• 公開日:2026年01月26日
  • | 更新日:2026年02月04日

1個のDC/DCで正負の両電源を生成?昇圧DC/DCを用いた【正負両電源生成回路】ってどうなの?

  • ライター:短絡亭過電流

こんにちは。この記事とかこの記事とかの中の人です。

あるお客様からこんな相談を頂きました。
「昇圧コンバータIC1個で
正負の両電源電圧が作れるって聞いたけど本当?

どんな回路を期待しているのかわからなかったので詳細を確認したところ、

この様にしたいとのことでした。
更に入力の3.3Vは昇降圧DC/DCの出力らしく、大本の電源は2次電池とのことでした。

2個のDC/DCを使っていたところ、回路を簡略化して回路コストを低減、さらにインダクタも減らす。と、、、
相談内容の回路は、[昇圧DC/DC] + [ディスクリートチャージポンプ回路] の方式です。

高精度の計測回路や高速回路、又はオーディオ用の回路には両電源タイプのオペアンプが、現代においても現役で活躍しており、正負の両電源構成は今尚需要があります。
正の入力電圧から負電圧を生成する方式は様々ありますが、主な方式としては、
 ・負電圧生成専用DC/DCを使う
 ・降圧DC/DCで負電圧を生成する ←いままではこれ
 ・チャージポンプ回路で負電圧を生成する ←今回のアイデアはこれ
の3つが考えられます。
どの方式もICを用いますが、今回のご相談は、「ICを減らしたい」が目的ですが、本当にこの方法で良いのでしょうか?

 

回路構成考察

    さてさて、昇圧DC/DCのICが1個、それに外付けのチャージポンプ回路を追加して負電圧を生成する。とのことですが、チャージポンプ回路もスイッチング動作で電圧を作る回路です。
    相談を受けた方式は、そのスイッチングを昇圧DC/DCの動作に相乗りさせてもらう方式ですね。

    ということで回路イメージをお絵描きしてみました。

    点線部分がチャージポンプ回路です。
    チャージポンプ回路はダイオードとコンデンサだけで作ることが可能な為、実装面積を気にしなければ安価に構成できます。
    具体的な回路構成はこちら。

    ”黒”が降圧DC/DC、”赤”がチャージポンプ回路です。
    理論的には、負電圧の出力コンデンサ[COUTn]の両端には、[VIN]と同じ電位が出てくるはずです。ただ、CP回路にはスイッチ素子が必要であり、ダイオードを用いた場合、そのVfが加算されるため、負電圧出力であれば
     VOUTn = -(VOUTp – Vf)
    となります。ダイオードがショットキー(Vf=約0.3V)で2個、VOUTp=5Vなら、VOUTn=-4.4Vくらいになります。

     

    回路動作考察

      さて、取り急ぎ特性を確認したい時に便利なものが 評価ボード ですが、残念ながら適当な昇圧DC/DCの評価ボードは手元にありませんでした。
      なので、今回は理論だけで本当に負電圧が作れるか?考察してみたいと思います。

      昇圧DC/DCは下図のように2つのスイッチ(SW1,2)とインダクタで構成されており、SW1でインダクタに電流を引き込み、SW2で出力側にインダクタに蓄積した電力を放出します。
      先ず、起動時にSW1がONしますが、この時のCCPは電荷量がほぼ0のため、Icpもほぼ0です。このため、負電圧出力(Vneg)はフローティング状態の0Vです。

      次にSW1がOFF、SW2がONの状態に遷移します。
      IdcdcはSW2を通って出力側に吐き出され、COUTpをチャージしつつ出力電圧を持ち上げます。
      IcpはCCPとD1を通ってGNDへながれますが、この時CCPの両端には Vpos – Vf(D1) の電荷がチャージされます。

      そしてまたSW1がON、SW2がOFFしますが、この時のCCPは電荷量が十分にある状態で、CCPの正極側がSW1によりGNDに接続されるため、負極側は負電圧となり、CCPがCOUTnから電荷を引き込むことで負電圧出力が成立します。

      正電圧出力は昇圧DC/DCで生成し、負電圧はスイッチング動作に相乗りで生成。昇圧DC/DCのIC1個で正負両電源回路ができることが分かりました。

      但しこれには欠点があります。

       

      この回路の欠点

        負電圧出力を成立させるには、SW1_OFFにてCCPに十分な電荷を蓄積し、SW1_ONにて電荷を保持したまま正極側をGNDに接続することで負電圧が作られます。
        逆に言えば、CCPの正極側をGNDに接続している時間が短ければ、十分な負電圧は生成できません。

        では、「CCPの正極側をGNDに接続している時間が短いケース」は何か?ですが、軽負荷時、または無負荷時です。
        負荷電流が非常に小さい場合、昇圧DC/DCはSW1のON時間を極めて小さくするため、CCPがCOUTnから引き込む電流が小さくなり、所望の電圧が得られなくなります。
        なので、安定した負電圧を得るには、常にある程度の大きさの負荷電流が必要との判断となります。

        その上、正負両方の出力電流を1個のインダクタで賄うことになり、インダクタには結構な電流が流れ込むため、電流による飽和を考慮すると、かなりの大きさのインダクタを要する回路となってしまいます。

        従って、冒頭の御客様からの質問については、負荷電流が変動する可能性があり、ダミー負荷等で電流を底上げすると損失が増える為、電池のアプリには不向きとなります。
        また、「コストダウンになり得るか?」については、個人的には難しいんじゃないか?と思います。

         

        正負2出力の両電源IC

          前述の通り、「昇圧DC/DCとチャージポンプを用いた両電源回路」には制約がありそうなことが分かりました。

          ではどうするか?

          Renesas ElectronicsISL98608を用いることをお勧めします。


          <ルネサス社 ISL98608 データシートより引用>
          内部ブロック図に記載されている通り、このICは「昇圧DC/DC回路」と「反転チャージポンプ回路」がそれぞれ独立制御されており、前述の「相乗り回路」の様に負荷電流による電圧不安定化の懸念はありません。
          更に正電圧出力においては、LDOが内蔵されているため、スイッチングリップルを低減し、「きれいな電圧」を出力することが可能です。

          <ルネサス社 ISL98608 データシートより引用>
          出力電流は100mA/200mA(型番により選択)とやや小さめですが、インダクタは1個だけ、LDO内蔵でもパッケージサイズは1.74mmx1.74mmと非常に小型で、スペースメリットがあります。


          <ルネサス社 ISL98608 データシートより引用>
          効率は±5V両電源出力で凡そ85%と高く、様々な用途で使用できます。

           

          まとめ

            負電圧を高効率且つ安定的に出力する電源回路の設計は、難易度が上がるため、専用ICに頼ることが多くありますが、一般的に負電圧専用ICは高価になることが多い印象です。
            もし電源回路にお困り事がありましたら、是非弊社エンジニアにお声がけ下さい。
            皆様の「あったらいいな」にお応えいたします!

            ルネサス製品をお探しの方は、メーカーページもぜひご覧ください。
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