- 公開日:2019年12月13日
- | 更新日:2024年03月28日
USB Type-Cに置き換える方法 第1話 Type-Cの原理を知る
- ライター:Yaita
- インターフェース
ノートパソコンやタブレット、スマートフォンを中心に、USB Type-C搭載の機器を目にすることが多くなりました。表裏関係無く接続できるコネクターと、リバーシブルに接続できるケーブルによって、利便性が向上したと感じられている方も多いかと思います。USB Type-Cを機器に搭載するメリットは他の記事にお任せするとして、ここでは実際に現行のUSBコネクターをUSB Type-Cに置き換えるための方法を連載でご紹介します。
本記事は第1話概要編となり、置き換えるためにまず知っていただきたいType-Cの原理について、重要なポイントを説明します。実際に置き換えるための設計方法については、今後の実践編で掲載していきます。
概要編 USB Type-Cに置き換える方法 第1話 Type-Cの原理を知る
実践編 USB Type-Cに置き換える方法 第2話 USB2.0の場合
実践編 USB Type-Cに置き換える方法 第3話 USB3.1の場合
実践編 USB Type-Cに置き換える方法 第4話 USB2.0 OTG (USB On-The-Go)の場合
※USB Type-CはUSB Power Delivery(USB PD)という新しい規格をサポートしていますが、この連載ではUSB PDに対応する必要が無い機器を取り上げます。USB PDに対応する必要がある場合は、「USB Power Deliveryとは」の連載記事をご覧ください。
概要編 USB Power Deliveryとは
実践編 USB Power Delivery TPS65987D 製品紹介
実践編 USB Power Delivery TPS65987D EVM紹介
USB Type-Cの機能はどのように実現しているの?
USB Type-Cをどのように実現しているかを、以下のポイントに着目してその原理を説明します。
- どのようにUSBホスト/デバイスを区別しているの?
- なぜ上下反転接続が可能?
- どのようにE-Markedケーブル、アクティブケーブルへ電源供給しているの?
事前準備として、ここではType-C ポートコントローラーとConfiguration Channel(CC)について少し補足します。
USB Type-C ポートコントローラーとは
USB Type-Cポートコントローラーは、 USB Type-Cコネクターを搭載するために必要な、制御用ICのことです。
USB Type-Cの上下反転接続や、リバーシブル接続可能なケーブルの実現、0.5~3.0Aの範囲で供給電流を管理など、これらの機能の対応に必要となるデバイスがUSB Type-Cポートコントローラーです。後述するUSB Type-Cの肝となるCCピンを制御、検出することで実現しています。
図1. USB Type-Cシステムブロック図
Configuration Channel(CC)とは
Configuration Channel(CC)は、USB Type-Cコネクター/ケーブルに新たに追加されたピンの名称で、USB Type-Cを実現するために必須な制御ピンです。CCピンはケーブルプラグ側オスコネクターと機器側メスコネクターの両方にあります。オス側にはCCピンが1つ用意され、メス側にはCC1/CC2と2つのピンが用意されています。
図2. 正面からみたUSB Type-Cケーブル・コネクターの写真とピン配置図
どのようにUSBホスト/デバイスを区別しているの?
従来のUSBケーブルは両端が別の形状となっており、どちらの機器がUSBホスト/デバイスなのかは一目瞭然でした。 一方USB Type-C搭載の機器はコネクター形状がUSBホストでもUSBデバイスでも同じため、USBホスト同士、USBデバイス同士がUSB Type-Cケーブルを介して接続される事が物理的にありえる事になります。
図3. 左:USB2.0 USB(A)-USB(B)ケーブル、右:USB Type-Cケーブル
USB規格では、USBホスト機器が必ず電力(VBUS)をソース、USBデバイス機器が電力をシンクするという関係が必須(注:USB Power Deliveryを除く)なため、 USB Type-CでもUSBホストはUSBデバイスと接続された時だけ電力をソースする仕組みが必要です。
ではUSB Type-CではどのようにUSBホスト/デバイスの区別をするのかというと、先ほど紹介したCCピンの、プルアップ/プルダウンで判別しています。
USB Type-C規格ではUSBホストはCCピンを抵抗値Rpでプルアップ、USBデバイスはCCピンを抵抗値Rdでプルダウンする必要があり、USBホストは接続相手がRdでプルダウンされていれば電力をソースするという仕組みになっています。仮にUSBホスト同士、USBデバイス同士が接続された場合は、VBUSをソースすることはなく通信もできません。
下図はUSBホストとUSBデバイスがUSBケーブルで接続されている例です。
図4. USBホストとUSBデバイスが接続された場合
ここまでの説明で、従来からのUSB OTGという“USBデバイスどうしを繋ぐ”規格が思い浮かぶ方もいらっしゃると思います。USB Type-Cで従来のOTGを実現するための方法は以下の記事で今後ご紹介します。
USB Type-Cに置き換える方法 第4話 USB2.0 OTG (USB On-The-Go)の場合
また、USB Type-CではUSBホストは供給できる電流を相手先のUSBデバイスに通知(Advertise)する事ができる仕様になっています。
具体的には、USBホストはCCピンをRpでプルアップしていますが、その抵抗値によって供給できる電流値を決めています。(Rpが電流ソースの場合は電流値となります。)これにより、USBデバイスは接続されたUSBホストがどの程度電流を流せるかを知る事が可能になります。本機能を使用するためにはUSBデバイスが接続相手のUSBホストのRpの値を検出できる必要があります。以下はUSBホスト機器のRp(プルアップ) とUSBデバイス機器のRd(プルダウン)の要件を記載しています。
DFP Advertisement | 1.7-5.5Vに対する電流ソース | 4.75-5.5Vへのプルアップ抵抗値 | 3.3V±5%へのプルアップ抵抗値 |
---|---|---|---|
初期値 (Default USB Power) |
80μA ± 20% | 56kΩ ± 20% | 36kΩ ± 20% |
1.5A @ 5V | 180μA ± 8% | 22kΩ ± 5% | 12kΩ ± 5% |
3.0A @ 5V | 330μA ± 8% | 10kΩ ± 5% | 4.7kΩ ± 5% |
Rp:ソースCCプルアップ抵抗
Rd 実現方法 | 推奨値 | 電力供給能力検出可否 | 最大電圧(ピン) |
---|---|---|---|
± 20%電圧クランプ | 1.1V | 不可 | 1.32V |
± 20%抵抗によるグランドへのプルダウン | 5.1kΩ | 不可 | 2.18V |
± 10%抵抗によるグランドへのプルダウン | 5.1kΩ | 可能 | 2.04V |
Rd:シンクCCプルダウン抵抗
図5. RpとRdの抵抗値要件
なぜ上下反転接続が可能?
USB Type-Cコネクターは、図6の通り形状とピン配置が点対称なため上下反転が可能というのは、ご想像いただけるかと思います。以下では機器側での処理について解説します。
Type-Cコネクターのピン数は24ピンと従来のコネクターから大幅に増えています。USBデータ線(USB2.0のD+/D-, USB3.1のTX/RX)はそれぞれ2ペアになりました。USB2.0のD+/D-は機器側でコネクター上下の同じ信号を短絡(※スタブ接続)することが可能ですが、USB3.1のTX/RXはコネクター上下の信号を短絡する事はできず、2:1のマルチプレクサが必要になります。その理由は、USB3.1は高速信号であるために信号品質を考慮しマルチプレクサの使用が推奨されているためです。※注:スタブ長は極力短くする必要があります。
図6. 正面からみたUSB Type-C機器側メスコネクターのピン配置図
つまり、USB3.1の信号ラインであるTX1/RX1のペアと、TX2/RX2の2ペアから1ペアをマルチプレクサで選択する必要があります。ここでCCピンの登場です。メスコネクターのCC1/CC2のどちらがケーブルプラグ側オスコネクターのCCピンと接続されるかを検出することで、USB3.1の信号ラインのどちらのペアを使用するべきかが決まるわけです。
下の図は、実際に接続された時のイメージ図です。
この例では、オスコネクターとメスコネクターがどちらも上を向いています。この場合、CCピンはCC1と接続されましたので、TX1/RX1を使用することになります。片方が上下反転する場合、例えばオスコネクターが上下反転した場合は、 CCピンはCC2と接続されましたので、TX2/RX2を使用することになります。
図7. オス/メスコネクターのどちらも上を向けて接続
図8. オスコネクターを上下反転、メスコネクターは上を向けて接続
どのようにE-Markedケーブル、アクティブケーブルへ電源供給しているの?
USB3.1のアプリケーション、またUSB2.0の場合でも3Aを超える(5A)定格のケーブルは、E-Markedケーブルであることが求められています。では、それらのケーブルにどのように電源供給をするのでしょうか。
ケーブル側オスコネクターにCCと対をなすVCONNというピンがあります。VCONNはE-Markedケーブルやアクティブケーブルに埋め込まれているチップへの電源供給用のピンです。
図9. オス/メスコネクターのどちらも上を向けて接続
なお、機器側のCC1、CC2は、どちらかがケーブルプラグのCC、もう一方がVCONNに接続されるので、ホスト機器側はCC1とCC2どちらからもVCONNを供給できるよう切り替えられる必要があります。(図.10)
図10. CC1,CC2のソースファンクションモデル
出典:https://www.usb.org / USB Type-Cスペックから抜粋
ホストとデバイスがE-Markedケーブルを介して接続された図4を例にすると、ホスト側はCC1ピンで、「ホスト(Rp)-デバイス(Rd)の接続」検出後にVBUSピンからデバイス側へ5V給電を行いますが、もう一方のCC2ピン(ケーブル側はVCONNピン)で抵抗値Ra(800~1.2kΩ)のプルダウンを検出すると、ホスト機器がCC2ピンからケーブルのVCONNピンに対して3.0~5.5Vを供給します。(図4では、図10に記載されているVCONNスイッチは省略されています。)
※USB3.1、またUSB2.0でも3Aを超える(5A)定格のケーブルはE-Markedケーブルであることが求められています。
まとめ
ここでは、USB Type-Cコネクター/ケーブルで新たに追加されたCC(Configuration Channel)がどのような役割を持つかを中心に説明しました。USB Type-Cポートコントローラーの主な役割は、ここまでお話したUSB Type-Cの肝となるCCラインをUSB Type-Cスペックに則り制御、検出する事に他なりません。USB Type-Cポートコントローラーの主な機能を以下にまとめます。
- ホスト機器の場合は、CCをRpプルアップ(Rp値で供給電力を通知)、デバイス機器の場合は、CCをRdプルダウン、ホストにもデバイスにもなれる機器の場合は、RpとRdでトグルする。(ホストにもデバイスにもなれる機器については、第4話で紹介します。)
- ホスト機器の場合は、デバイス機器と接続された時に電力をソースする
- ホスト機器の場合は、E-markedケーブルやアクティブケーブルが接続された時にVCONNをソースする
- デバイス機器の場合は、ホスト機器と接続された時にホスト機器の電流容量を検出する
- USB3.1システムの場合は、ケーブルの上下反転を検出しマルチプレクサを切り替える
TI社製品TUSB320LAI/HAIの紹介動画もございます。USB Type-C規格について簡単に触れつつ、機能について説明もしております。
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いよいよ実践編へ
本記事では、現状のUSBコネクターをUSB Type-Cへ置き換えるために必要となるUSB Type-Cポートコントローラーの役割を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。次は実践編となり、Texas Instruments製のUSB Type-Cポートコントローラーを用いて、USB2.0システムの場合とUSB3.1システムの場合でどのように設計すれば良いかを紹介していきます。