- 公開日:2023年03月02日
- | 更新日:2024年03月14日
SSDの消費電力とパフォーマンスについて
- ライター:kishi
- メモリー
はじめに
近年採用が増えてきているSSDは、HDDと異なり駆動する部品がありません。そこでこの記事はSSDの消費電力はどれぐらいになっているか、HDDと対比しながら実際にどれぐらいの値になるか簡易的に測ってみた結果を紹介します。またそのときのパフォーマンスを合わせて紹介していきます。
消費電力、パフォーマンスの測定方法について
消費電力の測定方法は、以下の様に家庭用の検電器(1秒間隔で計測)を用いてACアダプタ(12V/5V出力)を介して、ドライブの起動時、Read動作時、Write動作時、Idle時における最大値を目視で簡易的に計測していきます。この記事でのIdle時はドライブがスピンダウンなどの省エネモードに移行していない状態での未アクセス時を指します。ドライブ未接続時(ACのみ接続したとき)0.3W消費しており、各計測値にはこの値が含まれています。またM.2 SATA SSDなど3.3Vが必要なドライブは変換基板上の5V→3.3V変換回路の値も含まれます。そのため消費電力は純粋なドライブの値ではないため、本記事ではそれぞれのドライブの相対的な比較となりますのでご注意ください。
またパフォーマンスは8GiBのデータを連続Read/Writeした時の結果となります。
測定方法(コンセント -> 検電器 -> ACアダプター -> ドライブ)
M.2 SATA変換基板
HDDの消費電力とパフォーマンス
まず用意できた3種類でHDDの消費電流を測ってみます。
NAS向け14TB 8枚ディスク 7200rpm 3.5インチ(2021年製)、Enterprise向け2TB 5枚ディスク 7200rpm 3.5インチ(2009年製)、Mobile向け1TB 2枚ディスク 5400rpm 2.5インチ(2012年製)です。
結果は以下の様になりました。
用途 | NAS | Enterprise | Mobile |
[W] | 3.5 14TB | 3.5 2TB | 2.5 1TB |
Read | 9.3 | 13.2 | 3.5 |
Write | 8.7 | 12.9 | 3.4 |
Idle | 6.9 | 9.3 | 1.1 |
Start | 20.9 | 22.7 | 4.3 |
HDDで特徴的な点として起動時に最も電力が必要なことです。これはHDDに内蔵されたディスクを静止状態から回転させるために大きくなっていると考えられます。また3.5インチHDDはディスクが多数搭載されているためRead/Write/Idle時よりも大幅に大きくなっています。一方2.5インチHDDはディスクの枚数が少なく、ディスクも3.5インチとくらべて小さいことからRead/Writeと比べてそれほど大きな差はありませんでした。
[MB/s] | 3.5 14TB | 3.5 2TB | 2.5 1TB |
Read | 255 | 134 | 95 |
Write | 249 | 129 | 90 |
比較的新しい3.5インチ14TBのHDDは古い3.5インチ2TB HDDの倍近いパフォーマンスが出ています。
次項からSSDについて測定していきます。
SATA SSDの消費電力とパフォーマンス
まずはHDDと同じSATAのSSDから前項のHDDと同じ方法で測定していきます。
1.最初に2.5インチ SATA SSDの消費電力です。
2.5インチSSDの例
今回準備したものは用途として個人向け、ノートPC、タブレット等向けのConsumer/Client、またサーバー向けのEnterpriseがあり、Consumer/ClientではさらにDRAM搭載/非搭載に分かれます。
Consumer/Client SSDとして、安価なDRAM非搭載の2.5インチ 480GB(2015年製)、DRAM搭載の2.5インチ 256GB (2018年製)、2.5インチ 500GB(2018年製)、2.5インチ 2TB(2017年製)、Enterprise SSDとして、2.5インチ 480GB(2017年製)、2.5インチ 1.92TB(2021年製)、2.5インチ 3.84TB(2020年製)、2.5インチ 7.68TB(2020年製) の結果です。
用途 | Consumer/Client | Enterprise | ||||||
DRAM | なし | あり | あり | |||||
[W] | 480GB | 256GB | 500GB | 2TB | 480GB | 1.92TB | 3.84TB | 7.68TB |
Read | 2.5 | 3.5 | 2.9 | 3.4 | 4.7 | 4.2 | 4.4 | 4.4 |
Write | 2.5 | 3.4 | 2.9 | 3.4 | 4.8 | 4.4 | 4.4 | 4.9 |
Idle | 0.9 | 0.9 | 2.1 | 0.8 | 1.7 | 1.8 | 1.9 | 1.9 |
Start | 1.3 | 1.4 | 2.7 | 3.1 | 3.1 | 2.9 | 3.3 | 3.8 |
前項のHDDとまず異なるのはSSDはHDDのように内部に動作する部品がないため、起動時の電力が少ないことです。そのため最も電力を消費するのはどのSSDでもRead/Write時となっています。また24時間動作が想定され、常に安定した性能が要求されるEnterprise SSDのほうがConsumer/Client SSDにくらべて電力は大きくなりました。これは内部に電力喪失時にデータロスを防ぐためのデータ保護機能がConsumer/Client SSDにくらべて強化され、コンデンサなどの部品点数が増えていることなどが影響していると考えられます。一方同じ用途同士では容量が大きいSSDでも小さいSSDと比べても大きな差はありませんでした。
続いてそれぞれのパフォーマンスを見ていきます。
DRAM | なし | あり | あり | |||||
[MB/s] | 480GB | 256GB | 500GB | 2TB | 480GB | 1.92TB | 3.84TB | 7.68TB |
Read | 559 | 506 | 560 | 499 | 535 | 538 | 531 | 536 |
Write | 509 | 403 | 466 | 511 | 485 | 525 | 516 | 519 |
2.次にM.2 SATA SSDの消費電力です。
Consumer/Client SSDとしてDRAM非搭載のM.2 250GB(2022年製)、DRAM搭載の M.2 256GB(2018年製)の結果になります。
用途 | Consumer/Client | |
DRAM | なし | あり |
[W] | 250GB | 256GB |
Read | 2.8 | 4.5 |
Write | 2.6 | 4.0 |
Idle | 1.0 | 1.3 |
Start | 1.2 | 2.8 |
Read/Write時が最も大きくなるのは2.5インチ SSDと同じ傾向が見られます。
パフォーマンスの結果は以下になります。
DRAM | なし | あり |
[MB/s] | 250GB | 256GB |
Read | 557 | 528 |
Write | 371 | 516 |
2.5インチ HDDと電力を比較したとき、起動時以外はSSDのほうが電力は高くなるドライブが複数ありましたが、パフォーマンスでは2.5インチ HDDより数倍速い結果となりました。Read時はSATA3の規格値(600MB/s)に近い値まで出ています。
次項では主流となってきたNVMe SSDについて測定していきます。
NVMe SSDの消費電力とパフォーマンス
NVMe SSDについてもこれまでと同様に、個人用途、ノートPC、タブレット等向けのConsumer/Client SSDとして安価なDRAM非搭載のPCIe Gen4 M.2 256/512GB(2021年製)、PCIe Gen4 M.2 512GB(2021年製)、DRAM搭載のPCIe Gen5 M.2 2TB(2022年製)、Enterprise SSDとしてPCIe Gen4 2.5インチ 3.84TB(2021年製)を測定していきます。
PCIe Gen5 M.2 2TBについては測定環境の都合、PCIe Gen4接続、冷却ファンの電力を除いて測定しています。
2.5インチ U.3 SSDの例
M.2 SSDの例
結果は次の通りです。
用途 | Consumer/Client | Enterprise | |||
DRAM | なし | あり | あり | ||
[W] | 256GB | 512GB | 512GB | 2TB | 3.84TB |
Read | 4.6 | 5.0 | 8.0 | 10.0 | 13.8 |
Write | 4.1 | 5.2 | 6.2 | 9.7 | 15.6 |
Idle | 1.9 | 2.1 | 2.4 | 3.0 | 5.4 |
Start | 2.8 | 2.8 | 3.6 | 4.6 | 5.9 |
安価なDRAM非搭載のSSDでも、Enterprise SATAと同程度の電力となっています。より高速なDRAM搭載のSSDではさらに電力は増加し、PCIe Gen5対応SSDはPCIe Gen4接続であってもRead/Write時に約10Wの電力を消費しています。またEnterprise 2.5インチSSDはRead/Write時3.5インチ HDDよりも大きな電力となっています。
続いてそれぞれのパフォーマンスを見ていきます。
用途 | Consumer/Client | Enterprise | |||
DRAM | なし | あり | あり | ||
[MB/s] | 256GB | 512GB | 512GB | 2TB | 3.84TB |
Read | 3,530 | 3,734 | 6,511 | 7,064 | 6,907 |
Write | 1,891 | 3,416 | 3,995 | 6,437 | 5,450 |
NVMe SSDはSATA SSDと比べ、電力は同等もしくは大きくなっていましたが、パフォーマンスは単純な値の比較では倍以上となっています。
上記の結果はいずれもPCIe Gen4接続での結果ですが、PCIe Gen3接続に切り替えた場合も測定してみました。
結果は次の通りです。
用途 | Consumer/Client | Enterprise | |||
DRAM | なし | あり | あり | ||
[W] | 256GB | 512GB | 512GB | 2TB | 3.84TB |
Read | 4.2 | 4.5 | 5.7 | 4.5 | 10.3 |
Write | 3.7 | 4.6 | 5.7 | 4.6 | 11.1 |
Idle | 1.7 | 1.8 | 2.1 | 1.8 | 5.1 |
Start | 2.5 | 2.6 | 3.1 | 2.6 | 5.3 |
PCIe Gen4接続の結果よりも電力が減少していることが分かります。
パフォーマンスは以下の通りです。
DRAM | なし | あり | あり | ||
[MB/s] | 256GB | 512GB | 512GB | 2TB | 3.84TB |
Read | 3,447 | 3,476 | 3,542 | 3,476 | 3,545 |
Write | 1,979 | 3,156 | 3,292 | 3,156 | 3,576 |
PCIe Gen3接続のため、4,000MB/s以下の結果となっていますが、それでもSATA SSDより十分速いパフォーマンスとなっています。
ところでNVMe規格にはPower Stateという状態が定義されています。例えばSSDにはサーマルスロットリングと呼ばれるSSD自身が高温となったときに、さらに温度上昇を抑えるため段階的にパフォーマンスを落としSSDを保護する機能が備わっています。これにはPower Stateを切り替えることで制御しています。
ここでEnterprise 2.5インチ SSDを例に、NVMe規格のSet Featureコマンドを利用してPower Stateを変化させたとき、電力とパフォーマンスがどのように変化するか見てみます。今回のSSDでは通常時はPS0で、PS0からPS7までの8段階に切り替えるようになっていました。Idle時に変化させているため起動時の電力はPS0のときのみとなります。
PCIe Gen4接続時の結果は次の通りです。
[W] | PS0 | PS1 | PS2 | PS3 | PS4 | PS5 | PS6 | PS7 |
Read | 13.8 | 13.9 | 14.0 | 14.5 | 14.0 | 12.2 | 10.3 | 8.5 |
Write | 15.6 | 15.3 | 15.3 | 15.5 | 15.6 | 12.9 | 10.2 | 8.6 |
Idle | 5.4 | 5.4 | 5.4 | 5.4 | 5.4 | 5.4 | 5.4 | 5.4 |
Start | 5.9 | – | – | – | – | – | – | – |
その時のパフォーマンスは次の通りです。
[MB/s] | PS0 | PS1 | PS2 | PS3 | PS4 | PS5 | PS6 | PS7 |
Read | 6,907 | 6,894 | 6,900 | 6,893 | 6,898 | 6,811 | 4,746 | 3,146 |
Write | 5,450 | 5,472 | 5,482 | 5,481 | 5,490 | 3,865 | 2,259 | 1,512 |
PCIe Gen3接続に切り替えて同様に測定した結果は以下となります。
[W] | PS0 | PS1 | PS2 | PS3 | PS4 | PS5 | PS6 | PS7 |
Read | 10.3 | 10.4 | 10.5 | 10.4 | 10.6 | 10.4 | 9.3 | 8.1 |
Write | 11.1 | 11.3 | 11.3 | 11.4 | 11.3 | 11.3 | 9.3 | 7.9 |
Idle | 5.1 | 5.1 | 5.1 | 5.1 | 5.1 | 5.1 | 5.1 | 5.1 |
Start | 5.3 | – | – | – | – | – | – | – |
その時のパフォーマンスは次の通りです。
[MB/s] | PS0 | PS1 | PS2 | PS3 | PS4 | PS5 | PS6 | PS7 |
Read | 3,545 | 3,558 | 3,545 | 3,568 | 3,552 | 3,574 | 3,546 | 3,085 |
Write | 3,576 | 3,567 | 3,571 | 3,575 | 3,016 | 3,545 | 2,257 | 1,502 |
PS0~PS4ではあまり変化はありませんでしたが、PS5以降ではパフォーマンスと引き換えに電力が減っていることが分かります。
ここでは実験的にPower Stateを変化させてみましたが、実際に使用できるかどうかは、メーカーに確認する必要があります。
主流となってきたNVMe SSDは従来のHDDやSATA SSDとくらべてパフォーマンスはよくなっていますが、3.5インチHDDをも上回る電力を消費することもあることがわかりました。システムとしてSSDのパフォーマンスがそれほど求められない場合は電力を抑えるために接続方法や設定を見直したり、適切なSSDを選定することは有効だと考えられます。
まとめ
最近のSSD(特にNVMe SSD)はこれまでのSSDとくらべても大幅にパフォーマンスが向上してきており、HDDのように駆動部品がないためSSDはHDDと比べて低電力ということが通用しなくなる場合もあることが今回分かりました。またEnterprise向け製品はバッテリー駆動のため電力を抑えることを求められることもあるConsumer/Client製品と異なり、常時通電を前提としており、またよりデータ損失からの保護を重視していることから、Consumer/Client向け製品とくらべ電力は大きい傾向でした。
NVMe SSDのRecommended sustained power(RMS)はドライブ単体でM.2 SSDは8.25W、2.5インチ SSDは25Wとなっています。今後M.2 SSD/2.5インチ SSDはE1/E3のFormFactorに移行していきますが、E1/E3の規定されているpowerは25W(E1.S)/40W(E1.L)/40W(E3.S)/70W(E3.L)となっています。パフォーマンスは今後より高くなっていきますが、電力も大きくなっていくことが予想されます。そのためシステムに複数のドライブを搭載する場合などは、SSDの選定をより慎重に検討していく必要があります。
今回紹介したデータはあくまで簡易的に測定した値となりますが、おおよその相対的な比較として参考になるかと思います。
この記事が今後のSSD選定の一助になれば幸いです。
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以上
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Client/Enterprise/Consumer SSDの違いについてはこちらの記事をご覧ください。
SSDの形状(フォームファクター)についてはこちらの記事をご覧ください。