- 公開日:2022年01月06日
- | 更新日:2022年11月18日
そのLDOで、本当にノイズを除去できますか?
- ライター:たまちゃん
- 電源
低ドロップアウト型リニアレギュレーター(以降LDOを記載)を降圧型スイッチングレギュレーターの後段に接続している電源構成を見ることは多いですよね。
これは、LDOの最大の利点の1つとされている、スイッチング電源から発生する電圧リップルを減衰させることができるという性能を活用するための回路構成で、ADC、クロックなど、ノイズの多い電源電圧により性能が低下する可能性のあるデバイスにおいてよく用いられています。
図1:ポストレギュレーターとしての回路構成
こういった回路を構成する際に、重要となってくる指標にPSRRというものがあります。このPSRRはやや誤解されやすい指標ですので、定義からしっかり解説していきたいと思います。
PSRRとは?
PSRRの定義
PSRRとはPower Supply (ripple) Rejection Ratioの略です。
PSRRは入力電圧変動に対して、出力電圧変動をどれだけ抑えられるかを示す指標で以下式で定義されています。
■ VINRPL :LDO の入力電圧 VIN のリップル成分
■ VOUTRPL:LDO の出力電圧 VOUT のリップル成分
PSRRのよくある誤解
PSRRは、静的な固定の値と誤解されることがよくあります。しかし実際は、PSRRは周波数特性を持っており、周波数によって値が変化します。
例として、Texas Instruments社のLM338とTPS717の2つの製品のPSRRを比較してみましょう。ここでは1MHzのリップル電圧に対してのPSRRを比較します。
図2: LM338 PSRR周波数特
出典:Texas Instruments –データシート LM338, 5A可変レギュレーター
https://www.tij.co.jp/jp/lit/ds/symlink/lm338.pdf
図2からLM338は、周波数1MHz時はPSRRは0dB近くになります。したがってLM338は、1MHzのリップル電圧において除去能力はほぼ無いことがわかります。
図3:TPS717 PSRR周波数特性
出典:Texas Instruments –データシート TPS717 低ノイズ、高PSRR、低ドロップアウト、150mAリニアレギュレーター https://www.tij.co.jp/jp/lit/ds/symlink/tps717.pdf
次にTPS717というPSRR特性が非常に高い周波数まで伸びている製品だと、図3からPSRRは100KHzまでフラットで、1MHzでも40dB以上のPSRRが確保されています。
10MHzでもまだ20~30dB程あります。したがってTPS717であれば、十分に1MHzのリップル電圧を除去可能となります。
以上からLM338のように入力電圧の変動周波数によってはノイズを除去できないことがあるので、選定の際にはPSRRの周波数特性から入力変動を抑える性能を持ったLDOかどうかを確認することが重要です。
PSRRの変動要因
条件
ここからはPSRRについて理解を深めるために、さらに具体例で考えてみましょう。
入出力電圧や周辺部品の条件は以下のとおりです。
降圧型スイッチングレギュレーター
- 入力電圧 : 12V
- 出力電圧 : 4.3V±50mV
- スイッチング周波数 : 1MHz
TPS717(LDO)
- 入力電圧 : 4.3V±50mV
- 出力電圧 : 3.3V
- 出力電流 : 150mA
- 出力コンデンサ : 1uF
- ノイズ低減コンデンサ : 10nF
この条件をわかりやすく反映させると次のようになります。
図4:TPS717 PSRR周波数特性
出典:Texas Instruments –「LDOの基礎」7章 電源除去比 図1 https://www.tij.co.jp/jp/lit/eb/jajy087a/jajy087a.pdf
PSRRからリニアレギュレーターの出力リップル電圧を求める
図4の条件をもとに、1MHzでのPSRRをデータシートのPSRRの周波数特性から求めたいと思います。
図5は、TPS717 のデータシート内に記載の「入出力電圧差が1VのときのPSRR曲線」です。1MHzでのPSRRの周波数特性は、赤丸から約45dBであることがわかります。
図5:TPS717 VIN-VOUT=1VのときのPSRR曲線
出典:Texas Instruments –データシート TPS717 低ノイズ、高PSRR、低ドロップアウト、150mAリニアレギュレーター https://www.tij.co.jp/jp/lit/ds/symlink/tps717.pdf
入出力電圧差を0.25Vに変更すると
上記の条件から入出力電圧差を0.25Vに変更した場合についての情報を、同データシート内から抜粋すると、図6の赤丸から1MHzでのPSRRは約23dBです。
入出力電圧差が1Vのとき、PSRRは約45dbであったことを踏まえると、PSRRは入出力電圧差に依存することがわかります。
図6:TPS717 VIN-VOUT=0.25VのときのPSRR曲線
出典:Texas Instruments –データシート TPS717 低ノイズ、高PSRR、低ドロップアウト、150mAリニアレギュレーター https://www.tij.co.jp/jp/lit/ds/symlink/tps717.pdf
PSRRの変動要素
具体例からPSRRの変動要素の一例として、入出力電圧差についてデータシートをもとに確認しましたが、それ以外にもPSRRの変動に大きく影響を与える要素がいくつかあります。
それらをまとめた表を、最後にご紹介させていただきます。
表1: PSRRに影響する変動要素
出典:Texas Instruments –「LDOの基礎」7章 電源除去比 表1 https://www.tij.co.jp/jp/lit/eb/jajy087a/jajy087a.pdf
一般的にPSRRは、以下3領域に分けられています。
1.DC~数 kHz の低周波領域
2.数 kHz~100kHz 程度の中周波領域
3.100kHz 程度以上の高周波領域
1~3のそれぞれの周波数帯域で支配的なパラメーターが異なりますので、デバイス、外部部品の選定の際に、これらの情報を頭の片隅に入れておくと良いかと思います。
おわりに
今回はLDOをポストレギュレーターとして使用する際の重要な指標であるPSRRについて解説しました。
PSRRの高いLDOを活用することで高精度な電源構成を実現することが可能なので、選定の際には是非意識してみて下さい!