- 公開日:2024年07月02日
- | 更新日:2024年07月24日
インダクティブポジションセンサーによるモーター角度・位置センシングのメリット
- ライター:Kenji Ono
- センサー
はじめに
昨今様々なアプリケーションにモーターやアクチュエーターが使用されています。モーターやアクチュエーターはただ回ればよい、駆動すればよいということはなく、モーターの回転が基準からどの位置まで回っているのか、アクチュエーターの可動位置はどこか、などをセンシングする事は少なくありません。例えば、ロボットのアームは正しい位置で止めることができないと、ものを掴めないなどの問題が起きます。そういった問題を起こさない為に、センシングで”位置”のフィードバックすることが有効手段です。”位置”センシング手法の1つであるインダクティブポジションセンサーについて取り上げ、その手法を使うメリットを説明します。
接触型と非接触型
センシングの手法は様々あり、大きく分けると接触式型と非接触型があります。接触型の位置検出手法では、検知対象(モーターなど)と検出器が物理的に接触する為、接触による摩耗により製品寿命を著しく短くする要因でした。非接触にすることで物理的な劣化がなくなり、大幅に寿命が改善されます。インダクティブ方式は非接触型の方式の一つです。
接触型として、ポテンションメーターや機械式ON-OFFスイッチ、ロータリースイッチなどが挙げられます。また、非接触型で今回取り挙げるインダクティブポジションセンサー以外にも様々な方式があります。一例として挙げると光学式、レゾルバ、磁気式などがあります。
インダクティブポジションセンサー動作原理
ポジションセンサーとは、ターゲットのポジション、つまり、位置をセンシングすることです。その位置をセンシングする手法として、相互誘導の原理を利用したセンサーのことをインダクティブポジションセンサーと呼び、誘導型の近接センサーです。
ターゲット(金属)とTx/RxコイルパターンとセンサーICの構成で成り立ちます。コイルパターンという言葉は聞きなれないかもしれませんが、回路基板上に特定の配線パターンを描くことでインダクター(コイル)としての機能を持たせた基板のことです。
回路、専用ICからコイルパターンのTx側へ高周波信号を流すと、LC発振器となり、コイルループ内で均一の磁場が発生します。
磁場を受けて、Rx側のコイルパターンに誘導起電力が発生します。
ターゲットとなる金属板がコイル上面を覆うと、Txコイルからの磁場を受けて金属板に渦電流が発生し、この渦電流によって生じる逆方向の磁場が、Txコイルの磁場を打ち消すことで、Rxコイルからは誘導起電力を取り出すことができなくなります。
ターゲットとなる金属板の位置によりRxコイルパターンからの変化量を検出することが可能となります。
インダクティブポジションセンサーを採用する3つのメリット
① 劣悪な環境下の堅牢性
モーター近くに使用する場合、本来周辺環境からの影響を受けないように考えなければいけない項目がいくつもありますが、影響を受けることが少ない方式です。
・ノイズ、振動 :ターゲット金属と基板を限りなく近くに配置することが可能
・温度、湿度変化:誘導起電力は温度・湿度変化はほぼ無関係
・埃や粉塵 : 物理的な遮蔽物は誘導起電力に影響を与えない
② 浮遊磁界への耐性
永久磁石を使用しているモーターなどは、磁石を近くに置くとモーター動作に悪い影響を与えてしまう為、近くにセンシング機構を置けません。それが筐体サイズを大きくする要因となっていました。インダクティブ型は磁石ではなく金属を使用する為、モーターの直近にセンシング機構を配置しても問題なく動作することが可能になりますので、小型化に繋がるメリットがあります。また、周囲の浮遊磁界からも影響受けにくいことも、インダクティブポジションセンサーのメリットと言えます。
③ 様々なアプリケーションへの柔軟な対応
センシングする為に追加で設置する部品が大きいことはあまり良いとは言えません。
可能な限り追加する部品は小さく、薄く、軽いことが要求されます。インダクティブポジションセンサーの必要な部品は専用ICと基板上のコイルパターン、ターゲットとなる金属の3点です。
ICはコイルパターンと同じ基板上に置くことも可能であり、アプリケーションの要求に合わせる形でコイルパターンを設計することもできます。また、ターゲットとなる金属はアルミニウム、鉄、銅箔層を有するPCBなどでも使用することが可能です。ターゲットの動き(直線・円弧・回転)に合わせた形のコイルパターンや基板設計を行うことができますので、柔軟にアプリケーション装置が求める様々な形状に対応できます。
小型化想定 比較対象:モーター制御の磁気式角度センサー
・厚さ:1/2~1/5
・重量:1/2~1/100
適用アプリケーション例
① 車載
・燃料、オイル残量検知 :液面の高さを追従して検出
・スロットル、サスペンションポジション :振動に強い堅牢構造
・ペダル、ワイパー位置検知 :高精度な位置検出
・トルク検出、ステアリングポジション :高信頼性、2軸検出構造
② 産業
・ポテンションメーター置き換え :非接触化
・アクチュエーター :小型化
・FA機器位置制御 :劣悪環境でも使用可能
・モーター回転制御、エンコーダー :小型化、低コスト化
③ 民生
・調整つまみ(ボリューム、温度) :非接触化
・スライダー(音響ミキサー) :非接触化、小型化
・アーケードゲーム(ハンドル、ペダル、レバー等):柔軟な構造
ルネサスエレクトロニクス社製インダクティブポジションセンサー
電磁誘導型ポジションセンサー IPS2550
非接触型の位置検知実現の為の電磁誘導型ポジションセンサーIC、優れた高耐久性を確保し、アプリケーションの
寿命に影響を与えず、高精度なセンシングを実現します。
◆IPS(Inductive Position Sensor)の特長
- サイン/コサインのアナログ出力 (差動/シングルエンド)
- 車載対応: AEC-Q100 Grade-0
- 動作周囲温度範囲: -40℃ ~ +160℃
- 機能安全: ASIL C @ single IC
- 電源電圧: 3V ±10% または 5.0V ±10%
- 最大600,000 (el) rpm まで対応
- 伝達遅延時間: 5μs
- 過電圧保護、逆接続保護、短絡保護
- サイン/コサイン間ゲインミスマッチ、オフセットを補償
- 診断・プログラミング用の I2C インタフェース
- 外部 MCU への診断割り込み
- エアギャップの変動を AGC で補償
- パッケージ: TSSOP-16 w/ exposed-pad
ルネサスエレクトロニクス社が提供するもの
これまで説明してきたように、インダクティブポジションセンサーは多くのメリットがある一方、ICだけでなく、基板へのコイルパターンとターゲットとなる金属板のマッチングが十分な性能を引き出すためのポイントとなります。
以下のリファレンスデザインや設計情報がインダクティブポジションセンサーの性能を引き出す為のサポートしてくれます。
- PCBコイルデザイン(Resolver 4.0 catalog)
- リファレンスデザインと評価キット(IPS2550STKIT)
- ドキュメント各種(データシート、アプリケーションノート、キャリブレーションガイド、ガーバーファイル)
基板表面、裏面基板実装例
まとめ
この記事では、インダクティブポジションセンサーをセンシングデバイスとして使用することで得られるメリットについて説明しました。位置をセンシングするアプリケーションは様々あり、要求するポイントは多岐に渡ります。多くの要求をクリアするセンサーとして注目を浴びているのがインダクティブポジションセンサーです。様々な形状に柔軟に対応可能である一方、設計するのが難しそうという意見もあります。ルネサス社から多くの設計及び技術資料を提供していますので興味ありましたらご検討お願いします。
ルネサス製品をお探しの方は、メーカーページもぜひご覧ください。