- 公開日:2025年03月28日
- | 更新日:2025年03月31日
ΔΣADCのしくみとRX23E-B
- ライター:Tianrui Wang
- マイコン
ΔΣADCの基礎知識
AD変換(アナログ・デジタル変換)は、アナログ信号(電圧、電流、温度など)をデジタル信号(二進数)に変換するプロセスです。本資料では、特に高精度計測に適したΔΣADC(デルタシグマADコンバータ)について解説します。
AD変換とは
AD変換は以下のステップで行われます。
- サンプリング:一定の時間間隔でアナログ信号の振幅を取得
- 量子化:取得したデータを最も近い離散値へ丸める
- 符号化:量子化された値を二進数で表現
AD変換ではサンプリング定理がキーワードになります。
ナイキストのサンプリング定理:「入力信号の最高周波数Finに対し、Fs > 2Finの条件を満たせば元の波形を復元できる」
サンプリング周波数が不十分だと、異なる信号が区別できなくなる(エイリアシング)現象が発生するため注意が必要。
ΔΣADCの全体像
この図はΔΣADC(デルタシグマADC)の全体的な構成を示しています。
アナログ入力信号はまずΔΣ変調器に入り、積分と量子化を通じて1ビットのデータ列(@モジュレーションクロック)に変換されます。
次に、ローパスフィルタ(LPF)で移動平均を取り、量子化ノイズを除去しながらマルチビットデータへ変換します。さらに、デシメーション処理によりサンプリングレートを低減し、最終的なデジタルデータ(@サンプリングクロック)を出力します。
この流れにより、ΔΣADCはオーバーサンプリングとノイズシェーピングを活用し、高分解能のデジタル信号を得ることができます。
ΔΣ変調器
ΔΣ変調器は、積分器と量子化器を組み合わせることで、量子化ノイズを高周波帯域に押し出す回路です。
仕組み:
- 入力信号を積分し、量子化誤差を蓄積
- 1bitのデジタル信号に変換
- フィードバックループで誤差を補正
この方式により、低周波帯域では量子化誤差が抑えられ、最終的に高精度なAD変換が可能になります。
デジタルフィルター
ΔΣ変調器から出力された1bitのデータストリームには、不要な高周波ノイズが含まれています。
この不要なノイズを除去し、適切なビット数に変換するのがデジタルフィルタです。
ΔΣADCでは、SINC(シンク)フィルタがよく使われます。
SINCフィルタは以下の特長を持ちます。
- 単純な加減算のみで動作(計算コストが低い)
- オーバーサンプリングされたデータを適切なサンプリングレートに変換
- 低周波成分を保持しつつ、高周波ノイズを除去
SINCフィルタの次数を増やすことで、ノイズ除去能力を向上させることもできます。
ΔΣADCの強み
ΔΣADCの高精度を支える2つの技術について詳しく見ていきます。
オーバーサンプリング
通常のADCでは、ナイキストのサンプリング定理に従い、信号帯域の2倍のサンプリング周波数が必要です。
一方、ΔΣADCではナイキスト周波数よりもはるかに高い周波数でサンプリングを行います。
この結果:
- 量子化ノイズが広帯域に分散
- デジタルフィルタで不要なノイズを削減
- 実質的なSNR(信号対雑音比)が向上し、高分解能を実現
ノイズシェーピング
ΔΣ変調器の積分回路により、量子化誤差を低周波領域から高周波領域へ押し上げることができます。
デジタルフィルタで高周波成分を除去すれば、低周波成分のみを高精度に取得できるようになります。
大事なパラメーター
ΔΣADCの設計や性能評価において、特に重要なパラメータを2つ紹介します。
セトリング時間
SINCフィルタの次数が増えると、フィルタの応答が安定するまでの時間(セトリング時間)が長くなります。
例えば、SINC1フィルタでは1サンプリング周期で安定しますが、SINC4フィルタでは4サンプリング周期必要です。
高精度測定が必要な場合は高次数のフィルタを使用するが、その分応答速度が遅くなるためバランスが重要です。
OSR(オーバーサンプリング比)
OSR(Oversampling Ratio)は、ナイキスト周波数に対するサンプリング周波数の比率を表します。
OSRが大きいほど、量子化ノイズが広い帯域に拡散し、ノイズをより効果的に削減できます。
- OSRが大きい → 高分解能
- OSRが小さい → 高速な応答が可能
システムの要求に応じて、適切なOSRを選択することが重要です。
RX23E-Bのご紹介
ルネサスでは高精度計測が必要が産業用センサ機器に最適なAFEを内蔵したMCU製品RX-Eシリーズを展開しています。近年ではRX23E-Bが加わり、24bitΔΣADCが必要な大半のアプリケーションをサポートできるようになりました
RX23E-Bアナログフロントエンドの特徴
- 最大125kSPSの高速ΔΣを搭載
- 出力データレート
125kSPS版:3.9SPS~125kSPS
31kSPS版:3.9SPS~31.25kSPS
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- チャネルスキャンデータレート(max)
125kSPS版:12.3kSPS/ch (セトリング時間81usec)
31kSPS版:4.97kSPS/ch (セトリング時間201usec)
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- 最大24bit有効分解能(Gain=1,10SPS)
- RMSノイズ(Gain=16,10SPS):40nVrms
- +/-10V入力に対応
- デジタルフィルター:SINC4+SINC4 or SINC5+SINC1(選択型)
- 16bit DAC
MCUの特徴
- RX23E-Aの機能を継承しつつ、新機能を追加
- 多ピンのラインアップを拡充