• 公開日:2021年08月20日
  • | 更新日:2022年11月30日

オーディオアンプICの保護機能とは

保護機能の目的

オーディオアンプICの保護機能はそもそも何の目的で必要になるのかをご存知でしょうか?多くの方々は既にご存知だと思いますが、保護機能が働かなかった場合、つまり異常状態が継続した場合には誤動作、電気的特性の劣化、損傷、焼損、長期信頼性への影響などの懸念が生じます。新しい製品については保護機能が充実していますが、古い製品については各種保護機能がICに内蔵されていない場合があります。保護機能そのものがICに内蔵されていない場合にはこれらの懸念を払拭するために外部回路を追加して対策を講じなくてはなりません。保護機能はICにとって非常に重要な機能の一つであり、ユーザにとっては保護機能がICに内蔵されていることで追加の外部回路が不要になり、コスト削減にも繋がります。

 

各種保護機能

オーディオアンプICの各種保護機能について具体的にご紹介します。保護機能には①過電圧保護、②低電圧保護、③過熱保護、④過電流保護、⑤短絡保護、⑥DC検出、⑦クロックエラー検出などがあり、アンプの動作方式の違いやそもそも製品によってこれらの保護機能が内蔵されているものと内蔵されていないものがあります。これらの保護機能をざっと眺めてみると、「あれっ!」とお気づきになる方がいらっしゃると思います。そうです、電源ICでも目にするような保護機能が多く含まれています。接続する負荷が低インピーダンスのスピーカになるため、電源ICと同様の保護機能が必要になるわけです。例として挙げているこれらの保護機能がすべてというわけではありませんし、障害に対する検出条件、検出方法、復帰方法などについても製品によって異なる場合があることにご注意下さい。

① 過電圧保護(OVP:Over Voltage Protection)

入力電圧が推奨動作電圧範囲を超過し、過電圧保護の閾値電圧を超えた場合に出力を停止(Hi-Zに)します。これによりICと後段の回路や負荷を保護します。また、復帰する際は同一の閾値電圧ではなく、ヒステリシスを持っており、不安定動作に陥ることがないように工夫されています。但し、ICによって自動復帰するタイプとユーザのトリガーによるFault Clearが必要なタイプがあり、仕様はICに依存します。

② 低電圧保護(UVP:Unver Voltage Protection)

入力電圧が推奨動作電圧範囲を下回り、低電圧保護の閾値電圧よりも低下した場合に出力を停止(Hi-Zに)します。これによりICの誤動作を防止します。また、復帰する際は同一の閾値電圧ではなく、ヒステリシスを持っており、不安定動作に陥ることがないように工夫されています。但し、ICによって自動復帰するタイプとユーザのトリガーによるFault Clearが必要なタイプがあり、仕様はICに依存します。

③ 過熱保護(OTP:Over Temperature Protection or TSD:Temperature Shutdown)

ICのジャンクション温度が閾値を超えた場合に出力を停止(Hi-Zに)します。これによりICの損傷や焼損を防止します。この閾値は絶対最大定格を超えたところに設定されていることが多く、ICの長期信頼性に影響を及ぼす可能性があるため、通常動作時においてこの閾値を超えないように設計する必要があります。また、復帰する際は同一の閾値ではなく、ヒステリシスを持っており、不安定動作に陥ることがないように工夫されています。但し、ICによって自動復帰するタイプとユーザのトリガーによるFault Clearが必要なタイプがあり、仕様はICに依存します。

④ 過電流保護(OCP:Over Current Protection)

出力電流が閾値電流を超えた場合に出力を停止(Hi-Zに)します。これによりICや負荷の損傷や焼損を防止します。過電流を検出すると、即動作を停止するタイプとある一定期間、電流制限を掛けながら動作し続けるタイプがあります。復帰に関してはユーザのトリガーによるFault Clearが必要になります。

⑤ 短絡保護(SCP:Short Circuit Protection)

天絡、地絡、隣接ピンなどへのショートによる過電流保護で、基本的に④過電流保護と同一の動作になります。

⑥ DC検出(DC Detection)

Class-D Ampにおいて出力のDCオフセット電圧を監視し、ある一定期間、閾値を超えた場合に出力を停止(Hi-Zに)します。これによりDCオフセット電圧に起因するスピーカのボイスコイルの溶断を防止します。復帰に関してはユーザのトリガーによるFault Clearが必要になります。

⑦ クロックエラー検出(Clock Error Detection)

オーディオプロセッサを内蔵したClass-D AmpではI2S(Inter-IC Sound)の各Clockを監視し、タイミング要件(例えば、ビットクロックの周波数とフレーム同期の周波数との比など)を満たしていない場合に出力を停止(Hi-Zに)します。これにより予期せぬクロック停止時も含め、誤動作を防止します。復帰に関しては自動復帰になります。

 

各種保護機能をご紹介する際に登場した「ヒステリシス」という用語について聞きなれない方もいらっしゃるかもしれませんので、自動復帰するタイプの過電圧保護の例を図1に示します。過電圧を検出する閾値電圧VHighと過電圧をクリアする閾値電圧VLowの2つの閾値でヒステリシスを持たせることにより過電圧検出のチャタリングを防止しています。仮に閾値電圧VHighのみの場合にはチャタリングが発生します。

図1 過電圧保護の異常検出

まとめ

オーディオアンプICの保護機能についてご紹介させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?冒頭にも記載させて頂きましたが、古い製品には保護機能自体が内蔵されていない場合がありますので、オーディオアンプICを選定される際はなるべく新しい製品をご検討下さい。また、保護機能の詳細に関しましてはデータシートに記載されておりますので、製品選定時にご確認頂くことをお勧めします。

お問い合わせはこちらから!