• 公開日:2024年08月30日
  • | 更新日:2024年09月02日

工数・コスト削減に有効な開発手法MBD(Model Based Development)とは? – 前編 –

近年、車載向けソフトウェアのボリュームは急速に増大しています。これは、自動運転技術や先進運転支援システム(ADAS)、コネクテッドカー技術などの高度かつ多様な機能が求められるようになった為です。それに伴い、従来手法での開発では追いついておらず、生産性を高めることが難しい状況です。

また、ソフトウェアのボリュームが増大するにつれて、開発コストの増加や開発日程の延長、バグの発見・修正などの品質管理の難しさにも大きな影響を与えます。

例えば、自動運転のテスト行う場合は膨大な走行シナリオを準備して確認する必要がありますが、実車で十分なテストを実施する場合、膨大な時間とコストが必要になります。しかし、モデルベース開発では想定されるシナリオを仮想環境でテストを行う事ができ、時間やコストを大幅に削減することが出来ます。

 

このように、現状のシステム開発やソフトウェア開発の問題に対処する方法の1つがモデルベース開発です。今回はこのモデルベース開発に関してご紹介させて頂きます。

 

工数・コスト削減に有効な開発手法MBD(Model Based Development)とは? – 後編 –

モデルベース開発 (MBD:Model Based Development) とは

モデルベース開発とは、開発する対象(制御するコントローラ側と制御対象であるプラント側も含む)の動作や構造を表現したモデルを用いてシミュレーションや検証を行う事で、システムを開発する手法です。これにより設計段階の問題点の早期発見や、検証の手戻りを削減することができるため、車載向けソフトウェア開発の分野では急速に需要が広がっています。

 

モデルベース開発によるメリット

モデルベース開発を用いた場合、主に以下のようなメリットがあります。

 

1.開発スピードの向上:

実際のハードウェアが無くてもモデルを使用した詳細な検証ができます。その為、制御コントローラ側や制御対象のプラント側が

準備される前から、シミュレーションによりシステム概要の検討や設計の妥当性などを確認する事ができます。

 

2.品質の向上:

実際のハードウェアでは再現が難しいような環境下での検証も、モデルを使用したシミュレーションではパラメータを設定する事で

対応が可能です。この様に多様なシナリオでのシミュレーションが可能なため、品質の高いソフトウェアを開発できます。

また、シナリオテスト(シミュレーションの実行~結果の判定)を自動化する事による効率的な検証を実現し、システム全体の

品質を向上します。

 

3.コスト削減:

設計の不備を早期に発見する事により、以降の検証での手戻りを減らすことが出来ます。その結果、実機テストの回数を

減らし、開発コストを抑えることができます。

また、海外含めた多拠点での開発時にも、モデル環境を共有化する事で開発が可能です。多拠点ごとに実際のハードウェアや

開発環境を準備する必要がありません。

 

各開発フェーズにおけるモデルベース開発

システム開発における設計工程やテスト工程において、各開発フェーズに対応したモデルベース開発があります。

それぞれのモデルベース開発の手法に関して説明します。

 

各モデルベース開発の手法は、より前段や後段の手法と連携させることにより、開発全体を一貫してモデルベースで開発する事ができます。例えば、仕様のやりとりも以前までのドキュメントベースからモデルベースに変更する事で「動く仕様書」として扱えます。これにより要求仕様の取り違いや漏れのない仕様伝達が可能です。

 

MILS ( Model In the Loop Simulation )

主に開発の初期段階で実施され、先行的な仕様検討や要因分析を行う事で、仕様の漏れやバグを早期に発見し、後段で実施される検証などの手戻りを事前に防止することで開発効率を向上させる効果があります

 

 

MILSは制御システムの開発において、制御対象のプラントモデルと制御コントローラ側のモデルを接続してシミュレーションを行う手法です。対象プラントモデルからの出力結果を制御コントローラ側モデルへフィードバックして検証できるため、システム全体の確認を行うことが出来ます。

 

MILSは以下のような特徴を持っています。

 

  • 早期検証

開発の初期段階でシミュレーションを行うため、設計の問題点を早期に発見できます。これにより、後の段階での

修正コストを削減できます。

  • ソフトウェアとハードウェアの分離

実際のハードウェアを使用せずに、モデルのみでシミュレーションを行うため、ハードウェアの準備が整っていない段階でも

検証が可能です。例えば、車両開発の場合、実際の車体を開発初期に準備する事は難しいですが、モデルであれば

シミュレーションによる確認が可能になります。

  • 反復テスト

モデルを使って何度もテストを繰り返すことができるため、実際に人間が考えて入力パターンを準備する必要がありません。

機械的に膨大な量のテストデータを準備する事で様々なシナリオでの動作確認が簡単に行えます。

 

■MILSまとめ

MILSの最大の特長は、開発の初期段階でシステム全体(制御対象のプラントモデル+制御コントローラ側のモデル)の動作をシミュレーションできる点です。これにより、設計の問題点を早期に発見し、修正コストを削減できます。また、ハードウェアを使用しないため、コストや時間の面で効率的であり、反復的なテストが簡単に行えます。

 

SILS ( Software In The Loop Simulation )

制御システムの開発において、生成されたソースコードを開発用コンピュータ上で実行し、その動作を検証する手法です。SILSではモデルから生成されたコードをコンパイルし、ホストコンピュータ上で実行することで、モデルと生成コードの数値的等価性をテストする事ができます。

 

SILSは以下のような特徴を持っています。

  • コードの検証

生成されたコードがモデルと同じ動作をするかどうかを確認できる事で、コードのバグや不具合を早期に発見できます。

  • 実行環境

MILS同様に開発用コンピュータ上で実行されるため、ハードウェアの制約を受けずに検証する事が可能です。

また、反復テストによるシナリオ検証などもに向いています。

  • 数値的等価性

モデルと生成コードのシミュレーション結果を比較することで、数値的な一致を確認できます。

 

SILSの特長として、MILS同様にハードウェアの準備がなくとも検証を行えるため、早期検討や開発コストを抑えることが出来ます。SILSは開発初期段階でのコード検証に非常に有効であり、MILSではできなかった、実際のコードをベースとした動作確認が可能になります

 

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