- 公開日:2022年01月14日
- | 更新日:2022年11月18日
フィルタレス製品の測定方法とは
- ライター:Kato Sadanori
- オーディオ
フィルタレス製品とは
クラスDアンプのオーディオアンプICの中にはフィルタレス、あるいはインダクタフリーと呼ばれる製品が存在します。これらの製品ではPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号を平滑化するためのLCフィルタ(外付け回路)が不要になります。そのため、LCフィルタの実装面積やBOM(Bill of Materials:部品表)コストの削減などのメリットがありますが、スピーカ接続端までの基板配線パターンが長いことなどによりアプリケーションによってはEMI(Electromagnetic Interference:電磁妨害)対策が必要になるケースがあります。EMI対策が必要な場合、フィルタレス製品ではインダクタではなく、フェライトビーズで代用することが出来ます。LCフィルタが必要になる製品とフィルタレス製品の違いですが、フィルタレス製品は内部の変調方式が工夫されています。詳細情報に関しましては各社からリリースされているデータシートをご参照下さい。図1はLCフィルタが必要になる場合、図2はフィルタレスの場合になります。クラスDアンプの出力は矩形波のPWM信号であり、LCフィルタで平滑化を行うのか、スピーカ自体で平滑化を行うのかの違いになります。各図のオーディオアンプICの内部構成をクラスABアンプのような記載にしていますが、クラスDアンプとお考え下さい。
図1 オーディオアンプIC LCフィルタあり
図2 オーディオアンプIC フィルタレス
フィルタレス製品の測定方法
オーディオアンプICの特性評価を行う場合、オーディオアナライザが手元にある環境であれば問題ありませんが、高価なため、簡易的な波形確認などをオシロスコープで代用することがあります。そこで、オシロスコープを用いた波形の確認方法についてご紹介します。フィルタレスのオーディオアンプICに対してAWG(Arbitrary Waveform Generator:任意波形発生器)から1kHzの正弦波をテスト信号として入力し、オーディオアンプICの出力に現れる信号を観測します。図3のようにオシロスコープを使用した場合、矩形波が観察されてしまい、本来確認したい1kHzの正弦波を観測することが出来ません。
図3 フィルタレス製品の測定
オシロスコープの機能である帯域制限フィルタを利用することで、PWM信号の高周波成分を減衰させることが可能ですが、オシロスコープによっては20MHzまでしか対応しておらず、スイッチング周波数を減衰させることが出来ません。そこで、図4のように測定用のRCローパスフィルタを追加してスイッチング周波数の高周波成分を減衰させます。
図4 フィルタレス製品の測定 RCローパスフィルタの追加
図3、及び図4のケースでは負荷としてスピーカを接続しており、スピーカから1kHzのトーン信号が出力されるため、大音量で出力しないように注意する必要があります。オーディオアンプICの特性評価を行う場合、一般的にはダミー負荷を接続して測定を行います。スピーカの代わりにインダクタと抵抗を直列に接続した負荷を使用することが出来ます。一方、オーディオアンプICの出力にLCフィルタを接続している場合にはダミー抵抗のみで測定することが可能です。
RCローパスフィルタ
一般的なオーディオ帯域の上限である20kHzを考慮してRCローパスフィルタに必要な帯域を20kHz以上とします。この条件に基づいて図4で追加したRCの定数を決定します。一例としてR=1kΩ、C=4700pFを選択した場合のRCローパスフィルタのゲイン特性を図5に示します。PWMのスイッチング周波数を300kHzと仮定すると、約-19dBまで減衰させることが出来ます。市販されているオーディオアンプICにおけるPWMのスイッチング周波数は数百kHz~数MHzになります。
図5 RCローパスフィルタのゲイン特性
計算過程は割愛していますが、式(1)により1次のRCローパスフィルタのゲインG[dB]を得ることが出来ます。
………式(1)
ここで、ωは
………式(2)
となり、fは周波数を指します。
また、カットオフ周波数fcは式(3)で求めることが出来ます。R=1kΩ、C=4700pFの定数の場合、fc=33.9kHzになります。
………式(3)
まとめ
フィルタレス製品の測定方法についてご紹介させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?追加したRCローパスフィルタは1次のフィルタであり、PWMのスイッチング周波数を更に減衰させるには高次のLCRローパスフィルタが必要になります。今回ご紹介した方法は簡易的な波形確認を目的としており、各種オーディオ特性について評価することが出来ることを保証するものではありません。