- 公開日:2025年09月29日
- | 更新日:2025年09月30日
非画像領域のセンシングAI「Reality AI」
はじめに
近年、工場の予知保全やスマート家電、ウェアラブル機器など、私たちの身の回りのあらゆる場面でAI技術の活用が急速に進んでいます。
特に、機器の異常検知や音声認識といった機能を、クラウドを介さずにデバイス自体でリアルタイムに処理する「エッジAI」の需要が高まっています。
こうしたニーズに応えるため、ルネサスは、センサーデータからエッジAIを開発するためのツールとして「Reality AI」を提供しています。2022年にルネサスが買収したReality AI社の技術を基盤とするこのツールは、AIの専門知識がないエンジニアでも、短期間かつ低コストでAI機能を組み込み機器に実装できるのが特長です。
本記事では、この「Reality AI」が持つ技術的な特徴を、具体的な応用例を交えながらご紹介します。従来のAI開発が抱えていた課題をどのように解決し、ルネサス製マイクロコントローラ(MCU)上でAIモデルをいかに効率的に動作させるかに焦点を当てて解説していきます。
Reality AIとは
Reality AIは、センサーから得られる物理データ(音、振動、電流、加速度など)を解析し、エッジデバイス上で動作するAIモデルを開発するためのツールです。
最大の特長は、「独自の信号処理技術」「AI技術」「組込技術」という3つの要素を融合させている点です。
1.独自の信号処理技術
通常のAI開発では、センサーから得た生データから、AIが学習しやすい「特徴」を人間が抽出し、学習させる必要があります。
これには高度な専門知識と多くの試行錯誤が伴います。
Reality AIは、このプロセスを自動化します。広範囲な周波数・時間領域から最適な特徴を自動で見つけ出し、最適なアルゴリズムまで選択してくれるため、開発者は信号処理に関する深い知識がなくても、精度の高いAIモデルの土台を築くことができます。
2.AI技術(機械学習の自動化)
特徴抽出が完了すると、Reality AIはそれを用いて最適な機械学習モデルを自動的に生成します。
モデルの探索だけでなく、その性能評価や、なぜそのように判断したのかを視覚的に示す機能も提供します。
これにより、開発者はAIの判断根拠を理解しながら、ブラックボックス化を防ぎ、信頼性の高いシステムを構築することが可能です。
3.組込技術(マイコンへの実装)
これは、生成されたAIモデルをルネサス製マイクロコントローラ(RX, RL78, RA, RZなど)に実装するためのコードを自動生成する機能です。
生成されるコードは、メモリ使用量や計算負荷が小さくなるよう最適化されており、リソースが限られた安価なマイコン上でも軽快にAIを動作させることができます。
これにより、既存のハードウェア設計を大きく変更することなく、製品に「後付け」でAI機能を追加することも容易になります。
このようにReality AIは、AI開発における専門的なスキルセットの壁を取り払い、アイデアを迅速に組み込みAIとして実装するためのソリューションです。
Reality AIの応用事例
ターゲットとなるアプリケーションは、以下の通り多岐にわたります。
Reality AIの具体的な開発フロー
Reality AIがもたらす最大の利点の一つは、開発工数の削減にあります。
一般的なAIモデル開発のフローと、Reality AI Toolsを使った場合のフローを比較します。
一般的なAI開発フロー
上の図の上段に示すように、従来の組み込みAI開発には、多くの専門的な工程が必要でした。
ステップ1:データ収集
AIに学習させるためのセンサーデータを集めます。
ステップ2:学習条件設定・特徴抽出
収集したデータから、AIが学習しやすい「特徴」を人間が設計し、抽出します。
この工程はAIの精度を左右する最も重要かな部分で、データサイエンティストのような専門家の知見が不可欠です。
ステップ3:モデルの学習・評価
特徴データを使って、様々な機械学習モデルを試し、精度を評価します。
ステップ4:マイコン用に変換・実装
完成したモデルを、メモリや演算能力が限られたマイコンで動くように、軽量化・最適化し、実装します。
一般的にモデルはPythonで記述されており、それをC言語に変換し、最適化する作業が必要になります。
このように、各ステップで高度なスキルセットが求められるため、開発期間が長期化し、コストが増大する一因となっていました。
Reality AI Toolsを使った開発フロー
一方、Reality AI Toolsを使うと、この複雑なプロセスが簡素化されます。
開発者はAIの専門家でなくても、直感的な操作でAIモデルをマイコンに実装できます。
ステップ1:データ収集とアップロード
まず、開発環境を使い、ターゲットとなるルネサス製マイコンが搭載された実機からセンサーデータを収集します。
その後、収集したデータをReality AI Toolsのプロジェクトにアップロードします。
データはCSVでもアップロード可能ですが、
ルネサスの統合開発環境 e² studio を用いることでデータ収集からアップロードまでを簡単に行えます。
ステップ2:AIモデルの自動作成と選択
アップロードされたデータを基に、複雑な特徴抽出からモデルの学習、評価、そしてマイコン向けの最適化までを全自動で行います。
開発者は、自動生成された複数のモデル候補の中から、自身の要件(例えば「精度を最優先する」「メモリ使用量を最小限に抑える」など)に最も合ったモデルを選択するだけです。
各モデルのRAM/ROMサイズや精度が一覧で示されるため、ハードウェアの制約に合わせた最適な選択が容易に行えます。
ステップ3:実装
最適なモデルを選択すると、ルネサス製マイコンに実装できる最適化済みのCコードが自動で生成されます。
開発者はこのコードを自身のプロジェクトに組み込むだけで、AI機能の実装が完了します。
このように、Reality AIは、AI開発で特に課題となりがちな「特徴抽出」や「モデルの選択・学習」といった工程を自動化します。
AI開発における、複雑で専門知識を要するプロセスを自動化することで、開発工数を大幅に削減し、迅速な市場投入を実現します。
ルネサスが提供するReality AIのリファレンスモデル
特定用途向けのハードウェア、ソフトウェアと機械学習モデルのリファレンスモデルでのソリューションとして下記が用意されています。
RealityCheck™ HVACソリューションスイート
スマートな自己診断フレームワークを提供
RealityCheck™ HVAC Solutions Suite | Renesas ルネサス
RealityCheck™モータツールボックス
予知保全と異常検知を可能にする高度なソフトウェア・ツールボックス
RealityCheck™ Motor Toolbox | Renesas ルネサス
Automotive SWS
オーディオベースのADAS用センシングソリューション
Automotive Sound Recognition (SWS) | Renesas ルネサス
まとめ
いかがでしたでしょうか。
Reality AIは、AIの専門知識がないエンジニアでも、センサーデータからエッジAIモデルの開発、そしてマイコンへの実装までをワンストップで実現するツールです。
複雑な特徴抽出からコード生成までの一連のプロセスを自動化することで、開発工数を削減し、アイデアを迅速に製品へと反映させることが可能になります。
予知保全やスマート家電など、身の回りのあらゆる機器に追加する新たな付加価値として、Reality AIの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
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