• 公開日:2022年03月08日
  • | 更新日:2024年03月28日

伝送路反射とは?② ~反射の発生と詳細~

はじめに

前回は伝送路とは何か、伝送路の特性インピーダンスとは何かを説明しました。
本稿では本題の伝送路反射について説明します。

伝送路反射とは?

池の水面を見ていると、池の真ん中に出来た波は岸壁に到達すると跳ね返ります。
同様に、電気信号も波なので、伝送路の端で反射します。
端に限らず、伝送路状態、特性インピーダンスが変わる場所でも反射します。これが伝送路反射です。
一例として、以下のように、特性インピーダンスZ0の伝送路を波が伝播すると、Ziで終端された受信端で反射します。

入力波に対し、どの程度反射波が生じるかを示す指標として反射係数ρを定義します。
反射係数ρは下式で示されます。

※ Zi:終端抵抗(終端インピーダンス)  ZO:伝送路の特性インピーダンス

上式から、分子が0なら、つまりZi=ZOの場合は反射が起きません。

伝送路反射のシミュレーション

ここで整合終端(伝送路の特性インピーダンス=終端抵抗)を含めて、以下4つの事例について、どのような反射波が発生するかシミュレーションしてみます。

①整合終端:伝送路の特性インピーダンスと等しい終端抵抗
②オープン終端:終端をオープン
③ショート終端:終端をショート
④容量終端:終端がキャパシタ

上記4例について、Pspice for TI®を用いたシミュレーション結果にて説明します。

■シミュレーション条件■
・T1(伝送路の特性インピーダンス ZO):50Ω
・終端条件 Zi:①~④
・測定点:送信端(下図のプローブ)
・信号源のソースインピーダンス R1:50Ω
・信号源の電圧振幅:1V
・立上り、立下り時間:100ps

条件①:整合終端

最初は整合終端(伝送路の特性インピーダンス=終端抵抗)です。
計算式から反射係数0です。反射波は発生しない筈です。

P-SPICE for TIでのシミュレーション結果です。反射波がない綺麗な波形が得られます。

条件②:オープン終端

次はオープン終端の事例です。計算式から反射係数1です。
入射波と同じ反射波が重畳される筈です。

 

P-SPICE for TIでのシミュレーション結果です。入射波に反射波が重畳されているのがわかります。

条件③:ショート終端

続いてショート終端の事例です。計算式から反射係数-1です。
入射波と真逆(負)の反射波が重畳される筈です。

 

P-SPICE for TIでのシミュレーション結果です。
入射波に真逆(負)の反射波が重畳され、打ち消し合うことで振幅は0Vになります。

条件④:容量終端

最後に容量終端の事例です。反射係数は容量の充電、つまり時間の経過に伴い変化します。

 

P-SPICE for TIでのシミュレーション結果です。時間経過とともに、反射波の影響によって波形が変化します。

伝送路反射が起きると何が問題になるのか?

伝送路を適切に終端しないと入射波に反射波が重畳され、設計時には意図していな波形が発生することが分かったと思います。
つまり反射が生じた場合に以下の事象が危惧されます。

・過大な入力によって、ICが電気的ストレスを受ける
・信号が歪み、通信障害を起こす
・EMIを悪化させる

このことから、極力反射を発生させないように配慮が必要です。

伝送路反射からわかること

伝送路の反射を無くすことは重要です。
逆に、観測した反射波形から対策に関する大切な情報を得ることができます。
反射波形を見れば、観測点から反射点までの電気長(観測点から反射点までの時間)や、伝送路の特性インピーダンスと終端抵抗との比を知ることができます。

一例として、以下の条件にてPspice for TIを用いてシミュレーションしました。

■シミュレーション条件■
・伝送路T1の特性インピーダンス ZO:100Ω, 電気長:2ns
・終端条件 Zi:300Ω
・測定点:送信端(下図のプローブ)
・信号源のソースインピーダンス R1:100Ω
・信号源の電圧振幅:1V
・立上り、立下り時間:100ps

①シミュレーション結果

得られるシミュレーション波形は以下になります。

②観測点から反射点までの電気長

シミュレーション結果の段差のある波形の中点同士の時間Δt を確認することで、観測点から反射点まで信号が往復する時間が分かります。
上図の波形からおおよそΔtが4nsです。往復時間のため÷2をすることで、片道=電気長2nsに相当することがわかります。
得られたΔtと電気的速度(Vp=1/√(L×C))がわかれば、時間Δt÷2(往復のため)×速度で距離の概算も求まります。

③伝送路の特性インピーダンスと終端抵抗の比

反射係数はそれぞれの段、上図の波形におけるV1とV2の電圧振幅の比で求まります。
(※ 反射係数は反射波と入射波の電圧振幅の比でも求まります。)

次に伝送路の特性インピーダンスZOと終端抵抗Ziの比を反射係数から求めます。


上記から、伝送路の特性インピーダンスZOの3倍が終端抵抗Ziに相当、つまり使用したシミュレーションデータ ZO=100Ω、Zi=300Ωで一致していることがわかります。

 

まとめ

2回にわたり、伝送路及び伝送路反射について説明しました。
それぞれ、詳細にご理解頂けたと思います。

伝送路の特性インピーダンス不整合によって反射が生じます。
反射が起きると、電気的ストレス、信号の歪み、ノイズ発生等さまざまな問題が生じます。

伝送路を正しく理解し適切な伝送路終端を用いることで、 不要な反射を防ぐことができます。
結果、安定して確実に動作する装置を製作することができます。

本稿がシステム信頼性の向上の一助になれば幸いです。

Texas Instruments社の製品をお探しの方は、メーカーページもぜひご覧ください。

Texas Instruments社
メーカーページはこちら