• 公開日:2023年04月21日
  • | 更新日:2023年04月25日

DDR4の後方互換性 – 転送速度とレイテンシー(CL, tAA)の確認方法 –

はじめに

DRAM製品の技術仕様はJEDEC標準として規定されており、異なるメーカー間においても高い互換性を持っています。このことから、各DRAMベンダーは、競争力を維持するために、製造プロセスの微細化に積極的です。プロセスの微細化は新製品や主流であるDRAM製品、例えば、DDR4/LPDDR4以降の製品にて頻繁に発生します。技術的にはこのプロセスの微細化により高速化に貢献があります。最大転送速度が高速化しても、その最大転送速度よりも遅い転送速度を設定することも可能です。一方で、スピードグレードにより、同じ転送速度でも設定できるレイテンシーが異なる場合があるため注意が必要です。

本記事では、Micron社のDDR4コンポーネント製品(DIMMを除く)を例に、最初に各スピードグレードで設定できるレイテンシーと転送速度の組み合わせを示し、その後、設定可能なレイテンシーの確認方法や後方互換性における注意点を説明します。

さいごにはDDR製品のラインナップ資料と、DDR4推奨品の設定可能なレイテンシーが一目でわかる早見表をダウンロードいただけますので、ぜひご覧ください。

 

Micron社DDR4製品が対応している転送速度とレイテンシー

Micron社のDDR4製品もこれまでに複数回のプロセス微細化を行い、大容量化と高速化を実現してきました。その過程では複数のスピードグレードの製品を提供してきましたが、現在では、CAS Latency(CL)­ = 22@DDR4-3200というスピードグレードが標準になっています。Micron社のDRAMのコンポーネント製品では、型名の[-(ハイフン)]以降の3文字あるいは4文字でスピードグレードを表しています。表1では、各スピードグレードの製品で使用できる転送速度とREAD CL(non-DBI)(※1)の組み合わせを示しております。

※1: CLはDBI(Data Bus Inversion)機能の使用有無によって設定できる値が異なります。

表1: READ CL(non-DBI)と転送速度の組み合わせ

 

表1の通り、スピードグレードが[-062E]の製品は、DDR4-3200とそれ以下の転送速度にも対応しています。注意点としては、DDR4-2666で使用するときにはCL = 19と20には対応していますが、CL = 18には対応していないということです。よって、スピードグレード[-075E]品をCL = 18@DDR4-2666で使用していた場合、[-062E]品では最小でも1クロックサイクル多くCLを設定する必要があります。

以下の項から、このような注意点を含む後方互換性の考え方について、順を追って説明します。

 

転送速度とレイテンシー

DRAMは使用する転送速度によって、設定できるレイテンシーが決まっています。レイテンシーとは、Read/Writeの命令を発行してから、データが入出力されるまでの遅延時間であり、Read時はCAS Latency(CL), Write時はCAS Write Latency(CWL)というパラメーターで定義されています。この設定を間違ってしまうと、外部からのコマンドと内部処理のタイミングが合わず、データ化け等の動作不良を引き起こす可能性があるため、必ず正しい値を設定する必要があります。また、レイテンシーの設定値は、メーカーや製品ごとに異なる場合があり、使用する前に必ずデータシートの確認が必要です。

 

図1: Readシーケンス

 

最大転送速度の確認方法

Micron社のDRAMのコンポーネント製品は、対応している最大転送速度を型番から読み取ることができます。例えば、DDR4の「MT40A512M16TB-062E:R」という型番の場合、[-062E]が製品のスピードグレードを表します。数字はクロック周波数の1サイクル(周期)を表しており、周波数に変換すると062 → 0.62ns → 1/0.62ns = 1600MHzとなり、この製品の最大転送速度は3200Mbpsとわかります。後ろに付く英字は、遅延時間のグレードで、[無印]、[E]、[D]等があり、同じ周波数においても、設定できるCLやtAA(次項で説明)のスペックが異なることを意味します。

 

図2: DDR4 8Gb 型番ネーミングガイド(1)

 

CL, tAAの確認方法

CAS Latency (CL)

DRAMのタイミングスペックは、「Speed bin」と「AC Electrical Characteristics and AC Timing Parameters」の2種類の表にわかれて規定されており、レイテンシーの設定値は、「Speed bin」で確認できます。「MT40A512M16TB-062E:R」の場合、前述の通り、最大転送速度は3200Mbpsのため、DDR4-3200のSpeed bin(表2)を参照します。見方は、まず、製品のスピードグレードである[-062E]の列(表2, 赤枠)を選択し、次に、使用する転送速度の行(表2, 青枠)を選択します。今回は、例として2400Mbpsで使用したい場合を考えますが、この場合、スピードグレードは、[-083E], [-083], [-083D]の3種類が用意されています。[-083E]は、Read CL: non DBI = 16で設定するスピードグレードですが、[-062E]の列を見るとReservedとなっており、この設定値は対応していないことがわかります。一方、[-083](Read CL: non DBI = 17)と[-083D](Read CL: non DBI = 18)の項目は、tCK(AVG)のスペックが記載されており、この設定値に対応していることがわかります。 このように、同じ転送速度でも製品によって使用できるレイテンシーは異なることがわかります。

表2: DDR4-3200 Speed bin(1)

 

tAA

tAAはREADコマンドを発行してから、1つ目のデータが出力されるまでの遅延時間です。CLと同じ遅延時間を表しますが、CLはクロックサイクルベースで規定されているのに対し、tAAは絶対時間で規定されています。[-062E]品のtAA,minは13.75ns(表2, 緑枠)です。[-083](DDR4-2400, Read CL: non DBI = 17)で使用する場合、tAA,min = 17CK(CL) x 0.833ns/CK(tCK,min) = 14.161nsとなり、[-062E]品のtAAスペックを満たしていることがわかります。一方、[-083D](DDR4-2400, Read CL: non DBI CL = 16)で使用する場合、16CK(CL) x 0.833ns/CK(tCK,min) = 13.328nsとなり、こちらは[-062E]品のtAA,min = 13.75nsを満たしておりません。以上から、[-062E]品は、CL = 16に対応していないことがわかります。

 

後方互換性

Backward Compatibility

DRAMは後方互換性がある製品のため、転送速度を落として使用することは可能ですが、前述の通り、同じ転送速度でも、製品によって設定できるCLが異なる場合があるため、置き換え時には注意が必要です。Micron社DDR4のデータシートには、対象の製品がどのスピードグレードに対応しているかを簡易的に確認できる表「Backward compatibility」が用意されています(表3)。行は対象製品の型番のスピードグレードを表し、列は使用できる転送速度のスピードグレードを表します。例えば、「MT40A512M16TB-062E:R」を2933Mbpsで使用したい場合、[-062E]の行(表3, 青枠), [-068D], [-068], [-068E]の列(表3, 赤枠)を参照しますが、[-068E]は空欄になっており、このスピードグレードには対応していないことがわかります。ここでの注意点として、どのスピードグレードで使用できるかを判断するためには、この「Backward compatibility」の表だけでなく、必ず「Speed bin」も確認する必要があります。理由は次の項で具体例を用いながら説明します。

表3: Backward compatibility(1)

 

CL確認時の注意点

[-062E]品の1600Mbpsにおける対応スピードグレードを「Backward compatibility」から確認すると、[-125]には対応していますが、[-125E]には対応していないように見えます(表3, 青枠, 黄枠)。しかし、Speed binを見てみると、[-125E]の欄はReservedではなく、tCK(AVG)のスペックが記載されており、対応しているように見えます(表2, 黄枠)。このような場合、[-062E]品は[-125E](Read CL: non-DBI = 11)で使用できるのでしょうか。結論としては、使用できます。一見、矛盾しているように思える表記ですが、なぜこのような表記になっているのかは、DDR4-1600の「Speed bin」を確認することによって理解することができます。

DDR4-1600 「Speed bin」によると、[-125E]品のtAA Minスペックは13.75ns(13.50ns)です(表4, 赤枠)。括弧内のスペックは、転送速度を落として使用したときに適応されるスペックで、[-125E]品の場合、1333Mbpsで使用した場合、tAA = 13.50nsで使用できることを意味します(表4, 青枠)。ここで、もう一度DDR4-3200 「Speed bin」(表2)に戻ると、[-062E]品はtAA,min = 13.75nsのため、1333MbpsのtAA,min = 13.50nsを満たしていないことがわかります。つまり、[-062E]品は、[-125E]品のtAAスペックを完全には満たしていないため、「Backward compatibility」では空欄になっています。しかし、DDR4-3200 「Speed bin」にtCK(AVG)のスペックが記載されていることからもわかる通り、[-062E]品は[-128E]品(Read CL: non-DBI = 11)で使用することはできます。ただし、このときのtAAは、11CK(CL) x 0.833ns/CK(tCK,min) = 13.75nsになることにご注意ください。

今回のケースの場合、「Backward compatibility」しか確認していないと、[-062E]品は[-125E]で使用できないと判断するところでしたが、実際は、tAA,min = 13.75nsという条件付きで、使用することができます。このように、「Speed bin」を確認しないとわからない情報があるため、どのスピードグレードで使用できるかを確認する際は、「Backward compatibility」だけではなく、必ず「Speed bin」も確認が必要です。

表4: DDR4-1600 Speed bin(1)

 

まとめ

  • DDR4は後方互換性のある製品ですが、同じ転送速度でも、製品によって設定できるCLが異なる場合があります。
  • DDR4のタイミングスペックは、「Speed bin」と「AC Electrical Characteristics and AC Timing Parameters」で規定されており、CLの設定値は「Speed bin」で確認できます。
  • 「Backward compatibility」で使用したいスピードグレードが空欄でも、そのスピードグレードのCL設定値を使用できる場合があるため、必ず「Speed bin」の確認も必要です。

さいごに、DDR製品のラインナップ資料と、DDR4推奨品の設定可能なレイテンシーが一目でわかる早見表をご用意しておりますので、以下より入手していただけます。

資料ダウンロードはこちら

Micron社DRAM製品の特長・仕様については、以下のDRAM製品ページでも紹介していますのでぜひご覧ください。
Micron Technology社DRAM製品

 

出典

(1) Micron DDR4 8Gb データシート
https://media-www.micron.com/-/media/client/global/documents/products/data-sheet/dram/ddr4/8gb_ddr4_sdram.pdf