• 公開日:2025年09月25日
  • | 更新日:2025年09月29日

Renesas製車載マイコンRH850シリーズラインナップ

自動車の電子制御は、かつての「機能別制御」から「統合制御」へと進化しています。従来主流だった機能別にユニットを配置する構成(ドメイン構成)は、今後は車両内をエリアごとに分けて制御ユニットを配置する構成(ゾーン構成)へと移行していくと予測されています。

この変化に対応するため、ルネサスエレクトロニクスはRH850シリーズという高性能・高信頼性の車載マイコンを展開しており、各アーキテクチャに最適化された製品群を提供しています。

本記事では、車載アーキテクチャの進化の背景とRH850シリーズのラインナップを説明し、各マイコンの得意分野と住み分けを明確にします。

 

車載アーキテクチャの進化

 

ドメイン構成

図1 ドメイン構成

 

従来の車載アーキテクチャは、ドメイン構成が主流でした(図1)。色分けされているのが機能毎の制御ユニットです。ドメイン構成では各機能(パワートレイン・シャーシ/セーフティ、ボディ、インフォテイメント等)に分けられて制御ユニットが配置されており、それぞれの間をCANやLINなどの通信で連携して制御していました。

 

しかし、近年の車両における新システム、新サービスの機能追加に伴い車両に搭載される制御ユニットも増大し、制御ユニット間を繋ぐ配線も冗長化、複雑化しており車両全体の重量も増加させています。また、複雑化が増すという事はメンテナンス性にも影響を与えます。そのため、このままの構成では今後も同じように機能を拡張していくのが難しくなってしまいます。

その為、次世代の構成としてゾーン構成というアーキテクチャが考えられています。

 

 

 

ゾーン構成

図2 ゾーン構成

 

ゾーン構成では、様々な機能を持つ制御ユニットを機能(ドメイン)ではなく車両を物理的なエリア(ゾーン)に分割し、各ゾーンにゾーンECUを配置します。制御ユニット、コントローラユニットを最適な配置にすることで、各ユニットとの接続がゾーン内で完結するために敗戦の長さが大幅に短縮され、車両全体の重量の軽量化につながります。これは燃費向上や航続距離の延長にも貢献します。

また、ゾーンごとに分割する事で車両設計のモジュール化が可能になります。異なる車両やグレード車種に対して、ゾーン単位で機能の追加・削除などが行えるために開発効率が向上し、部品の共通化も図れます。

 

利点の多いゾーン構成ですが、現状での課題もあります。ゾーン構成は複数の機能を統合的に制御するために、高性能なマイコンが必要となります。また、従来のドメイン構成で培った開発資産を効果的にゾーン構成へ移行させる事ができるマイコンが必要となってきます。

 

RH850シリーズの概要

RH850シリーズは、ルネサスが開発した32ビット車載用マイコンファミリです。機能毎のドメイン構成に対応したマイコン(Gen1)から、ゾーン構成を見据えた高性能マイコン(Gen2)のラインナップを揃えております。

 

また、RH850シリーズ全体の特長を説明します。

 

■スケーラビリティ

各マイコンに搭載されている周辺機能IPを共通化する事で、ユーザソフトウェアの資産化に貢献します。

  • 周辺機能IPの統合とスケーラビリティを実現
  • 基本的IP(シリアル、カウンタなど)は既存仕様を洗練した汎用仕様とし、今後も互換性を維持
  • 差異化IP(エンジン制御・モータ制御用タイマなど)は仕様をさらに進化させ、ユーザ製品の競争力を向上

索引:RH850ファミリの特長 | Renesas ルネサス

 

■低消費電力

システム全体の消費電力削減を実現

  • 動作電力削減
    40nmプロセス採用で回路の微細化を推進、動作時の電力を削減
  • リーク電力削減
    低リーク・トランジスタ採用で、無駄なリーク電力を削減
  • 待機電力削減
    待機時に動作しない回路の電源を部分的に遮断し、無駄な電力をさらに削減

索引:RH850ファミリの特長 | Renesas ルネサス

 

■機能安全対応

ISO26262規格に対応するための機能安全に向けた機能を搭載

 

索引:RH850ファミリの特長 | Renesas ルネサス

 

RH850シリーズはドメイン構成に適したGen1と、クロスドメインを実現するGen2のラインナップがあります。

 

 

索引:RH850車載用MCU – 高性能車載用MCUマイクロコントローラ | Renesas ルネサス

 

 

RH850/D1x

 

車載インスツルメントクラスタ向けに設計された高性能マイコンで、主に以下の3つの製品群に分かれています

 

・RH850/D1S:LCDバスIFを搭載し、シンプルなゲージ表示に対応

・RH850/D1L:低コストでシンプルなクラスタに最適。基本的なゲージ表示や簡易2D描画に対応

・RH850/D1M:高機能なグラフィック表示が必要なデジタルクラスタに最適。HUDやJPEG表示なども可能

 

表1 RH850/D1x比較表

D1S D1L D1M
周波数 120MHz 120MHz 240MHz
ROM 1MB Up to 4MB Up to 5MB
RAM 128KB Up to 512KB Up to 3.5MB
ADC 12bit × 16ch 12bit × 16ch 12bit × 16ch
CAN/CAN-FD 〇/- 〇/〇 〇/〇
LCD/グラフィック LCD IF LC IF / 簡易グラフィック 2D GPU/Sprite/JPEG等

 

図3 RH850/D1M

 

RH850/F1x

車載ボディ制御向けに設計された高性能・低消費電力のマイコンシリーズです。下記の製品群があります。

・RH850/F1L:基本的なボディ制御(ドア、ライト、HVACなど)

・RH850/F1K:中規模ボディ制御、ゲートウェイ処理

・RH850/F1KM-Sx:中~大規模ボディ制御、セキュリティ対応

・RH850/F1KH:高性能ゲートウェイ、集中制御ECU

 

表2 RH850/F1x比較

F1L F1K F1KM-S1 F1KM-S2 F1KM-S4 F1KH-D8
周波数 80MHz 120MHz 120MHz 240MHz 240MHz 240MHz×2
ROM Up to 2Mb Up to 2MB Up to 1MB 2MB Up to 4MB Up to 8MB
RAM Up to 192KB Up to 192KB Up to 128KB 256KB Up to 512KB Up to 1MB
ADC 12bit×91ch 12bit×60ch 12bit×36ch 12bit×34ch 12bit×70ch 12bit×70ch
CAN/CAN-FD 〇/- 〇/〇 〇/〇 〇/〇 〇/〇 〇/〇

図4 RH850/F1L

 

RH850/E1x

エンジンやトランスミッションなどのパワートレイン制御に特化した高性能マイコンシリーズです。下記の製品群があります。

・RH850/E1L:基本的なパワートレイン制御

・RH850/E1M-S:E1Lの上位モデルでCAN-FDにも対応

・RH850/E1M-S2:E1M-S1の後継モデルで性能・機能を強化

 

表3 RH850/E1x比較表

E1L E1M-S E1M-S2
周波数 240MHz + 80MHz 320MHz + 80MHz 320MHz + 80MHz
ROM 2MB 4MB 4MB
RAM Up to 192KB 352KB 352KB
ADC 12bit × 36ch 12bit × 48ch 12bit × 48ch
CAN/CAN-FD 〇/- 〇/〇 〇/〇
⊿ΣADC 2ch 8ch 8ch

 

図5 RH850/F1M-S2

 

RH850/C1x

HEV/EV向けのモータ制御に特化した高性能車載マイコンシリーズです。下記の製品群があります。

・RH850/C1M、C1H:HEV/EVのモータ制御、モータ制御アクセラレータ(EMU)搭載(C1H:2モーター制御)

・RH850/C1M-A1、A2:C1xの高性能版、CAN-FD対応(C1M-A2:2モーター制御)

 

表4 RH850/C1x比較表

C1M C1H C1M-A1 C1M-A2
周波数 240MHz 240MHz × 2 240MHz 320MHz × 2
ROM 2MB 4MB 2MB 4MB
RAM 128KB 256KB 128KB 256KB
ADC 12bit × 25 12bit × 37 12bit × 30ch 12bit × 48ch
CAN/CAN-FD 〇/- 〇/- 〇/〇 〇/〇
RDC
EMU

図6 RH850/C1H

 

 

RH850/P1x

シャシー制御向けに設計された高性能・高信頼性のマイコンシリーズです。以下の製品群があります。

・RH850/P1M:基本的なシャシー制御向けマイコンで低消費電力を実現

・RH850/P1M-E:実績のあるP1Mを元に、CAN-FDを追加搭載

・RH850/P1L-C:最小80pinの小型パッケージを用意し、システム全体の小型化を実現

RH850/P1M-C:GTM(Generic Timer Module)を搭載し、多彩な処理に対応

RH850/P1H-C:デュアルCPUで性能をUP、また最大ROM10MBを搭載しより高制御システムにも対応

 

表5 RH850/P1x比較表

P1M P1M-E P1L-C P1M-C P1H-C
周波数 160MHz 160MHz 120MHz 240MHz 240MHz
ROM Up to 2MB Up to 2MB Up to 1MB 2MB Up to 10MB
RAM Up to 128KB 192KB Up to 100KB 448B Up to 1536KB
ADC 12bit × 24ch 12bit × 24ch 12bit × 20ch 12bit × 24ch 12bit × 40ch
CAN/CAN-FD 〇/- 〇/〇 〇/〇 〇/〇 〇/〇

図7 RH850/P1H-C

 

 

RH850/E2x

CPUを複数搭載した、パワートレイン制御向けマイコンシリーズです。下記の製品群があります。

・RH850/E2M:400MHz×2個のCPUを搭載

・RH850/E2H:400MHz×4個のCPUを搭載し、より高性能なリアルタイム制御を実現

・RH850/E2UH:400MHz×6個のCPUを搭載し、より複雑な制御に対応

 

表6 RH850/E2x比較表

E2M E2H E2UH
周波数 400MHz × 2 400 × 4 400MHz × 6
ROM 8MB 12MB 16MB
RAM 768KB 1152KB 2048KB
ADC 12bit × 80ch 12bit × 96ch 12bit × 96
CAN/CAN-FD -/〇 -/〇 -/〇
⊿ΣADC

 

図8 RH850/E2UH

 

 

RH850/U2A

従来のシャシー制御用RH850/Pxシリーズ、ボディ制御用RH850/Fxシリーズの主要機能を搭載し、性能を向上させる事でE/Eアーキテクチャの進化に対応する次世代マイコンです。また、CPUコアにはハードウェアベースの仮想化支援機能が統合されており、ISO26262の機能安全レベルが異なる複数のソフトウェアシステムを、干渉することなく独立してハイパフォーマンスに動作させることが出来ます。

 

表7 RH850/U2x比較表

U2A6 U2A8 U2A16
周波数 400MHz × 2 400MHz × 2 400MHz × 4
ROM 6MB 8MB 16MB
RAM 768KB 1.8MB 3.6MB
ADC 12bit × 74ch 12bit × 94ch 12bit × 94ch
CAN/CAN-FD 〇/〇 〇/〇 〇/〇
Ethernet 100Mb 100Mb / 1Gb 100Mb / 1Gb

 

図9 RH850/U2A

 

 

RH850/U2B

 

RH850/U2Aと同じくクロスドメインマイコンです。従来のエンジン制御用RH850/Exシリーズ、xEV用RH850/Cxシリーズの主要機能を搭載し、性能を向上させています。また、モータ制御向けに高性能モータ制御アクセラレータ(EMU3S)を搭載し、GTMやTSG3などの複数のモータ制御用タイマ機能と柔軟に連携して動作することが出来ます。独自の機能として内蔵している位置センサインタフェースRDC3X(レゾルバおよびインダクティブポジションセンサに対応)は、通常必要とされる外付けRDCチップセットが不要となるため、大幅なBOMコストの削減が可能です。

 

表8 RH850/U2Bx比較表

U2B6 U2B10 U2B24
周波数 400MHz × 3 400MHz × 4 400MHz × 6
ROM 6MB 10MB 24MB
RAM 567KB 1280KB 4096KB
ADC 12bit × 64ch 12bit × 96ch 12bit × 96ch
CAN/CAN-FD 〇/〇 〇/〇 〇/〇
RDC
⊿ΣADC

 

図10 RH850/U2B

 

まとめ

車載アーキテクチャは、ドメイン構成からゾーン構成へと進化しています。この変化に対応するためには、高性能・高信頼性・セキュアなMCUが不可欠です。

ルネサスのRH850マイコンシリーズは、多様な用途に対応するラインナップと、次世代アーキテクチャに最適化された設計により、未来の車両制御において必要な機能が搭載されています。RH850マイコンシリーズの強みと、車載システムへの適合性を再度、下記にまとめます。

 

  1. 高性能CPU

G4MH/G3MHコア搭載(最大6コア、400MHz)

ロックステップ対応で**機能安全(ASIL-D)**を確保

ゾーンECUで複数機能を同時制御可能

 

  1. ハードウェア仮想化支援

RH850/U2Aなどは仮想化支援機能を搭載

異なる安全レベルのソフトウェアを同一マイコン上で分離実行可能

ゾーンECUでの機能統合と安全性の両立に貢献

 

  1. 豊富な通信インタフェース

CAN-FD、Ethernet(最大1Gbps)、FlexRay、SENT、PSI5などゾーン間の高速通信とセンサ接続を柔軟に構成可能

 

  1. セキュリティ・OTA対応

EVITA-Full準拠のHSM搭載(U2Aなど)

OTA(Over The Air)更新対応でソフトウェアの遠隔更新が可能

ゾーンECUのライフサイクル管理に最適

 

  1. スケーラブルな製品群

RH850/P1M(シャシー)、F1KM(ボディ)、E2M/E2UH(パワートレイン)、U2A(ゾーン統合)など車両全体のアーキテクチャに応じて最適なマイコンを選定可能

 

 

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