- 公開日:2018年08月22日
- | 更新日:2022年11月21日
TI FRAMマイコンで実現!Flash/EEPROMを越えた低消費電力メモリ機能
- ライター:クライフ
- マイコン
はじめに
不揮発性メモリ「FRAM」が搭載されたマイコンが存在することはご存知でしょうか。
従来、マイコンには、大容量の不揮発性メモリ Flashと小容量の高速書き込みメモリ RAM(DRAM/SRAM)が採用されています。中には、EEPROMも搭載したマイコンも存在します。
しかし、FRAMを搭載したマイコンというのはあまり知られていないかもしれません。
テキサス・インスツルメンツ(以下、TI)では、低消費電力かつ低価格なマイコンとして「MSP430」シリーズがありますが、その一部の製品には「FRAM」メモリを搭載した製品が存在します。
こちらの記事では、FRAMの特徴とそのメモリを搭載したマイコンのもつポテンシャルについてご紹介します。
是非、マイコンをお探しの方は最後までご覧ください。
FRAMってどんなメモリ??
FRAMとは「Ferroelectrics RAM」(強誘電体ランダムアクセスメモリ)の略で、強誘電体の材料/性質を利用したRAMメモリです。
この結晶の中心に、Zr/Tiイオンが存在し、外部から電圧(電源)を与え電界を変化させることで、Zr/Tiイオンに分極作用という現象が発生し、電界の+または-へと偏りが生じます。強誘電体の基本的な構造はPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の結晶になります(図1)。
偏りが生じたZr/Tiイオンは+、-それぞれのある安定点に位置することで、分極状態となります。
この分極状態で安定点に到達したイオンの位置によって、“1”または”0”のデータを記憶させることができます。
図1. PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の結晶モデル
FRAMって他のメモリとの違いとは??
この強誘電体を使用したFRAMがどう優れているのかを、簡単な言葉で表すと、「記憶力」、「柔軟性」、「汎用性」、「省電力」、「耐久性」と5つの大きな特徴があります。
その特徴をFRAM/SRAM/EEPROM/Flashで比較したものが次の表になります。
FRAM | SRAM | EEPROM | Flash | ||
---|---|---|---|---|---|
記憶力 | 不揮発性 電源が切れてもデータを 保持可能 |
Yes | No | Yes | Yes |
書き込み耐久性 | 100兆回以上 | 制限なし | 100,000 | 10,000 | |
汎用性 | 書き込み速度 13kB書き込み時 |
6msec | < 10msec | 2sec | 1sec |
ダイナミック ビット幅でのプログラミング |
Yes | Yes | No | No | |
統合されたメモリ 柔軟なコードとデータの パーティショニング |
Yes | No | No | No | |
省電力 | アクティブ時の消費電流 平均値[μA/MHz] |
100 | < 60 | 50000 + | 260 |
図2. メモリの種類別特徴一覧
特徴1 : 【記憶力】不揮発性のRAMメモリ
FRAMの強誘電体は電圧を加えることで”1”,”0”に分極しますが、実はこの電圧を切っても、その分極を保持する性質も備えています。すなわち、RAMでありながら、Flash/EEPROMのように不揮発性(電源が切れても記憶保持可能な)メモリというのがFRAMの⼤きな特徴です。
さらに、FRAMは書き込み耐久性が非常に高いです。⼀般的に、内蔵Flash製品の書き込み耐久性は1万回、EEPROMでは10万回であるといわれています。対して、FRAMの書き込み耐久性は100兆回であり、Flashの100億倍の耐久性能を有しています。
特徴2 : 【汎用性】高速かつ柔軟な書き込み性能
RAM製品全般の特徴として書き込み速度が 速い という利点があり、FRAMもその高速性能を有しています。
図2を見ると13KBの書き込む際、FRAMは6msとFlashの6/1000の書き込み速度を実現します。この書き込み時間の速さの理由は、書き換えプロセスの違いに起因します。
また、データの書き換えを行う際、FRAMは「重ね書き」の1つの手順で実行することが可能で、Flashのようにワードまたはセグメント単位でのErase(消去)してから、再度単位ごとにWrite(書き込み)を実行する、といった手順を簡略化することが可能です。
特徴3 : 【省電力】超低消費電力
FRAMは強誘電体に電圧を加える際に、高電圧を必要としないため、Flash/EEPROMで必要なチャージポンプが不要です。そのため、低電圧(1.5V)で書き込み実行することが可能で、Flash/EEPROMに比べて書き込みに消費する電力を抑えることができます。
FRAM搭載マイコンはこんなところで使える!
前章のFRAMと他メモリの比較から、FRAMはFlash/EEPROMやSRAMの良いとこ取りをした、非常に性能が優れたメモリであることは感じて頂けたと思います。
では、FRAMを搭載したマイコンは従来のFlashマイコンよりもどういうところでメリットがあるか、一例でご紹介します。
・マイコンと外部メモリを1chipで実現!
多くのアプリケーションではマイコン内蔵メモリでは足らず、大概外部メモリを使用します。特にセンサなどの膨大なデータ量を扱う場合は、EEPROMを外付けし、シリアル通信を行う例は珍しくありません。
MSP430FRAM製品はマイコン+FRAMを一体化させたことにより、外部メモリを使用する場合において非常に利点が多いです。
得られるメリットは主に次の3つのことが考えられます。
メリット1 : メモリ書き込み速度の向上
外部メモリに対するシリアル通信時間を省略!
メリット2: 超低消費電力なシステムを実現
外部メモリ分の電力をカット!
メリット3 : BOMコストの削減
外部メモリ分の部品点数をカット!
・電源瞬断時の瞬時なデータバックアップ機能の実現
アプリケーションの多くは通電中に処理したデータ等をメモリに保存しています。ただ、電源の瞬断を想定したとき、SRAMは保存されたデータが消え、Flash/EEPROMでは書き込み速度が遅く、瞬断直前のデータが記憶できない可能性があります。
FRAMであれば、高速書き込み性能により、瞬時に電源が切れる直前のデータを保存でき、再度通電後にそのデータを読み出すことが可能になります。
さらに、マイコンに内蔵されたFRAMであれば、通信時間も短縮できるため、よりバックアップ機能を実現することができます。
おわりに
FRAMは他のメモリに比べ、性能が非常に高い製品です。このメモリをマイコンに内蔵することで、これまでの常識とは違った使い方が実現できます。もしマイコンを検討してみよう、もしくはメモリを含めて一新したアプリケーションを作りたい、と思っている方は是非MSP430 FRAM製品シリーズをご覧ください。
TI社では年々、MSP430の新機種にFRAMを搭載したものをリリースしており、高機能なもの、小型特化したものなど、様々なラインナップが揃っています。さらには、評価を簡単に行える評価ボードや無償で使える開発環境も揃っていますので、まずは一度MSP430をいじってみてはいかがでしょうか。
関連情報はこちら
【2018年版】Code Composer Studioのインストール手順
https://emb.macnica.co.jp/articles/791/
他社にはない?MSP430の特徴的なペリフェラルの紹介
https://www.fujiele.co.jp/semiconductor/ti/tecinfo/news201712220000/
ワークショップレポート「MSP430の基本がわかるハンズオンワークショップ」
https://www.fujiele.co.jp/semiconductor/ti/tecinfo/news201704100000/