の間隔が一定ではありません。
これはRC時定数回路への充電並びに放電の各電圧変化が、一定の傾斜では無いためになります。
対策について
対策として以下3つの案を検討します。
案1) 各REF電圧の抵抗値にて時間を調整する
案2) RC時定数回路の充放電を単純なスイッチではなく定電流回路にする
案3) マイコンを使う
案1は、機種ごと、使用条件ごとに調整する必要があり、ON時とOFF時の時間をすべて均一に揃えることはできません。
さらに、コンデンサーの容量には公差が存在するため、ON/OFFの時間を均一に設定するすることは、個体ごとに調整/確認する必要があるため現実的ではありません。
案2は、ON時とOFF時の時間を揃えることができます。
しかし、回路が複雑になってしまい実装面積を多く必要とします。
さらに、案1と同様にコンデンサー容量の公差の影響を無視することができません。
案3は、時間を確実に制御できます。
しかし、実装後に書き込み工程が増えてしまいます。
電源シーケンスに最適化されたデバイス
案1~3までありましたが、どれもいくつかのデメリットがございました。
そのような悩みを解決するデバイスがTexas Instruments社のLM3880とLM3881になります。
LM3880:https://www.ti.com/product/ja-jp/LM3880
ON/OFFのタイミング(遅延時間)が型番により固定
出典:Texas Instruments –データシート LM3880 Three-Rail Simple Power Supply Sequencer
https://www.ti.com/lit/ds/symlink/lm3880.pdf
LM3881:https://www.ti.com/product/ja-jp/LM3881
ON/OFFのタイミング(遅延時間)を外付けのコンデンサーで任意に調整可能
出典:Texas Instruments –データシート LM3881 Simple Power Sequencer With Adjustable Timing
https://www.ti.com/lit/ds/symlink/lm3881.pdf
デメリットとしてこれらのデバイスは3チャネルしかありません。
チャネル数を増やす場合は、複数個を使用することで3ch以上が対応可能になります。
具体的な接続例として以下を参照下さい。
出典:A simple six-channel power-rail sequencing solution
https://e2e.ti.com/blogs_/b/powerhouse/posts/a-simple-six-channel-power-rail-sequencing-solution
また、LM3880でのシミュレーションを実施されたい場合は、以下よりPSPICEモデルをダウンロードができますのでご活用下さい。
https://www.ti.com/jp/lit/zip/snvmbb4
※Texas Instruments社の”PSPICE-FOR-TI”でシミュレーションができます。
https://www.ti.com/tool/ja-jp/PSPICE-FOR-TI
PSPICE-FOR-TIにつきましては、以下記事でご紹介させて頂いております。(ご不明点等ございましたら、弊社へお問合せ下さい)
https://emb.macnica.co.jp/articles/14643/
さいごに
LM3880/81は、決して目立ちませんが、非常に使い勝手が良い「隠れた名品」です。
電源シーケンス制御が必要なシーンがありましたら、是非ご検討ください。
今回の記事でご紹介しましたシミュレーションファイルは以下よりダウンロード頂けます。