- 公開日:2018年06月04日
- | 更新日:2024年03月28日
昇圧型DC/DCコンバータの原理とデバイス選定時の注意点
- ライター:choco
- 電源
はじめに
みなさん、DC/DCコンバータ使っていますか?
いきなり変な質問から始まりましたが、私たちの身の回りにある電化製品など、電気で動く機械のほとんどは電源ICが使われています。この電源ICには大きく分けてリニアレギュレータとスイッチングレギュレータがあります。みなさんが一般的に「デコデコ」「デデコン」といった名前で呼んでいるDC/DCコンバータはスイッチングレギュレータの一種です。似たものにLDOがありますが、こちらはリニアレギュレータの一種です。(本記事ではLDOの詳細な説明は割愛します。)
今回はDC/DCコンバータの中でも昇圧型DC/DCコンバータの原理について説明し、そのあとにデバイス選定時の注意点を説明していきます。
DC/DCコンバータとは
DC/DCコンバータはその名の通り、DC(直流)からDC(直流)に変換する部品です。実際には直流の電圧を変換しています。
変換前の電圧より変換後の電圧が低くなることを降圧といい、逆に高くなることを昇圧といいます。
LDOなどのリニアレギュレータは、入力電圧よりも低い電圧レベルを出力側に取り出す降圧型の動作しかできませんが、DC/DCコンバータなどのスイッチングレギュレータでは降圧のほかにも昇圧、昇降圧、反転など、入力電圧よりも高い電圧や、極性の異なる電圧を得る事ができます。
電圧変換が必要な理由
そもそも何故電圧変換が必要になるのでしょうか?
一般家庭には交流が送電されています。一方、電化製品に搭載されている電子部品のほとんどは直流でしか動作することができません。そのため、交流を直流に変換する 「AC/DCコンバータ」が必要となります。身近なものとしては、ACアダプタはまさに交流を直流に変換するためのものです。ACアダプタがなく、コンセントに直接接続できる電化製品もその製品の内部に交流から直流に変換するための部品が組み込まれています。
電子部品には5Vで動作するものや、12Vで動作するものなど、それぞれの電子部品固有の動作電圧範囲や精度の要求があります。この要求を守らなければ、デバイス破壊や劣化、誤動作などを招いてしまう可能性があります。
それぞれの電子部品に適した直流電流を供給するために、DC/DCコンバータのような電源ICを使って電圧変換を行う必要があるのです。
それでは、DC/DCコンバータはどのような仕組みで電圧変換をしているのでしょうか。
電圧変換の仕組み
降圧型DC/DCコンバータの場合
図1. 降圧型DC/DCコンバータの回路構成図
まずはよく見る降圧型から説明します。
降圧型DC/DCコンバータの回路構成は図1の通りとなります。 MOSFET、ダイオード(同期整流の場合はダイオードの箇所もMOSFET)、コイル、コンデンサで構成されています。
MOSFETがONした時、入力の電源からコイルに電流を流して電気エネルギーを磁気エネルギーに変換し、コイルにエネルギーを蓄積します(赤い矢印の流れ)。その後MOSFETをOFFし、コイルに溜まっている磁気エネルギーが再度電気エネルギーとして出力側の負荷に供給されます(青い矢印の流れ)。このON/OFFを調整して、出力側に一定の電圧を出力しています。
では、昇圧型ではどのようになっているでしょうか。
昇圧型DC/DCコンバータの場合
図2. 昇圧型DCDCコンバータの回路構成図
昇圧型では、使用する部品は変わらず、コイルがエネルギーを溜めてON/OFFを調整することで電圧変換をしている原理は変わりません。ただし、回路構成が異なっています。
降圧型と比べるとコイル、MOSFET、ダイオードの位置が変わっていることが分かると思います。
MOSFETがONのとき、インダクタにエネルギーを溜めているのは同様です(赤い矢印の流れ)。一方、MOSFETがOFFになったとき、入力電源のエネルギー+コイルが蓄積したエネルギーが出力側に供給されることになります(青い矢印の流れ)。そのため、入力電圧よりも高い出力電圧に設定することできるのです。
電力変換効率で最大出力電流が決まる!
DC/DCコンバータの電力変換効率は 出力電力(Pout)÷入力電力(Pin)で求める事ができます。また、電力は電圧(V)×電流(I)で求めることができます。
仮に電力変換効率を80%、入力電圧(Vin)を5V、入力電流(Iin)を10Aとした場合で考えてみましょう。
入力電力(Pin)は50Wとなり、出力側に供給できる電力Poutは50W×0.8=40Wとなります。出力電圧Vout=10Vとすると、Iout=4Aとなり、Vout=20VとするとIout=2Aとなります。
図3. 変換効率と最大出力電流
すなわち、昇圧比が大きくなるほど出力可能なIoutは減少するという事が分かります。
このように、昇圧型DC/DCコンバータは、入力電圧と出力電圧の関係により、最大出力電流が決まってきます。FET を内蔵した降圧型DC/DCコンバータでは「出力電流 1A の降圧コンバータ」というように最大出力電流が規定されており、ユーザーは負荷で必要とされる最大電流に応じて製品を選択する事ができますが、昇圧型DC/DCコンバータでは何Aの出力が可能なのかが書かれている製品はほとんどありません。
では、ユーザーの要求仕様に合うICをどのように選定したらよいのでしょうか。
昇圧型DC/DCコンバータの選定方法
内部FETの電流容量に注意!
前項で、効率によって最大電流が決まるという説明をしました。では実際にIC選定の際の注意点について説明していきます。
まず、下記の要求仕様に対して、デバイスを選定すると仮定します。
- 入力電圧(Vin) :3.3V
- 出力電圧(Vout) :5V
- 出力電流(Iout) :0.8A
ここで、効率が80%と仮定すると、入力電流は約1.5Aと計算されます。
図4. 入力電流(Iin)の経路
ICへの入力電流(Iin)は図4に示されるように流れますので、入力電流がどの程度なのかを見積もり、IC内蔵のFETの電流容量を確認しなければなりません。
また、このIinはインダクタのリップル成分も含まれている為、ICに流れる電流のピーク値は (Iin+インダクタリップル電流/2) で算出することができます。今回のケースだと、リップル電流を入力電流の30%として設計した場合、リップル分が0.45Aとなり、入力電流のピーク値は1.725Aとなります。このピーク値を流せるだけのFETが内蔵されたICを選定する必要があります。
IC選定例
先程のケースで、実際にTI製品の昇圧DCDCコンバータを選定してみます。
一般的に昇圧型DC/DCコンバータのデータシートには、内部FETの電流容量の記載があります。
図5. TPS61093の内部FET電流容量 (出典:Texas Instruments Inc. TPS61093 Datasheet)
出力電流とこの記載を比較してしまうケースがありますが、これは誤りです。
先ほどの説明の通り、内部FETには効率とリップルを加味した入力電流が流れます。このDC/DCコンバータでは最小値が0.9A、最大値が1.5Aと規定されており、1.725Aはその範囲外、つまり、この場合は電流容量が足りないということになります。
ICを選定する際は、必ずシステムのピーク電流が電気的特性に規定されているCurrent limitの範囲内に収まるものを必ず使用しましょう。
図6. TPS61093の電流容量 (出典:Texas Instruments Inc. TPS61093 Datasheet)
TPS61093は最大1.5Aなので、今回の仕様には適していません。TPS61092であれば使用することができそうです。
図7. TPS61092の電流容量 (出典:Texas Instruments Inc. TPS61092 Datasheet)
このデバイスのCurrent limitの最小値は2Aとなります。また、仕様から効率を見積もる際は、データシート記載の効率カーブや、Texas Instruments社のシミュレーションツールであるWEBENCH®を使うと大変便利です。今回は効率カーブから、おおよそ95%という結果が出ています。
図8. TPS61092の効率カーブ (出典:Texas Instruments Inc. TPS61092 Datasheet)
効率95%から平均入力電流を見積もると、約1.3Aとなります。ピーク値算出のためにインダクタに流れるリップル電流を見積もります。リップル電流を入力電流の30%と見積もって計算すると約0.4Aとなり、その半分の値を平均電流と足し合わせることでピーク値が求められます。結果、ピーク値は約1.5Aとなるので、このデバイスを使用することができると判断できることになります。
最後に
今回は昇圧型ならではの選定の注意ポイントについて説明しました。昇圧型DC/DCコンバータは負荷電流に対して必ず入力電流が大きくなるので、注意が必要となります。また今回はリップル電流を30%として計算しましたが、リップル電流はインダクタの定数やICのスイッチング周波数によっても変わってきます。使うインダクタが決まっているケースや、候補ICのスイッチング周波数が違うケースもあるかと思いますが、都度電流ピーク値を見積もり、ICに流せるのかどうかを検討していただく必要はあるので、注意が必要となります。
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