• 公開日:2024年10月22日
  • | 更新日:2024年10月30日

次世代パワー半導体?SiCとGaNの特長をミクロな視点で考察してみた

はじめましてmaison2cokeです。

昨今、半導体業界で、SiC(シリコンカーバイド)やGaN(ガリウムナイトライド)といった名前を聞く機会が増えました。これらは次世代のパワー半導体として期待されており、Si(シリコン)に取って代わるだけのポテンシャルを秘めた材料だと言われています。ではいったいどのような特性がSiよりも秀でていて、パワー半導体という分野で期待されているのでしょうか。本記事ではSiC, GaNの特徴を考察します。

半導体とは

半導体という言葉は、電気を良く通す導体と電気をほとんど通さない絶縁体の中間ぐらいの電気の通しやすさをもつ「材料」としての意味と、材料に半導体を用いた「デバイス」の両方の意味を含みます。

半導体は電流を自由に制御することができますが、こちらは「デバイス」としての半導体の特長です。半導体の「材料」に代表されるSiは、単結晶だとほとんど電流を流しません。

では電流をほとんど流さない半導体がどのようにして電流を制御するのか、まずはそのメカニズムについて解説します。

半導体の整流作用

Si単結晶に特定の不純物を加えるとSiは電流を流せるようになります。またドープした不純物の種類によりp型半導体とn型半導体に区別されます。

p型とn型の接合面をpn接合と呼びますが、この付近ではキャリアが存在しない空乏層と呼ばれる領域が生まれます。pn接合と空乏層が半導体の整流作用、言うなれば電流のon/offを制御するスイッチとしての特性に大きく関与します。

要するに、トランジスタなど「デバイス」としての半導体の性能は、「材料」である半導体の性能に大きく依存します。

パワー半導体に求められる性能とは

パワー半導体とは、文字通り大きな電力(パワー)を制御することができる「デバイス」を指します。

パワーを制御する為にスイッチとして動作するのですが、スイッチのon/off動作には損失がつきものです。大きな電力を扱う分野ですと、たとえ数%の損失から発生される熱であっても非常に大きなエネルギーを持ち無視できない問題になります。

また、電力変換回路の構成に占める受動素子やヒートシンクなどの放熱機構に対しては小型軽量化が求められており、こちらに対してはパワー半導体によるスイッチング動作の高周波数化が効果的なのですが、スイッチング損失を増加させてしまう為スイッチング動作の高速化が不可欠です。以上のことから、パワー半導体に求められる性能は

①耐圧性に優れていること             (電界強度の最大化)

②導通損失の低減                    (オン抵抗を小さくする)

③スイッチング損失の低減             (スイッチング動作の高速化)

上記3点が挙げられます。

次世代パワー半導体

現在、パワー半導体の「材料」はSiが主流です。しかし、Siは高電圧の電力を扱うのに必ずしも向いている材料ではありません。

Siを用いたパワー半導体では、さまざまな素子構造や製造プロセスの開発により性能向上を図りました。しかし半導体材料の物性値限界を超えることは出来ない為、その限界が高いSiCやGaNを材料としたパワー半導体の方が、より優れた性能を示します。

 

表1.Si/SiC/GaN物性値比較

表1はSi, SiC, GaNの主要な物性値です。バンドギャップが大きい半導体ほど、高い絶縁破壊電界強度が得られます。

(1)式は、高耐圧のパワー半導体がドリフト層のみで電圧を維持すると仮定した際の、半導体の絶縁破壊電界Ec,ドリフト層の不純物濃度Ndと耐圧Vbdの関係式です。εsは半導体の誘電率、eは単位電荷です。

(2)式は、耐圧Vbdとパワー半導体のオン抵抗Rdの関係式です。µはキャリアの移動度、Aは導通領域の断面積です。

(2)式より、オン抵抗は耐圧Vbdの2乗に比例するため、耐圧を高くするとオン抵抗は急激に大きくなります。つまり、パワー半導体に求められる性能:①耐圧性に優れていること(電界強度の最大化)と、②導通損失の低減(オン抵抗を小さくする)は通常トレードオフの関係にあります。

一方でオン抵抗は半導体の物性値である絶縁破壊電界Ecの3乗に反比例しますが、SiCとGaNはSi半導体に比べEcが1桁大きいです。つまりSiC半導体, GaN半導体を使うことで、Si半導体と比べ高耐圧かつ低オン抵抗を実現することができます。

パワー半導体に求められる性能:③スイッチング損失の低減(スイッチング動作の高速化)ですが、SiCやGaNはSiと比べて高耐圧かつ低オン抵抗を両立できるため、IGBTなどのバイポーラデバイス構造を取らずにユニポーラデバイス構造を採用することができ、スイッチング動作を高速にすることが出来ます。こちらの詳細はデバイス構造による性能の違いを含め、次回の記事で解説したいと思います。

最後に

いかがでしたか。今回はパワー半導体に求められる性能から、SiCやGaNといった半導体が何故注目されているのか解説いたしました。

これら次世代半導体は非常に注目されており、国内半導体メーカのルネサス社が2023年~2024年の間に、SiC技術の世界的リーダーであるWolfspeed, Inc.と10年間にわたるSiCウェハの供給契約、GaNパワー半導体のグローバルリーダーであるTransphorm, Inc.の買収を発表しました。

少し前までは研究開発の対象であったSiCやGaNが、量産されパワー半導体としてSiに取って代わる未来はそう遠くないかもしれません。