• 公開日:2019年11月25日
  • | 更新日:2024年04月25日
充電池

電池と充電制御の基礎知識&バッテリー搭載機器設計者向け解説

PCやスマートフォンをはじめ、さまざまな機器に電池が内蔵されています。最近ではスマートウォッチや電子タバコ、産業機器など電池を内蔵したアプリケーションが増えてきています。そこで、今回は既存製品や新製品に電池を内蔵していく場面で欠かせない、充電制御ICの役割や電池の基礎知識について紹介します。

電池の種類(一次電池と二次電池、バッテリーに関する用語解説)

1.一次電池と二次電池

電池(化学電池) は2種に大別されます。一つは使い切りタイプの一次電池(primary battery)、もう一つは充電すれば繰り返し使用できる二次電池(secondary battery)です。一次電池は入手が容易、世界中でサイズが同一、同質の特性が得られ、充電しなくてもすぐ使える点が特徴です。二次電池は一部を除きサイズに規格がなく、寸法はさまざまです。そして、大電流用途に利用でき、経済性にも優れている点から機器に搭載される比率が非常に高くなっています。

以下に大まかな電池の種類の分類わけを記載します。

図.1電池の種類

図1 電池の種類

このように、一次電池や二次電池は様式や構成材料により中分類され、さらに個別の電池へと分けられます。これらは、それぞれ他の電池にはない特性をそれぞれ持っており、独自の特長を生かして使い分けされています。

2. 電池に関する用語

電池は正極と負極、電解液、セパレータという基本要素から構成されています。その性能は材料自身の特性と電極構成や構造、材質の点から成り立っています。電池は正極(酸化剤)、負極(還元剤)の間で起こる化学反応を電気として外部に取り出すものであり、正極と負極が決まれば電圧や容量、エネルギー密度は反応式に基づいて理論的に計算できます。

ここで電池に関する用語をいくつかご紹介します。

(1)電池電圧

正極と負極の材料により原理的に定まり、正極の電位から負極の電位を差し引いたものが電池の電圧(起電力)となります。リチウムのように水と反応する材料では、有機溶媒の電解液を使うため、分解電圧の幅が広がり、起電力を大きくできます。

(2)出力電流

電流の大きさは電池材料自身の特性や電極構成、電池構造に依存します。電流の定義は単位時間当たりの物質の移動量であり、この量の大小は以下の過程の抵抗が関与しています。

  1. 電極や端子などの電気抵抗による抵抗損失
  2. 電極表面で反応物質が電子を授受する際の抵抗
  3. 電解液中の反応物質が電極に接近し、2の電子の受け渡しの後、電極の沖合に移動する際の抵抗

(3)容量

容量は電気容量とも呼ばれ、充放電により反応した電極材料の量を示したものです。一般には放電容量を示します。二次電池では、状況により充電容量を指すこともあります。容量の単位は“Ah”で表示されます。例えばある電池が500mAhと表記されている場合、電流500mAを引き続けた場合、1時間で放電できるという計算となります。

二次電池では0.2Cや2CmAといった表現をする場合があります。これは放電電流の大きさを示し、Cはcapacityを意味しています。500mAhの電池を0.2Cで放電する場合、0.2×500mA=100mA放電という計算になります。昨今ではCの代わりにItを使うことが多くなっています。

(4)保存性

二次電池の保存性に関する用語に自然放電と容量回復性という言葉があります。自己放電は蓄えられている電気の量が、時間の経過とともに徐々に減少する現象を言い、内部の自発的な反応にひもづいています。容量回復性は、充電や放電状態にある電池を特定条件下で保存した後で充放電を行ったとき、初期容量に比べ容量がどの程度まで戻るかというもので材料の劣化等にひもづいています。

(5)サイクル寿命

一般的に充電→放電を1サイクルとする「サイクル回数」を用いて表され、電流の大きさや充放電深度などの使用条件によって大きく変化します。二次電池を長い期間使っていると、だんだん使える容量が減ってきて性能が低下します。このため、使用できる充放電の回数が多いほど二次電池としての性能が優れていると言えます。

(6)電池の接続構成

電池は直列や並列接続が可能です。接続例を以下に記載します。

充電時や放電時、電池種によっては各セルの状態を管理し、バランスをとりつつ使用することが必要なものもあります。

3. 具体的な二次電池の例

  • Ni-MH電池

ニッケル水素蓄電池(Nickel-Metal Hydride Battery)、略称Ni-MH電池は、エネルギー密度が高く、コストパフォーマンスに優れ、使用材料が環境にやさしいなど多くの特徴を持つ電池です。特徴としては、下記が挙げられます。

  • 高容量・高エネルギー密度
  • 優れた廃レート特性
  • 高い環境適合性
  • 対漏液性
  • 優れたサイクル寿命

ニッケル水素蓄電池の充電特性として、充電時の電池電圧が充電電流増大に伴い高くなる点が挙げられます。対応している充電方法としては、定電流充電方式、準定電流充電方式、トリクル充電、急速充電方法としては温度微分検出による充電方式、温度制御(TCO)方式、-ΔV検出急速充電方式などが挙げられます。

  • Li-ion電池

リチウムイオン電池(lithium-ion rechargeable battery)は、化学的な反応(酸化・還元反応)を利用して電力を生み出しています。正極と負極の間でリチウムイオンが行き来し充電と放電が可能で、繰り返し使用することができます。

特徴としては下記が挙げられます。

  • セルあたり3.7V程度と高電圧(図3参照)
  • 高エネルギー密度で小型、軽量化が図れる (図4参照)
  • 自己放電が少ない
  • 幅広い温度領域で使用可能
  • 長寿命で高信頼性

高電圧

図2 高電圧

リチウムイオン電池の一般的な充電方法は定電流・定電圧充電方式(CC-CV充電)となります。電流値は品種によって異なりますが、精度要求は低いです。一方、充電電圧値は非常に重要となり、高精度が要求されます。内部に使用している組成に左右されるところはありますが、4.2Vが一般的な充電電圧となります。定電圧充電時に減衰する電流値を検出して充電を終了するのが一般的であり、通常はIt/20~It/50の値が使用されます(200mAhの場合、It/20は10mAhとなります)。リチウムイオン電池のエネルギー密度等の特性的なメリットは、Ni-MHを上回るものがあります。また、小型化や軽量化が実現可能です。

その半面、充電回路を設計する上で注意すべき点もあります。

Li-ion電池の特徴と注意点

リチウムは非常に活性な金属で、水と激しく反応し燃えます。また電解液も有機溶媒ですので容易に燃焼します。このため、リチウムイオン蓄電池は、Ni-MHに比べて、過充電やセルの衝撃で発熱したときに発火・発煙する可能性が高いです。リチウムイオン電池は大きなエネルギーを内蔵しており、一気に放出されることで事故につながることがあります。そこで一般的な電池パックとしてはリチウムイオン電池を使う場合、電池が危険な状態にならないよう、過充電や過電流、過放電を防ぐ安全保護回路が必須となっています。

以下に設計上の注意点等をご紹介します。

(1)保護回路

リチウムイオン蓄電池パックには誤使用時や故障時の際にも安全性を確保するため、保護回路が設けられています。保護回路については後述しております。

保護回路は以下の機能を持っており、電池が電気的に異常状態になるのを防止しています。

  • 過充電保護:高電圧充電の防止
  • 過放電保護:過放電による性能低下の防止
  • 過電流保護:外部短絡時の過電流の防止

上記の保護回路がリチウムイオン電池パック側へ実装されている場合はいいのですが、保護のない電池を使用するようなアプリケーションでは、温度監視を含め各種保護機能をアプリケーション側で用意する必要があります。

(2)安全性試験

リチウムイオン蓄電池は安全性を確保するために種々の安全性試験を実施しています。代表的な試験としてはJISやIEC、ULなどが挙げられます。これらの試験は市場で起こりうる電気的、機械的、環境的なストレスを想定したものです。

(3)輸送上の注意

リチウムイオン蓄電池は可燃物を含有しているため、大容量電池や使用本数の多い電池パックを輸送する場合に規制を受けることがあります。詳細に関しては電池メーカーおよび電池工業会からの発行物をご確認ください。

充電制御ICとは?

二次電池の設計に欠かせない充電制御IC(バッテリー・チャージャーIC)とは、簡単に言うと、二次電池を充電する道具です。充電制御ICは大きく下記のようなことを行っています。

  • 充電電流・電圧の制御
  • 異常状態の保護
  • 各パラメータの監視
  • ホストとの通信

充電制御ICは電圧、電流、温度の3要素を監視しながら充電制御を行っており、安全かつ二次電池の寿命を延ばす等の観点で制御を行っています。充電制御ICの回路構造簡易ブロック図は下記のようなイメージとなります。主に制御素子、電流監視、電圧監視、温度監視、安全タイマーのブロックで構成されています。

図3 充電制御簡易ICブロック図

一般的な充電制御の動きとしては下図のように動作します。

簡易充電制御動作

図4 充電制御の動き

充電開始から予備充電、CC充電、CV充電と呼ばれる過程で電池を充電していきます。充電制御ICは、(1)の領域では電池電圧が設定された電圧に達するまで充電電流を一定にするよう動作し、(2)の電池電圧が設定電圧に達した後の領域では電池に加える電圧を一定にするよう動作します。

充電制御ICの種類

降圧タイプの充電制御ICの場合、主に下記のような種類に分かれています。主にLDOタイプの降圧を行うリニアチャージャーとDCDCタイプの降圧を行うスイッチング(SW)チャージャーに大別され、さらにPower Pathと呼ばれる機能の有無で種類が分かれます。リニアタイプの充電制御ICは回路構成がシンプルで安価であるメリットを持つ半面、ロスが大きく大電流を流せません。スイッチングタイプの充電制御ICはロスが小さく大電流を流すことができるメリットを持つ半面、外付け部品がリニアタイプに比べ多くなり、スイッチングに伴うノイズのケアが必要となります。

充電制御ICの種類

図5 充電制御ICの種類

充電制御ICの選び方、選定に必要なパラメータ

充電制御ICを選択する上で必要となるパラメータや機能には主に下記のようなものが挙げられます。

確認事項 選定内容
二次電池の種類(Battery Chemistry) 電池の材料種
(リチウムイオン電池〔Li-Ion / Li-Poly〕、ニッケル水素電池(Ni-MH)、etc
セル構成 何直列、何並列の構成
システム要件
  • 充電電圧 / 充電電流
  • 入力電圧範囲 / 入力電流制限値
  • 充電制御種
  • リニアタイプ、またはスイッチングタイプ
制御管理方法
  • スタンドアローンタイプ
    • 抵抗やコンデンサを設置すること事で各種設定をICの端子設定内で完結できるタイプ
  • ホストコントロールタイプ
    • ホストとなるマイコンやプロセッサーにてI2CやSMBUS経由で各種設定を行うタイプ
温度制御方式 JEITAに準拠した温度制御方法等
各種機能の有無
  • Power Path Management (PPM)
  • Dynamic Power Path Management (DPM)
  • USB OTG
  • ステータスフィードバック表示ピン
充電サイクル
  • 予備充電電圧(プリチャージ電圧)
  • 予備充電電流(プリチャージ電流)
  • 充電終止電流(ターミネーション電流)
  • セーフティタイマー
    • 充電完了後カウントを行うタイマーや充電時間を管理するタイマー

まとめ

充電制御をご紹介する上で必要となる電池自体のスペック説明や、充電制御ICの役割についてご紹介しました。電池に関しての注意点や充電保護の重要性について認識いただけたことと思います。今回挙げた用語の他、Li-ion電池に関するさらなる留意点や、充電IC自体にも各社独自の用語を使用した機能がまだまだ多く存在します。今後はLi-ion電池にフォーカスしたご紹介や、各種充電に関する機能についてご紹介する予定です。

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