• 公開日:2018年02月09日
  • | 更新日:2022年11月21日
GaN

次世代パワー半導体GaNで高効率な電源を実現!

はじめに

Si(シリコン)に変わる次世代のパワー半導体材料として、SiC(シリコンカーバイド)と共にGaN(ガリウムナイトライド)の実用化が始まっています。Texas Instruments社(以降、TI社)でも2016年にGaN FETとドライバを統合したGaN FETモジュールをリリースしています。本記事ではGaNデバイスがなぜ次世代品として期待されているのかについて紹介します。

パワー半導体における特性に関して

GaNの優位性を説明する前に、そもそもパワー半導体の性能はなにをもって良いとしているかの観点について理解する必要があります。

パワー半導体はスイッチング(ON/OFFの切り替え)をさせて動作させるデバイスであり、その際にいかに効率よく(損失を小さく)動作させられるかが重要な指標となります。スイッチングONされている期間に発生する導通損失やON/OFF切り替えをしている期間に発生するスイッチング損失の加算が熱として消費されます。(図1参照)

パワー半導体のスイッチ時の損失
図1.パワー半導体のスイッチ時の損失

つまり、低損失にするには、「導通損失」と「スイッチング損失」を低減させることが最も高い効果を生みます。

品質に関わる高破壊耐量、導通損失に影響するオン抵抗、及びスイッチング損失に関わる高速スイッチング性能はトレードオフの関係にあるため、現在主流となっているSiはこれまでに多くの改善・改良を加えて一定量の成果となり高い性能を実現しているものの、その改良進歩の限界に近づいていると言われています。

パワー半導体特性トレードオフ
図2.パワー半導体特性トレードオフ

次世代デバイスGaNってなに?

その進歩の限界を打ち破るテクノロジーとして、SiCとGaNに注目が集まっています。効率を考える際に、GaN材質はSi材質と比較してバンドギャップや破壊電界強度などの性能が大きく上がることが数値的に示されています。

Si/SiC/GaN物性値比較
表1.Si/SiC/GaN物性値比較

表1から、Siと比較して、SiC、GaNは格段に素子特性が良いとされ、その物性上優位点から低オン抵抗・高速動作・高温動作・高耐圧・小チップ化の実現が可能です。つまり、これを使用したシステムとしてはさらなる高効率・小型化・軽量化に繋がることが想定されます。

GaNの技術効果
図3.GaNの技術効果

また、SiCと比べても、GaNの方が性能指数は高いのですが、構造の違いからターゲットとされている応用例は異なります。GaNは横型構造のため、より高速動作に適しています。一方、SiCは縦型構造のため、熱伝導率も高く、大電流・大電圧用途に適しています。

SiC、GaNの構造比較
図4.SiC、GaNの構造比較

GaNデバイスを扱うために

GaNはSiと比較して、電圧変化(dV/dt)では4倍以上、電流変化(di/dt)では10倍以上の高速動作が可能です。

立ち上がり/立ち下がり時間が短ければ、その分だけ高い周波数成分が含まれます。高周波成分が含まれていれば、寄生成分の影響を受けやすくなり、サージやリンギングが発生しやすくなってしまいます。ですので、GaNデバイスを扱う場合は可能な限り寄生インダクタンスを小さくする回路を設計上考慮する必要があります。

立ち上がり波形比較(Si vs. GaN)
図5.立ち上がり波形比較(Si vs. GaN)

一概に寄生インダクタンスを小さくするとはいっても、物理的に配線を施すだけでも寄生インダクタンスは生まれてしまいます。1mm幅の配線を1mm引いただけで、1nHの寄生インダクタンスとなります。

GaNデバイスを動作させるには、図6のようにソース・ドレイン間の電源ループとゲート・ドレイン間のドライバループが存在します。電源ループとドライバループの総インダクタンスを最小化する必要がありますが、部品を組み合わせて回路を組む際、部品間の距離はパッケージにより制約を受けてしまい、仮にパッケージを直近に並べたとしてもインダクタンス最小化効果はそれほど高くありません。

寄生インダクタンスの概略図
図6.寄生インダクタンスの概略図

TI社ではGaN-FETとドライバICを一体化したGaN-FETモジュール「LMG5200」を製品化しています。モジュールではゲート・ドレイン間のドライバループのインダクタンスは内部で最適化されているため、寄生インダクタンスについてユーザーが考慮する必要性を最小限でとどめられています。

おわりに

GaNデバイスは、長年使用されてきたSiデバイスの性能の壁”シリコンの限界”を突破できる製品です。電源の高効率・小型軽量化には必要な次世代デバイスと言えるでしょう。GaNデバイスはまだ歴史が浅く、スタートに立ったばかりの技術です。それを使いこなす方法や、製品の普及にはまだ時間がかかるかもしれません。

TI社は長年にわたる製造技術や専門知識をベースにGaN FETモジュールを開発し、提供を開始しました。これによりGaNデバイスをより利用しやすい環境が整いつつあります。電源の高効率化、小型軽量化に向けてGaN FETモジュールを検討してみてはいかがでしょうか。

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