- 公開日:2021年09月02日
- | 更新日:2022年11月30日
「その電源ICのノイズ、本当にICから出ているノイズですか?」
- ライター:UTM
- 電源
スイッチング・レギュレータを選定後いざ評価をしてみると「出力電圧のノイズがひどくて負荷側の定格を守れない!」となったことはありませんか。そんなとき次のように電源ICの不良を疑うと思います。
・IC周りの部品はデータシート通り選定しているのに、ICの不良じゃないか?
・入力電源にノイズはないのにICの不良じゃないか?
実はスイッチング・レギュレータの評価では、意外な落とし穴が潜んでいることがあります。
この記事ではその落とし穴について紹介します。(ページの最後におまけとして波形測定DIYも公開しています)
電源IC評価時に発生するノイズ
Texas Instruments社(以下、TI社)の評価ボードTPS54240EMV-605で図1の通りに安定化電源と電子負荷を接続して測定を行いました。
波形はICの出力を直接見るために図2のTP4をオシロスコープで測定しました。
入力電圧は12V、出力電圧は3.3V、電子負荷は出力1Aとなるように調整しています。
図1.測定系
図2.評価ボード回路図
出典:Texas Instruments –ユーザーズガイド
TPS54240EVM-605 2.5-A, SWIFT™ Regulator Evaluation Module
https://www.tij.co.jp/jp/lit/ug/slvu371/slvu371.pdf
波形を確認するとスイッチングのタイミングで次のようにノイズが確認できます。
図3.評価ボード測定時波形
アンダーシュートのノイズが特に大きく出ていることがわかります。
評価ボード内の電源ICのデータシートを確認すると、アンダーシュートは電源ICの絶対最大定格を超えていました。
※絶対最大定格:デバイスが許容できる絶対的な最大の定格。一瞬でも超えるとICが破壊されてしまう可能性がある
図4.TPS54240出力電圧絶対最大定格
出典:Texas Instruments –データシート
TPS54240 3.5V to 42V Input, 2.5A Step-Down Converter with Eco-Mode
https://www.tij.co.jp/lit/ds/symlink/tps54240.pdf
評価ボードを使っていて、入力も安定化電源を使っているのになぜICが破壊されてしまうようなノイズが?と思われると思います。
実は測定方法に問題があり、この測定方法こそが落とし穴になります。
測定方法によるノイズの変化
先ほどの測定環境からオシロスコープのプローブによるGNDの取り方を変えるだけで以下のような波形になります。
(左は図3の波形の拡大波形です。)
図5.比較波形(左:プローブGND対策前 右:プローブGND対策後)
比較するとアンダーシュートが少なくなっていることが確認できます。
では、プローブのGNDの取り方の違いとはどのような違いでしょうか。
私が評価した方法は以下の2種です。
グランドスプリングでの波形取得は図2のD1の両端で測定しています。
図6.グランドリードとグランドスプリング
グランドリードは一般的にオシロスコープで測定する際に使用します。
しかし、このリードが大きなループを構成することでループがアンテナとなりノイズを受け取り、そのノイズが波形に表れていました。
これをグランドスプリングに変更することによってループを最小限に抑え、ノイズの受け取りを最小限に抑えることができます。
これにより上記の比較波形のように同じ環境、同じICでも見え方が違った波形を測定することができます。
まとめ
この記事では電源IC評価時の落とし穴について紹介させていただきました。
ノイズが発生した場合まずは入力電源や電源IC、また周りの素子を疑ってしまうため、見落としがちな原因になります。
ノイズに困った場合は、測定系に問題がないか疑ってみるということも心に留めておいていただければと思います。
おまけ:グランドスプリングの作成
「グランドスプリングなんて持ってないよ。」「付属品にあったけど、なくしてしまった」という方も中にはいらっしゃるかもしれません。
しかし、グランドスプリングは簡単に自作することも可能です。今回の測定結果も私が自作したもので行いました。
特別にそのレシピを公開します。
①銅線等、導電性が高い金属を用意します。
図7.銅線
②プローブのグランド部分に銅線を巻き付け(このときラジオペンチ等を用いると作成しやすいです)、少し横にだしたあと先端をピン等に当たりやすいようにニッパー等で切り尖らせます。
図8.グランドスプリング装着プローブ
これで完成です。(約3分で作成できます)
このように余っている銅線等で簡単に作成できるため、ぜひお試しいただければと思います。
図9.測定時の様子