• 公開日:2025年10月01日

RDC内蔵 ルネサス車載MCU

近年、電気自動車(EV)やハイブリッドカー(HEV)の需要拡大により、高精度かつ高信頼性のモーター制御技術が車載市場でますます重要視されています。

その中でも、モーターの回転角や回転速度の検出に使用されるレゾルバ(Resolver)と、それをデジタル信号に変換するRDC(Resolver to Digital Converter)は、モーター制御システムの中核を担っています。

本記事では、RDC機能を内蔵したルネサス(ルネサス エレクトロニクス株式会社)車載マイコン(MCU)に焦点を当て、その特長とRDC内蔵による利点について説明します。

 

 

 レゾルバ(Resolver)とは?

レゾルバ(resolver) は、回転するシャフトの角度を電気信号として検出するアナログセンサーです。

レゾルバは、以下のような特長を持ち、高耐環境性と高信頼性を備えた回転位置センサーとして広く利用されています。

 

【特徴】

・高耐熱・耐振動性

・ノイズ耐性に優れる

・機械的接点がなく寿命が長い(非接触構造)

 

【レゾルバを内蔵したブラシレスDCモーター例】

 

レゾルバは、トランスの原理を利用しており、以下の3つの端子を持ちます。

 

・励磁巻線(Excitation winding)

・検出巻線(sin巻線)

・検出巻線(cos巻線)

 

励磁巻線に交流信号を入力すると、検出巻線には回転角θに比例した正弦波(sinθ)と余弦波(cosθ)が誘起されます。この2つの信号を解析することで、シャフトの角度を算出します。

 

【シャフトの角度と励磁波、正弦波(sinθ)、余弦波(cosθ)】

 

ただし、レゾルバ出力はアナログの正弦波・余弦波(sin/cos信号)であり、そのままではデジタル制御に使えません。そこで登場するのが RDC(Resolver to Digital Converter) です。

 

RDC(Resolver to Digital Converter)とは?

RDC(Resolver to Digital Converter)は、回転角度センサーであるレゾルバ(Resolver)のアナログ信号をデジタル信号に変換する装置です。RDCは電気自動車(EV)のモーター制御など、正確な回転角度や速度の取得が求められる分野では不可欠なコンポーネントになっています。(高耐環境性・高信頼性が求められる車載用途では、ホールセンサーやエンコーダよりもレゾルバが好まれるケースが多く、そのためRDCは重要な役割を担っています。)

 

【応用例】

・サーボモーター制御

ブラシレスDCモーターの角度検出に最適で、高精度な位置検出により、正確なモーター制御を実現。

・航空機の制御システム

振動や温度変化が激しい場面でも安定した動作が可能。

・電気自動車(EV)

EV/HEVの駆動モーター制御をはじめ、電動パワーステアリング、電動ブレーキなどで、高精度な位置検出により正確なモーター制御を実現。

 

RDC内部処理の概要(信号処理の流れ)

RDCは以下の手順でアナログ信号をデジタル角度に変換します。

 

【変換処理】

1. 励磁信号生成

RDCが励磁信号を出力し、それをレゾルバに印加。

2. 信号サンプリング

レゾルバから返ってきた sin/cos信号を A/Dコンバータで高速サンプリング。

3. 信号復調

入力された sin/cos信号からキャリア周波数を除去し、純粋な振幅成分を抽出(=位置情報)。

4. 角度演算

アークタンジェント演算(atan2)を用いて角度θを計算。

5. デジタル出力

結果をSPI(Serial Peripheral Interface)などの通信を用いて出力。

 

ルネサス製 RDC 内蔵 MCU

ルネサスでは、RDC を内蔵した車載用 MCU を提供しています。

 

【主なシリーズ】

・SH72AW/AY   : モーター制御に最適化された高集積MCUで、はじめてRDCを搭載

RH850/C1x    : 車載モーター制御向けに設計されたMCU

RH850/U2Bx  : 車載モーター制御向けに設計された最新のMCU

 

 

【ルネサス RDC内蔵車載MCU 技術ロードマップ】

 

RH850/U2B6 内蔵RDC(RDC3AL

最新のルネサス車載MCUである RH850/U2B6 が内蔵する RDC3AL は、 RH850/C1xシリーズが内蔵するRDC3Aをベースに機能と性能面が強化されています。

 

【RDC3AL 機能概要】

 

RDCを内蔵したMCUの主な利点

RDCを外部ICではなくMCU内部に統合することで得られる利点は多岐にわたります。

 

利点1)基板サイズの小型化・部品点数削減

外付けのRDCチップが不要になるため、部品点数の削減とPCB設計の簡素化が可能。

電動パワートレインやインホイールモーターなど、スペースに制約のあるアプリケーションに最適。

 

利点2)コスト削減

外付けのRDCや周辺ICを削減でき、システム全体のBOMコストを低減。

 

利点3)信号のノイズ耐性向上

アナログ信号をMCU内部で処理するため、外部配線によるノイズの影響を低減。

 

【RDCを内蔵したMCUの主な利点 1】

 

利点4)低レイテンシ・高精度のリアルタイム制御

RDCと制御演算処理がMCU内部で完結するため、制御ループの応答性が向上。

フィードバックループのリアルタイム性が高く、高精度なベクトル制御に最適。

 

利点5)安全性、機能安全対応(ISO 26262)

RDC内蔵MCUでは自己診断機能や冗長設計を取り入れることが可能。

ルネサスのMCUはASIL-B〜Dレベルの機能安全要件に対応しており、車載システムの安全設計にも有利。

 

【RDCを内蔵したMCUの主な利点 2】

 

まとめ

RDCを内蔵したルネサスの車載MCUは、高精度・高信頼性のモーター制御を実現するための強力なソリューションです。

システムの小型化・低コスト化だけでなく、リアルタイム性や安全性の面でも多くの利点を提供します。

特に、車載制御の機能安全や信頼性が求められる次世代モビリティにおいて、RDC内蔵MCUの重要性は今後ますます高まると考えられます。

 

ルネサスのモーター制御ソリューション

電気自動車&ハイブリッド車(EV) | Renesas ルネサス

 

参考文献

・RH850/U2Bグループ ユーザーズマニュアル ハードウェア編(Rev.1.20 Feb. 2025)

・RH850/U2B グループ レゾルバ―デジタルコンバータ ユーザーズマニュアル ハードウェア(Rev.1.20 Feb. 2025)