- 公開日:2022年07月20日
- | 更新日:2022年11月18日
GaNデバイスの落とし穴!? 第三象限動作について解説します!
- ライター:Tadahiko Kuramochi
- その他
はじめに
最近ではUSB電源アダプター等 身近な製品にも搭載され、そのメリットを感じる事が増えてきたGaN FETですが、
今回はそのGaN FETの第三象限動作(英語表記:Third-quadrant operation)について解説します。
※GaN FETについてはコチラの記事等をご参考ください。
第三象限動作とは?
第三象限とは、一般的に座標平面の左下の領域を指します。
GaNを含めたFETにおける第三象限は、横軸がドレインソース電圧(Vds)、縦軸がドレイン電流(Id)の座標平面における左下(図1)、
つまりドレインソースに負電圧が印加されている状態になります。
図1. FETにおける第三象限
かつ、ゲート-ソース間電圧(Vgs)が閾電圧(Vth)を超えていないOFF状態の動作が第三象限動作と呼ばれます。
MOS FETの場合、ドレイン‐ソース間に負電圧が印加されると、ボディダイオードを経由して電流が流れるため、
ある程度電流が流れた段階でVdsはボディダイオードの順方向電圧(Vf)によってクランプされます(図2)。
図2. MOS FETにおける第三象限動作
一方、GaN FETは構造的にボディダイオードが存在しません。その場合、第三象限動作はどのようになるのでしょうか?
GaNデバイスにおける第三象限動作
結論としては、MOS FETと同様に、GaN FETでもドレイン-ソース間に負電圧が印加されると電流が流れます。
ただそれはボディダイオード経由ではなく、通常のIdと同じ経路で流れます。
なぜ電流が流れるかというと、図3のようにGaN FETが対称構造であり、ドレイン-ゲート間のバイアスによってもチャネルが導通するためです。
図3. GaN FET構造断面図
通常、VgsにVthを超える電圧が印加されるとチャネルが導通し、ドレイン-ソース間に電流が流れます。
しかし、ドレイン-ソース間に負電圧が印加され、結果的にドレイン-ゲート間電圧(Vdg)がVthを超えた場合でも、チャネルが導通しソース-ドレイン間に電流が流れます。
またMOS FETの第三象限動作と異なり、GaN FETの場合VdsがクランプされるのはVfではなく、後述のようにVfより大きい電圧でクランプされます。
クランプ電圧が大きいと、どのような影響があるのでしょうか?
クランプ電圧が大きいことによる影響
よく知られているように、スイッチング回路においては電源-GND間のショートを避けるためにデッドタイムが設けられます。
その期間、ドレイン-ソース間には負電圧がかかり、第三象限動作によって電流が流れます。これによって発生する電力は熱として放出され、損失となります。
この損失はデッドタイム損失と呼ばれ、負電圧×電流で算出されますので、負電圧が大きいほど損失は大きくなります。
つまり、負電圧(=クランプ電圧)が大きいGaN FETはMOS FETと比べるとデッドタイム損失が増えることになります。
さらに、GaN FETの特長を生かした高速スイッチングにおいては単位時間あたりのデッドタイム期間が増え、その分デッドタイム損失の割合が多くなる傾向になります。
GaN FETの場合、デッドタイム損失の増加を受け入れるしかないのでしょうか?
デッドタイム損失低減方法
デッドタイム損失は原理的にゼロにすることはできませんが、低減は可能です。
以下、デッドタイム損失の低減方法を2つ紹介します。
1. 適切なターンオフ時のゲート電圧を与える
GaN FETの負電圧印加時のクランプ電圧(Vsd)は、ターンオフ時のゲート‐ソース間電圧 Vgs,off含む、以下式(1)で算出されます。
Vsd=(Vth-Vgs,off)+(Id*Ron) …(1)
(1)式の通りVgs,offが大きければそれに伴ってVsdを小さく、すなわちデッドタイム損失を小さくすることができます。
Texas Insturuments社のGaNデバイス LMG3410R070シリーズではVgs,offがIC内部で最適化されていますので、クランプ電圧を最小限に抑える事ができます。
2. デッドタイムを最小化する
デッドタイムが短ければ電流が流れる時間が減りますので、それに伴ってデッドタイム損失を減らすことができます。
ソフトスイッチングのアプリケーション限定にはなりますが、
同じくTexas Insturuments社のGaNデバイス LMG3425R050シリーズにはIdeal-diode modeという第三象限動作を検出した際に第一象限動作に移行する機能が搭載されていますので、
GaNデバイス側でデッドタイム損失を最小限にすることが可能です。
まとめ
GaN FETにおける第三象限動作とその影響についてご紹介しました。
MOS FET等と比較してさまざまなメリットがあるGaNデバイスですが、デッドタイム損失のように気を付けるべき点があります。
この記事がGaN FET検討の一助になれば幸いです。
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参考文献
Does GaN Have a Body Diode? – Understanding the Third Quadrant Operation of GaN