- 公開日:2021年11月18日
- | 更新日:2022年11月18日
ポップノイズとは ~BTL出力編~
- ライター:Kato Sadanori
- オーディオ
ポップノイズって何?
ポップノイズの説明にきましては既に「ポップノイズとは ~シングルエンド出力編」でご紹介済みですので、是非こちらをご参照下さい。今回はBTL(Bridge Tied Load)接続でスピーカを駆動した際に発生するポップノイズのお話になります。
BTL出力のポップノイズ
クラスDアンプのオーディオアンプICを使用し、BTL接続でスピーカを駆動した際に電源投入時におけるポップノイズについてご紹介します。BTL出力の例を図1に示します。オーディオアンプICの差動入力となるVIN+、VIN-にはDAC出力のオフセット電圧をキャンセルするためにAC結合コンデンサCin+、Cin-を挿入します。一方、出力にはLCフィルタを挿入し、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)出力信号を平滑化し、アナログ信号に復調します。BTL接続の場合、VOUT+とVOUT-の電圧差によってスピーカから音を鳴らします。オーディオアンプICは単電源で動作し、VCCとGND間に所望の電圧を印加します。電源の投入と共にオーディオアンプICがシャットダウンモードから通常動作モードに自動的に切り替わるような使い方を想定しています。具体的にはシャットダウン制御端子がプルアップ抵抗を介してVCCに接続されている状態を指します。簡略化のために図1にはシャットダウン制御端子を記載しておりません。
図1 BTL出力の例
ポップノイズが発生する電源投入時の波形イメージを図2に示します。オーディオアンプICに電源電圧VCC(⑥電源波形)を印加すると、オーディオアンプICの入力段に挿入されているAC結合コンデンサCin+、及びCin-がプリチャージされ、VINC+、及びVINC-(②プリチャージ波形)はCin+とRin+、Cin-とRin-の時定数(τ=CR)でいずれも同一の電圧(自己バイアス電圧)に遷移します。デバイスのターンオン時間(③PWM出力波形:PWM信号の出力開始)よりもCin+とRin+、Cin-とRin-の時定数が大きい場合、定常状態に至る前にデバイスがPWMのスイッチング動作を開始し、「”VINC+” – “VINC-“ ≠ 0V」の条件を満たすことで、ポップノイズ(⑤Speaker出力波形)を引き起こします。図2において図1に記載している「④LCフィルタ後の出力波形」を割愛しています。また、各波形の電圧レベルや「③PWM出力波形」はイメージになりますので、実動作時における詳細な電圧変化やDutyの変化を示すものではありません。
図2 BTL出力の電源起動時におけるポップノイズ
ポップノイズの低減方法
図2におけるポップノイズの発生メカニズムはCin+、及びCin-のプリチャージ中にデバイスが通常動作モードに移行し、Cin+とCin-の絶対値バラツキにより時定数の差が入力電圧の差として増幅され、ポップノイズが生じました。このポップノイズを低減する方法を3つご紹介します。
① 時定数の低減
デバイス固有のターンオン時間やデバイス内部の入力インピーダンス(Rin+、Rin-)を任意に変更することは出来ないため、ターンオンする前に定常状態に遷移するようにAC結合コンデンサの値を小さいものに変更することが最もシンプルな対策です。
② 許容誤差の小さいコンデンサを使用
AC結合コンデンサの絶対値バラツキによって時定数に差が生じ、それがポップノイズとして現れるため、許容誤差の小さいコンデンサを使用することでポップノイズを低減します。
③ ミュート制御機能の活用
オーディオアンプICによってはシャットダウン制御端子とミュート制御端子がそれぞれ用意されている場合があります。電源投入と同時にシャットダウンを解除したとしても定常状態に遷移するまではミュート制御をアクティブにしておくことで、ポップノイズを低減することが出来ます。
ポップノイズ低減方法の「①時定数の低減」を適用した場合、AC結合コンデンサCin+、Cin-とオーディオアンプICの入力インピーダンスRin+、Rin-で形成されるハイパスフィルタによって低音域のゲイン特性が変化します。入力インピーダンスRin+、Rin-を10kΩに固定し、Cin+、Cin-を0.1uFと1uFにした場合、それぞれのゲイン特性は図3の通りです。結果として時定数を小さくすること(AC結合コンデンサを1uFから0.1uFに変更すること)で、ポップノイズを低減することは可能ですが、低域遮断周波数が高周波側にシフトし、低音域のゲインが減衰され、低音域の音源が失われてしまいます。時定数を小さくする場合にはご注意下さい。
図3 AC結合コンデンサで形成されるハイパスフィルタのゲイン特性
計算過程は割愛していますが、式(1)により1次のCRハイパスフィルタのゲインG[dB]を得ることが出来ます。
………式(1)
ここで、ωは
………式(2)
まとめ
BTL出力のポップノイズについてご紹介させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?オーディオアンプICと周辺回路の組み合わせによって電源投入時だけではなく、シャットダウン移行時、シャットダウン解除時、ミュート移行時、及びミュート解除時においてもポップノイズが発生する場合があります。そのため、データシートに記載されている推奨回路の回路定数でのご使用を推奨します。また、ポップノイズの低減方法につきましては確実にポップノイズが低減出来ることを保証するものではなく、あくまで参考例としてお取り扱い下さい。