- 公開日:2019年09月02日
- | 更新日:2022年11月30日
正しい電源を選定するポイント リニアレギュレータvsスイッチングレギュレータ
- ライター:sasaki
- 電源
電源を入れる、電源を切るなど、身近なところ(家電やスマートフォン等)でも「電源」という言葉を耳にする機会は多くあります。ここでは、電気を動力源とするものにとって必要不可欠な電源の基礎知識について解説し、回路設計における電源の選び方についてお伝えします。
「電源って何?」という電源回路初心者の方にもわかりやすく説明していきます。
電源とは
電源とは、文字通り、電力を供給するみなもとであり、電気の力で動くものにとってなくてはならないものです。
身近なところでは、コンセントや電池がイメージしやすいかと思います。コンセントにアダプタを挿したり、電池を入れたりすることで、電気・電子機器を動かすことができます。コンセントや電池が、機器が動くために必要な電力を供給しているのです。
これで電源の話が終わるかというと、そうではありません。電気・電子機器の中には、さまざまな電子デバイス(IC)が存在し、それらが動作することで機能を実現しています。また、これらデバイスが動作するためにも、デバイス用の電源が必要になり、基本的にデバイスごとに決められた電圧範囲で、DC(直流)電圧を印加しなくてはなりません。
コンセントはAC電圧なので、DC一定電圧に変換をして電子デバイスに供給する必要があります。電池はDC電圧ですが、使用するにつれて電圧が低下してしまうので、常に一定の電圧になるように変換してあげることが必要になります。
図. 1 電圧変換の必要性
この電圧の変換のために、AC-DCコンバータ(交流を直流に変換)、DC-DCコンバータ(直流を直流に変換)が使用されます。
そして、これら電圧変換回路を構成するうえで、一般的に電圧変換用の電源ICが使用されるのです。
電圧変換回路の種類 | 概要 | 使用例 |
---|---|---|
AC-DCコンバータ | AC(交流)からDC(直流)に変換 | ACアダプタ |
DC-DCコンバータ | DC(直流)からDC(直流)に変換 | DC電圧レベルの変換 |
表1. 電圧変換回路の種類
電源ICのDC-DCコンバータには、リニアレギュレータとスイッチングレギュレータがある
ここからは電源ICの中でも、種類が多く広く使用されるDC-DCコンバータについて説明していきます。
DC-DCコンバータ用の電源ICの種類は、大きく分けてリニアレギュレータとスイッチングレギュレータの2種類です。
(1) リニアレギュレータ
入力電圧より低い出力電圧を作る、降圧動作のみが可能
(2) スイッチングレギュレータ
下記のようにさまざまな電圧変換が可能
・入力電圧より低い出力電圧を作る、降圧動作
・入力電圧より高い出力電圧を作る、昇圧動作
・入力電圧の高い、低いに関わらず、一定の出力電圧を作る、昇降圧動作
・正電圧から負電圧を作る、反転動作
リニアレギュレータは細かく分けると、シリーズレギュレータ、シャントレギュレータと分類され、シリーズレギュレータは、三端子レギュレータ、LDOという形で分類されます。三端子レギュレータはシリーズレギュレータの代表的なデバイスで、入力、出力、GNDの三端子でデバイスが構成されていることからこのように呼ばれています。ただ、現在では、LDOの方が広く使われています。
シャントレギュレータは、精度の良い基準電圧を生成する場合に多用されます。
リニアレギュレータもスイッチングレギュレータも、DCからDCに変換するDC-DCコンバータです。しかし、現在では、リニアレギュレータのことをLDO、スイッチングレギュレータのことをDC-DCコンバータ、もしくはDCDC(デコデコ)と呼ぶケースも多いです。
図2. 電源ICの種類
リニアレギュレータ vs スイッチングレギュレータ
それぞれのメリット、デメリット
では、リニアレギュレータとスイッチングレギュレータとではどのような違いがあるのかを見ていきましょう。
リニアレギュレータ | スイッチングレギュレータ | |
---|---|---|
変換動作 | 降圧 | 降圧、昇圧、昇降圧、反転 |
変換効率 | Vout/Vinで決まる (一般的には低い) |
~95%程度 (一般的には高い) |
発熱 | 大 | 小 |
大電流対応 | 厳しい | 可能 |
ノイズ | 小 | 大 |
設計 | 簡単 | 複雑 |
外付け部品 | 少ない | 多い |
回路規模、面積 | 小さい | 大きい |
コスト | 安価 | 高価 |
表 2. リニアレギュレータとスイッチングレギュレータの比較
・変換動作
下記図3が、リニアレギュレータの代表例であるLDOと、変換動作ごとのスイッチングレギュレータの簡易回路になります。
LDOは、図 3-(a)のように、負荷に対して直列に可変抵抗を配置し、負荷と可変抵抗による抵抗分圧回路で、出力に一定電圧を生成する形になります。そのため、入力電圧より低い電圧を作る、降圧動作しかできません。
対して、スイッチングレギュレータは、図3-(b)~(e)のように、その名の通りスイッチを使用し、スイッチのON/OFF動作とインダクタを組み合わせた回路構成により、降圧のみならず昇圧、昇降圧、反転と変換が自在に行えます。
図3. リニアレギュレータ & スイッチングレギュレータの簡易回路
・変換効率
上記にも記載したように、LDOでは分圧回路で電圧を生成します。そのため、可変抵抗部分で、負荷電流×抵抗値の電圧ドロップが発生し、その分のエネルギーが可変抵抗で熱として消費されることになります。出力に対して余剰なエネルギーを熱として消費し、捨てる形になるため、エネルギー損失が大きくなり、効率が悪くなります。
一方、スイッチングレギュレータは、インダクタにエネルギーを蓄える動作を活用し、エネルギーを無駄に捨てるということをせず、エネルギー損失が小さくなるため、より高効率になります。ただし、スイッチングレギュレータの効率は、負荷電流の大小で大きく変わり、負荷電流が小さくなるほど効率が悪くなります。そのため、使用条件次第では効率の逆転が起こる可能性もあります。
・発熱
LDOの発熱は、可変抵抗部分での電力消費によって発生します。そして、この可変抵抗部分が一般的にデバイスの内部回路となります。そのため、入出力電圧の電位差、負荷電流の大きさが、そのまま発熱に影響します。入出力電位差が大きいほど、また負荷電流が大きいほど発熱は大きくなります。
スイッチングレギュレータは、スイッチング動作によって発生する損失と、インダクタに電流が流れることでの損失が主な回路損失となり、損失レベルとしては小さくて済みます。また、一般的スイッチングレギュレータデバイスは、スイッチ部分がデバイスの内部で、それ以外はデバイスの外部回路となるため、デバイスの発熱に起因するのはスイッチング動作による損失です。
図4. LDO & スイッチングレギュレータの発熱
・大電流対応
発熱に関係するところですが、LDOでは負荷電流の大きさが、そのままデバイスの発熱に影響します。
例えば、5Vinから3.3Voutを生成する回路で、負荷電流1Aの場合、
Ploss=(5V-3.3V)×1A=1.7W
となり、LDOのデバイスで、1.7Wが熱として消費されることになります。
放熱処理にもよりますが、かなり大きい値です。もし負荷電流が10Aとなると、17Wの消費になります。デバイスとして、とても耐えきれる発熱ではありません。このように、LDOでは発熱の制約があることから、大電流対応が難しく、大電流が要求される場合には、スイッチングレギュレータが選択されます。
・ノイズ
LDOは、抵抗分圧のような動作となるため、出力電圧は比較的ノイズが少なく、直線的な電圧波形となります。
対して、スイッチングレギュレータは、スイッチング動作によって出力電圧の上げ下げを行うことで、平均電圧を一定に保とうとする動きをします。そのため、出力電圧波形は、上げ下げの動作によって生じるギザギザのリップル電圧、スイッチング動作によって生じるスイッチングノイズを持った波形となります。このスイッチングノイズは、放射ノイズとして、周辺の回路へ影響を及ぼすこともあります。
図5. LDOとスイッチングレギュレータの出力電圧波形
・設計
LDOでは単純な抵抗分圧のような動作となるのに対し、スイッチングレギュレータはスイッチングの動作で出力電圧を一定に保とうとする動作になるため、回路の動きが複雑になります。また、インダクタやダイオード等、外付けの部品も増え、部品選定にも気を付ける必要があるため、リニアレギュレータに比べスイッチングレギュレータ回路設計の方が複雑になります。
・外付け部品
図3の回路構成を見るとわかるように、LDOでの必須となる外付け部品は、入出力のコンデンサのみとなりますが、スイッチングレギュレータでは、インダクタやダイオード、デバイスによってはスイッチ(FET)が外付けに必要となるため、部品点数が多くなってしまいます。
・回路規模、面積
デバイスサイズもありますが、基本的にはスイッチングレギュレータの方が多くの外付け部品が必要なため、回路規模、面積が大きくなります。リニアレギュレータの方がシンプルで小型の回路を形成できます。
・コスト、価格
一般的にスイッチングレギュレータの方がデバイスの設計も複雑です。デバイスコストも高くなり、外付けの部品も多くなることから、回路としては高価になります。
まとめ ~効率的な電源デバイスの選び方~
これまで電源デバイスの種類の話、それぞれの特徴を比較してきましたが、最後にまとめとして、どのようなケースでどのデバイスを選択するのかについて解説します。
まずは使用条件を考えます。何Vから何Vを作り、負荷電流としては何A必要なのかという点です。
ここで、昇圧、昇降圧や反転が必要となるならば、スイッチングレギュレータを選択することになります。
また、電源回路の出力につながる負荷の要求も考慮しましょう。クロックデバイスやADコンバータなど、ノイズの影響を受けやすいものだと、LDOでの電源供給が要求されているものもあります。
降圧の使用条件であれば、LDO、スイッチングレギュレータのどちらでも可となります。その場合、使用条件においてLDOが発熱に耐えられるのか考えましょう。デバイス、放熱設計、周囲温度などによっても変わりますが、おおむね1W程度以上の消費があるとLDOでは厳しくなってくるでしょう。(負荷電流が2Aクラスを超えてくるようであれば、ほとんどスイッチングレギュレータが選択されることになるはずです。)
どちらでもOKとなる場合には、優先事項(効率、実装面積、コストなど)から選択しましょう。
図6. 電源IC選定フロー
なお、インダクタ内蔵降圧DCDCパワーモジュール製品などのご用意もあります。代表製品としてTPSM5601R5Hの音声付き紹介資料をご参照ください。
製品特長としては、以下となります。
TPSM5601R5H
-
- 入力電圧:4.2V-60V
- 出力電圧:1V-16V
- 出力電流:最大1.5A
TPSM41625
- 入力電圧:4V-16V
- 出力電圧:0.6V-7.1V
- 出力電流:最大25A (2個使用で最大50A)
TPSM82480
- 入力電圧:2.4V-5.5V
- 出力電圧:0.6V-5.5V
- 出力電流:最大6A
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