• 公開日:2019年02月28日
  • | 更新日:2024年02月13日

オペアンプの入力バイアス電流、ちゃんとキャンセルできていますか?

はじめに

オペアンプの電気的特性の一つに入力バイアス電流という項目がありますが、このバイアス電流によって、大なり小なり出力にオフセットが発生し、それがそのまま誤差となります。特にDC精度が求められる回路(電圧、温度モニター等)ではそのオフセットが見逃せないため、入力バイアス電流をキャンセルする手法が取られるケースがあります。しかしながら、場合によってはそのキャンセル回路によってオフセットが増大してしまう可能性があります。そのような事を起こさないために、今回は入力バイアス電流をキャンセルする上で考慮すべき事について説明します。

入力バイアス電流とは?

まず、入力バイアス電流について説明します。

オペアンプが正しく動作するためには、反転端子、非反転端子それぞれに電流を流す、もしくは引き込む必要があります。この電流は入力バイアス電流、もしくは単に入力電流と呼ばれます。下図Ib1、Ib2がそれにあたります。

入力バイアス電流
図1 入力バイアス電流

入力バイアス電流値、及び極性は製品によって様々で、fAオーダーから数百nAオーダーの物まで存在します。

バイポーラプロセスのオペアンプの場合、入力バイアス電流は主に入力段のトランジスタに流れるベース電流であるため、比較的電流値が大きくなります。CMOSプロセス、J-FET入力のオペアンプの場合、入力バイアス電流は主に入力端子の保護素子に流れる電流であるため、比較的電流値が小さくなります。ただし、常温と比べて高温では電流値が大きく増加する場合が珍しくないため、高温化で使用する場合には注意が必要です。また、チョッパアンプや入力バイアス電流をキャンセルする回路が内蔵されている製品もあるため、電流値の大小をプロセスで一概に言う事はできません。

例えば、CMOSアンプであるOPA192は入力バイアス電流が±5pA(typ)、バイポーラアンプであるOPA835では+200nA(typ)です。一方で、バイポーラアンプに入力バイアス電流キャンセル回路が内蔵されているタイプのOPA277は±0.5nA(typ)まで入力バイアス電流が抑えられています。

ちなみに、Ib1、Ib2の差は入力オフセット電流と呼ばれます。

入力バイアス電流の影響

入力バイアス電流が増幅回路にどのような影響を及ぼすか説明します。

図1のように入力バイアス電流が帰還抵抗を流れる事で、出力にオフセット電圧を発生させます。そのオフセット電圧は図1の回路において以下の式で算出できます。

式1

(1)式より、入力バイアス電流が大きいほど、また帰還抵抗の並列値が大きいほど、バイアス電流により出力に表れるオフセット電圧が大きくなる事がわかります。また図1には含まれていませんが、信号源のインピーダンスも考慮する必要があります。

一般的な入力バイアス電流キャンセルの方法

以下に、一般的な入力バイアス電流キャンセルの方法をご紹介します。

図1においては、Rfに反転端子の入力バイアス電流Ib1が流れる事によりオフセット電圧が発生しておりました。これをキャンセルするために、図2のようにRf||Rsと同じ値の抵抗値を挿入する事で非反転端子にもオフセット電圧を発生させ、出力に表れるオフセット電圧をキャンセルする事が可能です。

入力バイアス電流キャンセル抵抗Rc
図2 入力バイアス電流キャンセル抵抗Rc

Ib2とRcで発生する電圧降下はノイズゲイン(1+Rf/Rs)倍されて出力に表れますので、

式2

となります。ですので、Ib1とIb2が同じ極性であれば、(1)が(2)によってキャンセルされます。(ただし、実際にはオフセット電流があるため、完全にはキャンセルされません。)

入力バイアス電流キャンセルの落とし穴

しかしながら、上記キャンセル方法は万能ではありません。

この方法は反転端子と非反転端子に同じ極性の電流が流れる事が前提として成り立っています。つまり、両入力端子に流れる電流の極性が逆である場合、出力に表れるオフセット電圧を悪化させてしまう事になります。

入力バイアス電流の極性は製品毎に異なるためデータシートを確認する必要がありますが、OPA277のよう入力オフセットキャンセル回路が内蔵されている場合、キャンセル量によっては電流の極性が逆になる場合があります。また、電流帰還型のオペアンプも反転端子、非反転端子の構造が対象でなく、電流の極性が逆の場合があります。ですので、これらのアンプの場合、上記方法で入力バイアス電流をキャンセルさせるのは得策ではありません。

例えば上でも挙げたOPA277では、バイポーラアンプとしては入力バイアス電流がおさえられているものの、極性が±となっており、サンプルによっては極性が異なる可能性がある事を示しています。

まとめ

上記のような入力バイアス電流キャンセルの手法はアンプによって向き/不向きがあるため、注意が必要です。もし回路自体が入力バイアス電流に対してシビアなのであれば、それをキャンセルするのではなく、そもそも入力バイアス電流が小さいアンプの使用をお勧めいたします。

またこの回路に限らず、今までの回路で使っていたから・・・という理由で、回路をそのまま流用するのは大変危険であり、問題を引き起こす原因となります。トラブルを未然に防ぐためにも、使用する回路は正確に理解する事が重要です。

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