• 公開日:2020年02月27日
  • | 更新日:2024年03月14日

USB Power Deliveryとは 第1話 5分でわかる概要

ノートパソコンやタブレット、スマートフォンを中心にUSB Type-C搭載の機器を目にすることが多くなってきました。表裏が関係無く接続できるコネクターと、リバーシブルに接続できるケーブルによって利便性が向上したと感じられている方も多いかと思いますが、USB Type-Cを採用する利点としてUSB Power Delivery以下USB PD)に対応しているという事も大きな特徴です。ここでは、USB PDの特長をわかりやすく解説します。

USB PDとは

USB PDは、USB Type-Cコネクター/ケーブルとセットで使う、USB-IF(USB Implementers Forum)が策定した規格です。この規格により、USB Type-Cケーブルで最大100W20V/5A)の電力供給が可能になりました。USBで供給できる電力観点では、それまでBattery Charging Specification 1.2(BC1.2※)の7.5W(5V/1.5A)が最大でしたが、USB PDでは100W(20V/5A)まで拡張でき、電圧観点では、それまで5VのみであったVBUS電圧を20Vまでサポートできる仕様になっています(図1)。

※BC1.2についてはこちらの技術記事をご覧ください。

図1. USB BC1.2の7.5W(従来)から、USB PDでは最大で100Wの電力供給が可能に

これにより、システムへの給電効率の向上と急速充電が可能になります。具体的なアプリケーションを例にあげると、ノートパソコンは20VのACアダプタから充電するのが一般的ですが、USB PDによってACアダプタのコネクターをUSB Type-Cに置き換えることができ、機器への充電ポートとUSBポートを兼用できることを意味しています。また、各ノートパソコン固有で用意されていたACアダプタを統一できるというメリットもあります。

図2. ACアダプタ統一

図2. ACアダプタ統一

USB PDでは、電力とUSBデータの役割をスワップ可能

USB PDでは電力(ソース/シンク)とUSBデータ(ホスト/デバイス)の役割をそれぞれスワップ可能になりました。従来のUSB規格では、USBホスト機器側が電力(VBUS)をソース、USBデバイス機器側が電力をシンクするという関係が必須でした。混同しやすいものにUSB OTGという規格がありますが、これはUSBデバイス同士を接続した際、OTGをサポートしているUSBデバイスであれば、ケーブル接続直後にUSBホストとして動作できるという規格であり、 「USBホスト機器側が必ず電力(VBUS)をソース、USBデバイス機器側が電力をシンクする」という原則は変わりません。

USB PDではこうした縛りが無くなり、USBホスト/USBデバイスに関わらず、豊富な電力を持つ機器から電力を供給できるメリットがあります(図3)。

図3. ノートパソコンからDisplayへ動画を映しながら、Displayからノートパソコンへ電源供給が可能に

図3. ノートパソコンからDisplayへ動画を映しながら、Displayからノートパソコンへ電源供給が可能に
(従来とは逆向きのデバイスからホストへの給電が可能に)

USB PDでは、ビデオ信号をUSBケーブル上で伝送可能

また、USB Power Deliveryと聞くとパワー(電力)に関する規格と思われがちですが、オルタネートモードを使う事により、DisplayPortHDMIといった通信規格をUSBケーブル上で伝送可能になります。オルタネートモードは、USB Type-Cケーブルを使ってUSB以外の方式(DisplayPort等)でデータを送受信する機能であり、USB PDで規定されています。具体的なアプリケーションを例にあげると、ノートパソコンに搭載されているDisplay PortコネクターやHDMIコネクターをUSB Type-Cコネクターに統一できる事を意味しています。

図4. type-C 統一化

図4. type-C 統一化

3Aを超える電力供給にはE-Markedケーブルの使用が必須

USB PD、オルタネートモードを使用する際は、当然ですがそれらに対応した機器(ホスト側、デバイス側)である必要があります。USB Type-Cが搭載されている機器であっても、USB PDやオルタネートモードが使用できるとは限らないため、機器の仕様を確認する必要があります。また、使用するUSB Type-Cケーブルも、アプリケーションによってはケーブル情報を提供するE-Markerと呼ばれるチップが内蔵されたE-Markedケーブル※を使用する必要があります。

※3Aを超える(5A)定格を持つケーブルやUSB3.1ケーブルはE-Markedケーブルであることが求められています。

図5. E-markedケーブル回路図

図5. E-markedケーブル回路図

出典:Universal Serial Bus Type-C Cable and Connector Specification Rev 2.0より

USB PDコントローラーの役割

USB PDを実際の機器で実現するためには、機器にUSB PDコントローラーが必要です。USB PDをサポートする機器同士がつながると、機器間のネゴシエーションによって、電力の役割 (ソース/シンク)と電力量、USBデータの役割(ホスト/デバイス)、オルタネートモードでのDisplayPortの通信方法等を決定しますが、こうした対応のために必要となるデバイスがUSB PDコントローラーです(図6の赤枠部分)。

※ USB Type-Cコネクター/ケーブルで新たに追加されたCC(Configuration Channel)線上でネゴシエーションを行います。

図6. USB3.1 Super Speed信号とDisplayPort信号のMUX DEMUXを含んだシステム構成

図6. USB3.1 Super Speed信号とDisplayPort信号のMUX/DEMUXを含んだシステム構成

まとめ

USB PDによって、従来のUSBから供給電力を大幅(~100W)に拡張可能になり、また、ノートパソコンのACアダプタ専用コネクターやDisplayPort/HDMIコネクターがUSB Type-Cコネクターに取って替わる可能性がある事をお話させて頂きました。USB Type-Cケーブルへ統一できる事によって、世界規模で、産業廃棄物の問題、コスト、ユーザーの使い勝手に貢献する可能性を秘めています。

USB PDの機能を実現するためには、機器にはUSB PDコントローラーが必要です。その一方で、USB Type-C、USB PDはまだ新しい規格ですので、新規導入を検討されている設計者にとっては開発のハードルが高く感じこともあるでしょう。USB PD機器を開発するために、膨大な量のUSB規格書を理解し、ソフトウェア/ファームウェアを作りこむ必要があるとなると、頭を抱えたくなりますよね。

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