• 公開日:2018年09月21日
  • | 更新日:2022年11月21日
quick charge

Li-ion電池における急速充電で注意すべき方法

はじめに

高精度カメラや高解像度タッチスクリーン、高速データ通信機器のようなポータブル機器には、大容量のリチウムイオンバッテリーが使用されています。機器の高機能化が進むに伴い、バッテリー容量の大容量化は加速、それに合わせて充電時間の短縮も要求されます。

今回、リチウムイオン充電池を扱う上で、気をつけるべき急速充電の方法について述べたいと思います。

充電時間とソリューションサイズはトレードオフ?

まずバッテリーを選択するにあたって、バッテリー容量と充電時間、充電中のデバイス温度の3つの要素のバランスを取ることが重要です。
バッテリー容量と充電時間は、製品価値の要求を満足するために重要な要素になりますが、充電中のデバイス温度はユーザーの充実感を高めるものではありません。しかし、安全性とライフタイムを向上させる為に重要な項目となります。

では、充電時間の短縮を行うためにはどうしたら良いでしょうか?

それは、充電電流を増やしつつデバイスの損失を減らして筐体内温度をおさえることで実現可能です。
しかし、一般的に高効率なスイッチングチャージャー方式では電流が大きくなるほど効率が低下します。つまり、損失の増加によって熱となり、筐体内温度の上昇に繋がります。

では、高効率を実現するためにはどうすれば良いのでしょうか?
その答えは、ソリューションサイズを大きくすることで高効率を実現可能になります。例を上げると、DCRの低い大きなインダクタを使用することで高い効率を得ることができます。

充電時間短縮と省ソリューションサイズの両方を実現!?

上述の通り、充電時間とソリューションサイズはトレードオフの関係があると説明しましたが、Texas Instruments社(以降TI社)の最新のコンパニオンバッテリーチャージャーであるBQ25910は、ソリューションサイズをこれまでの半分にしつつ効率5%向上を実現するthree-level buck converterとトポロジを採用しています。これは効率とソリューションサイズに非常に大きなインパクトを与えるもので、これまでと同じ見積もり損失に対して充電電流を50%高くすることができます。

図1: (a) BQ25910を用いたthree-level降圧コンバータ回路(b) 周辺部品を含めたトータルソリューションサイズ 56mm2
(出典:Texas Instruments Inc. How to increase charging current by 50% with half the size in portable electronics)
図1に記したthree-level buck converterはデューティーサイクルの制限を持たないスイッチトキャパシタとスイッチトインダクタ回路を組み合わせたものです。VIN/2にバランスされたフライングキャップCFLYはスイッチングMOSFETの電圧ストレスを半分に減らし、VSWの実質のスイッチング周波数を二倍にし、そしてインダクタ両端に加わる時間あたりの電圧を半分に減らします。ゲートドライバの制御は2フェーズの降圧コンバータに似ています。QHSAとQLSAは逆極性の信号でD=VOUT/VINのデューティーで制御されます。QHSBとQLSBは逆極性の信号で同じデューティでドライブされますが位相は180°シフトします。

以下の図2, 3, 4はBQ25910のデータシートから抜粋した動作イメージです。three-level buck converterはこれまでの一般的な降圧コンバータでは実現することができなかった高効率を実現することができます。その理由は図2(C)にあるようにインダクタリップル電流を小さくすることによりスイッチングロスが低減されるからです。また、サイズの小さいインダクタを使用することができるようになるので、インダクタのDCRも小さくできるのでインダクタにおける損失も低減されます。

図2: (a) Three-level buck converter回路図 (b) VswとVo波形(C)デューティ比に対するインダクタリップル電流
(出典:Texas Instruments Inc. BQ25910 Datasheet)

図3: デューティ比 < 0.50 時の動作イメージ
(出典:Texas Instruments Inc. BQ25910 Datasheet)

図4: デューティ比 > 0.50 時の動作イメージ
(出典:Texas Instruments Inc. BQ25910 Datasheet)

CFLYはVIN/2にバランスされているとすると、VSWはVIN, VIN/2, GNDの3つの異なる電圧を示します。インダクタ両端の電圧が下がることは、インダクタ選定の際の重要なパラメータであるインダクタンス値を設定する為のリップル電流にも影響を及ぼします。インダクタはスイッチングレギュレータを構成する部品の中でサイズの大きな部品の一つである為、これを小さくすることはソリューションサイズの低減に大きく貢献します。これにより高さ制限がより厳しく充電電流の高い新たなアプリケーションを実現することが可能となります。さらに、インダクタのサイズを小さくすることによりロスが低減され高効率化に繋がります。

図5: (a) 1.5WのロスにおいてBQ25910は+5%の効率と+50%の充電電流を実現 (b) 半分のサイズで-8℃の温度を実現
(出典:Texas Instruments Inc. How to increase charging current by 50% with half the size in portable electronics)

フライングキャパシタはインダクタのサイズとロスを減らすのと同時に、スイッチングロスも低減し効率を大きく改善します。わずかな効率改善も充電電流を高めることに貢献します。5%の効率改善により、同じ1.5Wの損失において充電電流を2.9Aから4.35Aに上げることができます。図2はBQ25910と既存のソリューションの効率、サイズ、温度の比較です。

まとめ

ポータブル機器は日々高機能化が進んでいます。新たな機能はユーザーエクスペリエンスを実現する為に大容量バッテリーと大きなエリアを要求します。これはバッテリーチャージャーに対して、省スペースと同じ時間でより大容量のバッテリーを充電するという高い要求を求めています。効率とサイズがトレードオフであるスイッチングチャージャーはこれらを実現する新たなテクノロジを必要としています。

BQ25910は発熱の低減とソリューションサイズ低減の両方を実現します。高効率と大電流を必要とするシステムにはぜひこのイノベーティブなソリューションをご検討ください。BQ25910の評価ボードはTI社のホームページからご購入頂けます。

参考ページ

BQ25910の技術資料はこちらをご参照ください。
http://www.ti.com/product/BQ25910/technicaldocuments

How to increase charging current by 50% with half the size in portable electronics
https://e2e.ti.com/blogs_/b/powerhouse/archive/2018/02/28/how-to-increase-charging-current-50-percent

three-level buck converterトポロジの動作説明はこちらをご参照ください。
https://training.ti.com/3-level-buck-converter-how-it-works