• 公開日:2024年10月28日
  • | 更新日:2024年11月11日

降圧型DC/DCの発熱量を予測 【超簡単】損失測定方法

  • ライター:短絡亭過電流

こんにちは。この記事の中の人です。

前回はMOSFET単体での損失計算方法と発熱量の算出について解説しました。
今回はMOSFETが内蔵されたDC/DCコンバータICを用いて、ICの発熱量を算出してみようと思います。

 

降圧型DC/DC_ICの損失と発熱

    昨今の電源ICは小型化が進み、制御部とMOSFETが1chipに収められたタイプが市場を席巻しています。
    データシートを見ますと、効率カーブと熱抵抗の記載があり、凡その上昇温度を予測することができます。

    引用元:ルネサスエレクトロニクス社「RAA211320 Datasheet

    ここからICの発熱量を求める場合、例えば
     Vin = 30V
     Vout = 3.3V
     Iout = 2.0A
    の条件では、効率は約82%程度と読み取れます。その時の電力損失は、
     Pin = 3.3V x 2.0A ÷ 82% = 8.05W
     Ploss = 8.05W – 6W = 2.05W
    と算出でき、評価ボード(以下EVB)上のICのパッケージ表面温度は、
     Tc = 45℃/W x 2.05W + Ta = 92.25℃ + Ta      ※Ta : 周囲環境温度
    となるはずです。
    室温が25℃なら表面温度は100℃越え、指先がICに触れば確実に火傷しますね。。

    これ、ほんとうですかね?

    実機で確認してみます。

     

    高耐圧,小型パッケージDC/DC「RAA211320」

      今回は最大30V入力、2A出力、小型SOT-23パッケージのRAA211320を用いて確認してみます。
      使用するEVBの詳細はこちら

      この電源IC、30Vまで入力できるのにSOT-23と非常に小さく、6pinしかないので回路構成が非常にシンプルです。

      今回はこちらの評価ボードを使って実測してみました。

      引用元:ルネサスエレクトロニクス社「RTKA211320DE0030BU Evaluation Board Manual

       

      効率測定と内部温度の算出

        評価ボードの効率を実機にて測定してみました。

        30V入力時は80%程度との結果でした。前述の式に当てはめると、損失は2.25Wとなります。その時のデバイス表面温度を熱電対で測ってみました。

        結果、表面温度は50.6℃、この時の周囲雰囲気温度は25.6℃でしたので、25℃アップですね。
        正しく測れているか問題はあると思いますが、思ったほど上がっていませんでした。

         

        MOSFETのスイッチング波形と電流波形

          次の波形の測定です。損失の測定にはFETスイッチング時のDrain-Source間電圧波形と、ON時に導通する電流波形の「積」で表すことができます。

          先ずHigh-Side-FETの損失を測定します。今回のDC/DCはFETがICに内蔵されているため、差動プローブを使って測定します。


          電流を測定するために、インダクタの片足を浮かせてプロービングループを設けているため、寄生インダクタンスによりVdsが思いっきり振れていますが、  まぁ、、 良しとしましょう。

          High-Side-FETのON期間は289.86nsec、その間のPlossの平均値は13.92Wでした。
          これはあくまでも289.86nsec間の消費電力のため、換算が必要です。

          RAA211320のfswは475kHzなので、
            Ploss(H-FET)total = 13.92W x 289.86nsec x 475kHz ≒ 1.92W
          と算出することができました。

          次にLow-Side-FETのスイッチング波形を見てみましょう。

          VdsはICのSW-GND間で測定しました。電流が右肩下がりなので、がLow-Side-FETがONであることが見てわかります。
          この時の損失は
            Ploss(L-FET)total = 0.298W x 1.92usec x 475kHz ≒ 0.292W
          と算出できます。

          結果、損失の分布は、
            全損失:2.25W
            H-FETの損失:1.92W
            L-FETの損失:0.292W
            インダクタの損失やICの自己消費(?):2.25W – 1.92W – 0.292W = 38mW

          であることが分かりました。

          結構ドンピシャで算出できたことに筆者が一番驚いています。

           

          損失の「実測値」から内部温度を算出

            さてここまで、表面温度50.6℃(室温25.6℃)、ICの損失2.212W、と言うところまで実測で確認できました。
            ここからは熱計算です。

            RAA211320のパッケージはSOT-23です。SOT-23の熱抵抗 ΨjT は一般的には15℃/W程度なので、この値を用いてIC内部のジャンクション温度を算出します。
              Tj = 50.6℃ + 15℃/W x 2.212W = 83.78℃

            RAA211320の最高ジャンクション温度(Tj_max)は150℃なので、まだ余裕がありますね。

            この様に、IC内部のジャンクション温度を推定する場合、使用する熱抵抗パラメータはθではなくΨをお勧めします。
            ※参考:「放熱のメカニズム(Renesas)

             

            まとめ

              今回は完全手計算ではなく、オシロスコープと言う文明の利器を用いた、ICの電力損失の測定方法について解説しました。
              オシロスコープを用いれば必要な数値が一発でわかりますので、その後の計算が非常に楽であり、且つ精度高く算出できることが御理解頂けたと思います。

              電源回路の設計は熱との戦いです。ICの発熱は、IC単体の問題ではなく、装置全体の課題でもあります。
              電源設計、高電圧大電流アプリの設計において、お困り事がありましたら、是非弊社へお声がけ下さい。

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