• 公開日:2022年03月04日
  • | 更新日:2022年11月18日

伝送路反射とは?① ~伝送路とは~

はじめに

伝送路反射が原因で装置が誤動作を起こしたということを耳にしませんか?

・そもそも伝送路って何?
・特性インピーダンスって何?
・反射ってなぜ起こる?

こんな疑問について一緒に学んで行きたいと思い、このブログを書きました。
「伝送路の特性インピーダンス=伝送路の抵抗値?」とイメージする方がいるかもしれません。
私も当初の頃はそのイメージを抱いていました。実際の伝送路は小さなインダクターと、キャパシタが数珠つなぎになった回路と考えられます。

では、インダクターと、キャパシタが数珠つなぎによってなにが起こるのでしょうか?
また、伝送路での反射はどうやって起き、どんな問題が生じるのでしょうか?

この様な疑問に対し、伝送路とは何か、そして伝送路の特性インピーダンスと反射についてわかりやすく解説します。
また、TI社が無償で提供しているPSPICEシミュレーションツールを用いて検証した事例も紹介します。加えて、伝送路の反射波形からわかること、終端抵抗は設置位置が重要なこと、CMOS信号の終端方法についても触れます。

本稿は2回にわたり、1回目では伝送路とは何か、伝送路の特性インピーダンスとは何かを説明し、 2回目では伝送路の反射について説明します。

伝送路とは?

伝送路は信号が伝わる導体です。直流信号に対しては、微小な抵抗が数珠つなぎになった回路とみなせます。
但し、それらの抵抗は非常に小さく、通常は無視します。
しかし、交流信号に対しては違います。交流信号に対して伝送路は以下のようにインダクターLとキャパシタCの集合体と見なされます。特に高周波信号にとってはこれらの要素は無視できない存在です。
高周波の信号は、順次これらのインダクターLを通してキャパシタCに充放電を行いながら伝送路を伝わっていきます。

伝送路にステップパルスを印加

下図は基板トレースにステップパルスを加えた場合を例に、伝送路の状態を示したものです。
時刻tで送信端TXで電圧が0Vから5Vに変化します。しかし、加えられた5Vの信号は瞬時に受信端に届くことはありません。

その後、時間経過とともに、ドミノ倒しの様に送信端に伝搬していきます。
時刻tからΔt経過後、キャパシタCの充電が進み、伝送路の途中まで5Vに到達します。
送信端から受信端まで到達に遅延が生じることがわかります。

伝送路の特性インピーダンスとは?

信号がゆっくり変化するなら、伝送路上のインダクターL、キャパシタCは無いものと見做せ、なにも起きません。
しかし、信号の変化時間に対し受信端までの距離が遠いと、両端の電位は同じになりません。
つまり、電気信号を波として取り扱う必要があります。

電磁気学では、信号は電流と磁気とで交互に姿を変えてトレース上を伝わります。小さなインダクターとキャパシタが数珠つなぎになったモデルとして取り扱えます。
LとCの比により伝送路の性質が決まります。 LとCの比を伝送路の特性インピーダンスと呼びます。

上記線路を伝わる波の速さVpと特性インピーダンスZOは以下で求まります。
特性インピーダンスの単位はΩで示されますが、トレースの抵抗成分とは無関係です。

※ Lは単位長さのインダクタンス、Cは単位長さのキャパシタンス

基板上の特性インピーダンス

実際のプリント板上のトレースでは特性インピーダンスはどの様になるのか、見ていきます。
プリント板のトレースは、大きく2つの手法が用いられます。
表面の配線(マイクロストリップライン)と内層の配線(ストリップライン)です。
特性インピーダンスの計算式は両者で異なります。それぞれの特性インピーダンスZoは以下で求まります。

マイクロストリップライン/ストリップライン、いずれの場合も、特性インピーダンスZoはパターン幅Wに逆比例し、銅箔厚Tに関係します。
特性インピーダンスはトレースの機械的寸法で決まります。

※ 補足ですが、単位長当たりのインダクターLはトレース幅に依存します。単位長当たりのキャパシタCはトレース幅、並びにトレースとGNDとの距離に依存します。

まとめ

本稿では伝送路とは何か、伝送路の特性インピーダンスとは何かを説明しました。
プリント板トレースやケーブルは目に見えないインダクタンスLとキャパシタンスCが連なったもので、その上を電気信号が波として伝わるということをご理解頂けたと思います。
そして、伝送路の特性インピーダンスはトレースの抵抗成分とは無関係で、伝送路の単位長さ当たりのインダクタンスLとキャパシタンス Cの比で定まることがご理解頂けたと思います。

次回は本題の伝送路反射について説明します。