• 公開日:2026年02月26日
  • | 更新日:2026年02月27日

ルネサス製RH850/U2B搭載のEMU紹介

ルネサス エレクトロニクスは、自動車向けに複数のマイコンファミリを展開しています。主なものとして、RL78ファミリ(16ビット低消費電力マイコン)と、RH850ファミリ(32ビット高性能マイコン)が挙げられます。

特にRH850ファミリは32ビットの高性能車載用MCUであり、ルネサス独自の先進プロセス技術とコアアーキテクチャを採用することで超低消費電力と高性能を両立しています。これらのMCUは高品質でAEC-Q100に準拠し、セキュリティ機能も内蔵しており、ISO26262規格に準拠した機能安全(最高ASIL-Dまで)に対応しています。

RH850ファミリはシングルコア、マルチコア、ロックステップ構成など多様なCPUコア構成を持ち、スケーラブルな製品ポートフォリオとなっています。このスケーラビリティにより、車載システムの高性能・高信頼性要件に応じて最適なMCUを選択でき、ボディ制御からパワートレイン、先進運転支援システム(ADAS)、EV/HEVまで幅広い用途をカバーします。

特にRH850ファミリは高性能と低消費電力のバランスに優れ、高速な割り込み応答や高度な機能安全・セキュリティ機能を備えており、最新の車両のE/Eアーキテクチャ変革(ゾーンアーキテクチャなど)にも対応できるプラットフォームです。

 

RH850ファミリの位置づけ

RH850ファミリ内では、多様化する車載用途に対応するために世代やシリーズごとに製品群が分かれています。2010年代の40nm世代(Gen1)ではRH850/F1xやRH850/P1xシリーズ等が存在し、現在の28nm世代 (Gen2)としてRH850/E2xやH850/U2xシリーズが展開されています。RH850/U2xシリーズは、車載ネットワークのゾーン化やドメインコントローラなど近年の新しい車載E/Eアーキテクチャに対応する設計思想で、高性能かつスケーラブルなASILD対応MCU群です。U2xシリーズには主に3つのサブシリーズがあり、それぞれ異なる性能レンジと用途に対応しています。

索引:RH850車載用MCU – 高性能車載用MCUマイクロコントローラ | Renesas ルネサス

 

■RH850/U2Aシリーズ:

汎用(高機能)ECU向けの最大4+4コアで400MHz駆動、最大16MBフラッシュ容量をもつシリーズです。パワートレインや車体制御など高い処理性能を要する汎用ECUをカバーします。

索引:RH850/U2A – ゾーン/ドメイン マイクロコントローラシリーズ | Renesas ルネサス

 

■RH850/U2Bシリーズ:

高性能ゾーン/電動化(xEV)向けの最大6+4コア構成(デュアルコア×ロックステップ×複数)で400MHz駆動、最大26MBのフラッシュ容量を持つ最上位シリーズです。車両のパワートレイン制御、EV/HEV(電動車)のインバータ制御、ゾーンECUなど高性能・広機能を必要とするECUに適します。

索引:RH850/U2B – ゾーン/ドメイン/車両制御 マイクロコントローラシリーズ | Renesas ルネサス

 

RH850/U2B6マイコンの特徴

RH850/U2B6は、上述したRH850/U2Bシリーズに属する車載用マイコン製品の一つです。U2Bシリーズの中でも中規模のFlash容量・コア数を有し、電動車(xEV)向けや高性能ゾーンECU向けに適したモデルとなっており、大きな特徴としてはモータ角度センシング用のRDC(Resolver-to-Digital Converter)の外にもモータ制御専用のアクセラレーターであるEMU(Enhanced Moter Control Unit)を搭載しています。

上記のようにRH850/U2B6は400MHz駆動の高性能CPUを持ち、複数のCPUコア(3つのメインコアと2つのロックステップ用コア)からなる5コア構成を採用しています。このマルチコア構造は高性能処理と機能安全 (デュアルコアのロックステップ動作)を両立し、ASIL-Dの安全要件を満たすために重要です。

メモリについては6MBのコードフラッシュと576KBのRAMを搭載し、大容量のオンチップメモリにより高度な制御ソフトや診断機能を単一チップで実装できます。

特に、モータ制御に特化した先進的なハードウェアIPを統合している点がRH850/U2B6の大きな特徴であり、次章以降で詳述するEMUやRDC、TSG3といった周辺IPがこれに該当します。

※通信・セキュリティ等の機能詳細については本レポートの範囲外ですが、RH850/U2B6はCAN-FDやEthernet TSN、ハードウェアセキュリティ(HSM)など最新の通信・セキュリティ機能も備えています。

 

EMU(Enhanced Motor Control Unit)の概要と特長

 

EMU (Enhanced Motor Control Unit)は、RH850/U2B6に内蔵された高度なモータ制御用ハードウェアIPです。xEV向けのモータ制御をハードウェアで支援・実現するための周辺IPです。従来、エンジンやモータ制御はマイコンのソフトウェアで実現していましたが、EMUはこれをハードウェア化することで、制御の高速化とCPU負荷軽減を図っています。

具体的に、EMUには以下のようなサブモジュール(IP)が含まれます:

 

■角度演算IP (Angle Generation IP):

レゾルバや位置センサから取得した信号に基づき、モータの回転角度や位置情報を高速に算出します。

■入力IP (Input IP):

A/Dコンバータ(AD変換器)からの電流フィードバック値を取り込み、所定のタイミングでEMU内部に取り込みます。また、

取り込んだ電流値と角度値からベクトル演算を実施してd/q軸パラメータを生成します。

■PI制御IP (PI Control IP):

モータのトルク・磁束を制御するため、d軸・q軸電流のPI制御演算を実行します。これにより、CPUソフトウェアでPI制御

ループを実行する場合と比較して高速かつ安定した応答を実現します。

■PWM出力IP (PWM Generation IP):

制御演算の結果に基づいてU相/V相/W相のPWM波形のDuty値を生成し、周辺IPのTSG(タイマアレイ)と

連携してインバータ駆動用のゲート信号を直接出力します。またデッドタイムの挿入制御なども可能です。

 

これらのサブモジュールを備えたEMUは、ハードウェアベースのモータ制御コプロセッサといえる存在です。従来はソフトで行っていた三角関数演算や電流制御ループをEMUが肩代わりすることで、制御周期の高速化(高回転モータへの追従性向上)やCPU負荷の大幅軽減が図れます。また、ハードウェア実装ゆえに演算遅延が一定であるため、リアルタイム制御の確実性・安定性が向上し、制御系のチューニングを容易にする効果もあります。さらに、計算結果に基づいてCPUを介さず直接PWM出力を制御できるため、異常時のフェイルセーフ応答(例:過電流検知時に自動で出力オフ)なども速やかに実行可能で、システムの安全性向上に寄与します。

 

 

EMU活用のメリット(RDC/ADC/TSG連携)

EMUを使用した大きなメリットは、RDC・ADC・TSGなど他の周辺モジュールと密接に連携し、システム全体のモータ制御をハードウェアで完結できる点にあります。以下に主要な連携ポイントと、その技術的メリットを解説します。

 

■RDC (Resolver to Digital Converter) との連携:

RH850/U2B6はレゾルバ用のインタフェースとしてRDCを内蔵しています。RDCはモータの回転子位置を測定するレゾルバセンサのアナログ信号をデジタル角度データに変換するハードウェアIPです。EMUはこのRDCから得られる正確な角度情報を直接受け取り、モータの回転角に同期した制御演算を行います。RDCを冗長構成(二重化)で内蔵している為、高い故障検知性能を実現します。

 

■ADC (Analog Digital Converter) との連携:

モータ電流のフィードバックは、RH850/U2B6に搭載された高性能な12ビットADCによりサンプリングされます。EMU内のInput IPは、このADCからの変換結果をユーザが指定したタイミングで読み取ります。TSG3タイマと連携して、PWMキャリア周期の谷(または山)に合わせてADCに変換トリガを出し、電流値を取得することが可能です。これにより、モータの電流制御ループに必要なタイミングでの精密なフィードバックが保証され、制御の安定性が向上します。

 

■TSG3 (Timer UNIT) との連携:

モータ制御タイマTSG3はPWMの生成やADCトリガ発生などモータ制御向けに強化されたタイマモジュールです。TSG3はEMUと直接結合されており、EMUの演算結果に基づいてハードウェアレベルでPWM信号を生成します。

 

以上のように、RH850/U2B6のEMU+RDC+ADC+TSG3によるハードウェア協調制御は、ソフトウェアのみでモータ制御を実装する場合に比べて複数のメリットをもたらします。制御ループの高速化により高精度制御を実現し、しかもCPU負荷を軽減できるため、他のタスク(例えば車両ネットワーク処理や診断)に余力を振り向けられます。また1chipに集積する事により部品点数削減・コストダウンが可能であり、信号伝送の遅延やノイズリスクも抑制できます。さらに、重要な信号や制御処理をハードウェア内で完結させることで機能安全上の信頼性も向上しています。

 

実際のモータ制御例

最後に、上記技術が実際の電動車(xEV)のモータ制御にどのように応用されるか、電動車のトラクションモータ制御を例に解説します。たとえばハイブリッド車や電気自動車では、高トルクかつ高速回転の永久磁石同期モータ(PMSM)が車輪駆動用に使われます。このPMSMを精密に制御するには、回転子の位置検出と高速な電流制御が欠かせません。RH850/U2B6は、これを1チップで実現するソリューションを提供します。

典型的なモータ制御システムでは、モータ回転子に取り付けたレゾルバから角度信号が出力され、これをRDCでデジタル角度情報に変換します。RH850/U2B6ではこのRDCが内蔵されているため、外付けICなしで高精度な角度検出が可能です。得られた回転角に基づき、EMU内の角度演算ブロックでモータの回転座標系(d軸・q軸)を算出し、モータのトルク・磁束に相当する電流値をPI制御ブロックで計算します。同時に、位相電流は電流センサ等で検出されてADCによりサンプリングされ、EMU内に取り込まれます。EMUはこれら角度情報と電流フィードバックをもとに、各位相の電圧指令値をリアルタイムに生成します。

さらにTSG3タイマが三角波キャリアに同期してPWMパルスを生成し、インバータのゲートドライバへ直接出力します。一定のキャリア位相(例:谷)でADCトリガを発生させADCに電流値を取得させます。その瞬時値をEMUが読込んで直ちにPI演算することで、毎キャリア周期ごとに電流制御ループを完結させます。これにより、モータ制御の主要部分がマイコン内部のハードウェアで自動的に実行され、高回転域でも電流・トルク制御の安定性と応答性を確保できます。

例えば電気自動車(EV)のデュアルモータ駆動システムを考えてみましょう。RH850/U2B6は高性能なマイコン1つで前後もしくは左右の2基の駆動モータを同時に制御できます。各モータに対し1系統ずつRDCでレゾルバ信号を処理し、EMUがそれぞれのモータの電流制御をリアルタイム実行、TSG3から独立したPWM波形を出力することで、2つのインバータを同期制御します。

このような単一チップ内でのデュアルモータ制御は、EVパワートレインの統合制御ユニット(VCU)やモータインバータ統合ECUにおいて、システムを簡素化しコストを抑えながら高い性能と安全性を達成する鍵となります。

図1 EMUを用いたモータ制御例

 

まとめ

以上、RH850/U2B6およびその搭載機能EMU (Event Monitoring Unit)に関する技術レポートでした。ルネサスのRH850ファミリ、特にU2B6マイコンは、その高度なモータ制御機能 (EMU+RDC+TSG) により電動車のインバータ制御やゾーンECUに最適なプラットフォームとなっています。これらの機能を活用することで、車載モータ制御システムの性能・信頼性を飛躍的に向上させることが可能です。

 

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Renesas Electronics Corporation – 半導体事業 – マクニカ (macnica.co.jp)