• 公開日:2025年06月11日
  • | 更新日:2025年06月24日

GreenPAKで超お手軽『絶縁DC/DC』を作ってみた

  • ライター:短絡亭過電流

こんにちは。この記事の中の人です。
これとかこれも書いてます。

あるお客様からこんなお声を頂きました。

「絶縁DC/DCのコストを下げたいんだけど、なんかない?

ザックリとしたご要望ですが、切実さは伝わってきました。

現在、このお客様は高効率の絶縁DC/DCモジュールをお使いでした。絶縁DC/DCモジュールは基板上に置くだけで、省面積で絶縁電源回路が構成できる優れものですが、機器全体のコストを底上げしている印象があるようです。

お客様より、今回のご相談におけるご要求と妥協点をいくつか頂きました。
・入力電圧は12V又は24V、出力電圧/電流は5V/1A,3.3V/1Aの2出力
・2つの出力はそれぞれ絶縁されている
・今後は入力電圧を24Vにすることも考えている
・実装面積は大きくなっても良いが、極力安くしたい
・可能な限り簡単、且つ安価な回路構成
・効率は気にしない

今回は「お手軽」且つ「簡単」に重点を置いて検討しました。

 

絶縁トポロジー

    トランスを小さくできればコストが下がります。トランスを小さくするにはスイッチング周波数を高くする必要があります。安価な方式としてはフライバックがありますが、スイッチング周波数を高くできず、小型設計には不向きです。
    その他の方式も含めた4つの方式について、生成AIでザックリ比較してみました。

    方式 特徴 トランスの体積 スイッチング周波数(目安)
    フライバック シンプルな構成、小電力向け、トランスにエネルギーを蓄積する必要あり 大きい 30kHz – 200kHz
    フォワード 中電力向け、トランスにエネルギーを蓄積しない、リセット巻線が必要 中程度 50kHz – 500kHz
    プッシュプル 大電力向け、トランスの利用効率が高い、対称的な設計が必要 小さい 50kHz – 500kHz
    セピック 広い入力電圧範囲に対応、複雑な設計、インダクタとキャパシタを使用 中程度 100kHz – 1MHz

    これによると、プッシュプル方式が最も小さく出来そうです。なので今回はプッシュプル方式を採用します。

    プッシュプルは、下図に示すように、非常に簡単な構成で絶縁電源が実現できます。

    動作としてはDuty50%でセンタータップから交互に電流を流すだけでなので、制御が非常に簡単です。出力電圧はトランスの巻き数比で決定されます。
    巻き数比が1:1であれば、理論上は「入力電圧=出力電圧」となりますが、上図の構成では出力フィードバックが無いため、負荷電流が大きくなるとトランスからの出力電圧は低下してしまいます。そのため、巻き数比で5Vや3.3Vを狙った場合、安定した出力電圧を得ることは難しくなります。
    今回は巻き数比を1:1、入力電圧=出力電圧を前提に、トランスの出力側にDC/DCを使用し、安定した5V出力と3.3V出力を得ることとします。

     

    プッシュプル電源コントローラー

      有名どころで言えばTI社のトランスドライバが挙げられます。データシートには入出力条件毎に推奨トランスの型番が記載されており、非常に親切です。
      回路としては、帰還制御は無く、50%_Dutyで交互にスイッチさせ、2次側(出力側)に電力を伝達する方式であり、出力電圧(Vout)は入力電圧(Vin)とトランスの巻き数比で決定されます。
      但し、欠点としては、スイッチ(FET)がIC内部に組み込まれているため、大きな電流は引けません。
      それにより、全消費電力が小さめの、小規模回路への電力共有用と、用途が限られています。

      そこで今回は、Renesas社のGreenPAKシリーズにあるSLG47105をコントローラとし、FETはICの外に出すことで、更に大きな電流をトランスに流せるようにします。

       

      部品選定:トランスとFET

      さて、今回は「お手軽」且つ「簡単」がテーマなので、トランスは設計せず、トランスメーカーの標準品を使います。
      選定したのはウルト社750315213です。選定根拠は以下の通り。
      ・巻き数比が1:1
      ⇒ Duty50%動作でVin=Vout、バス電圧出力に使えそう
      ・Vin=8V~36V
      ⇒ 12Vin, 24Vinの両方に対応できそう
      ・Iout=600mA(max)
      ⇒ 12Vinなら7Wくらい取れそう
      ・fsw=150kH~500kHz
      ⇒ 400kHzでスイッチング、応答悪く無さそう

      数値上の確認しかできないので「~~そう」が多いのはご容赦ください。  でも、、 まぁ、、 動きますよ。  うん、 きっと大丈夫。。。

      FETですが、今回気を付けなければならないのはVdsの耐圧です。
      FETがONしている間、Vdsは凡そ0Vになりますが、OFFになるとVinより高い電圧が発生します。この電圧は「フライバック電圧(VOR)」とよばれ、トランスの巻き数比によって求められます。

      今回使用するトランスは、巻き数比が1:1なので、FET_OFF時のVdsはVinの2倍となります。
      更に、机上計算では出てこないスイッチングサージも考慮する必要があります。
      Vin=24VとするとVdsは48V、スイッチングサージがVdsの1.5倍とすると、FETの耐圧としては100Vは欲しいところです。
      なので、今回はRenesasの100V耐圧FETRJK1028DNSを使用します。3mmx3mmの小型パッケージでQgも小さくお薦めです。

       

      GreenPAK設計

        今回使用するトランス750315213のfswは150kHz~500kHzとなっているので、今回は400kHzを狙います。GreenPAKにはオシレータが内蔵されています。SLG47105Vには2.048kHzの「OSC0」と、25MHzの「OSC1」があり、OSC1の分周機能を使って約800kHzのクロックを生成します。

        このクロックを基にFETのGateを叩くパルスを生成します。
        GreenPAK内蔵のLUT(ロジック素子)とカウンターやディレイ等を駆使して、ソフトスタート機能、正相/逆相パルスを作ります。
        また、2つのFETが同時にONとならないよう、デッドタイムを必ず設けます。

        パルスができてしまえば、そのパルスをパワーステージから出力するようにつなげば完成です。

        SLG47015Vにはパワーステージが2chあるので、今回は欲張って「1-chipで2出力の絶縁DC/DC」にしてみました。

         

        動かしてみた

          回路全体のイメージはこんな感じです。

          回路図と基板レイアウトはこのようになりました。


          2出力ながら10cmx5cmに収めることができました。なかなか小さく出来たのではないでしょうか。

          完成した基板はこちらです。

          GreenPAKの電源電圧にはLDOでも良かったかもしれませんが、FETをONする電流がそこそこ大きくなると予想し、DC/DCを用いています。
          2次側(出力側)の整流はダイオードです。この回路には帰還制御回路が無いため、負荷電流が大きくなると、ダイオード後の電圧が低下してしまうため、その後段に更にDC/DCを配置する「2段コンバーター構成」としました。

          効率想定の結果はこちら!

          12V(灰)は出力側ダイオードのカソードまでで測定した効率、5V(青)と3.3V(橙)は出力側DC/DCを含めた効率です。
          5V(青)と3.3V(橙)は2段コンバーターになっているので、効率は「良い」とは言えませんが、そこまで悪くなっていない印象です。3.3V出力はDC/DCのインダクタ値を見直すことでさらに効率を上げられると思われます。
          12V(灰)は出力側ダイオードのカソード部分から直接電子負荷に接続して測定していますが、90%近い効率となっています。
          今回は「お手軽さ」を追求しましたので、ダイオード整流を用いましたが、同期整流回路を用いれば、90%越えも可能と考えます。

          これは、まぁまぁ期待通りと言って良いんではないでしょうか!

           

          まとめ

            RenesasのGreenPAKは簡単にカスタムICが実現できる、非常に優れたプログラマブルICです。ロジックやコンパレータを組み合わせた汎用ICだけでなく、設計次第では今回の例のように、電源回路を構成することも可能です。
            既存回路のコストダウンや部品集約、回路面積削減に、GreenPAKを是非ご検討ください。

            「こんな回路を実現したい!」等のご要望やご相談がありましたら、是非弊社エンジニアへご相談ください!

            ルネサス製品をお探しの方は、メーカーページもぜひご覧ください。
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