- 公開日:2020年02月27日
- | 更新日:2022年12月01日
USB Power Deliveryとは 第3話 USB Power Deliveryコントローラーの評価ボードの概要と周辺部品について
- ライター:Yaita
- インターフェース
シリーズ記事「USB Power Deliveryとは」は、USBのPower Delivery(以下USB PD)の機能について、概要編/実践編の全3話でご紹介します。USB Type-Cを採用する利点としてUSB PDに対応しているという事も大きな特徴です。ここでは、USB PDの特長をわかりやすく解説します。
TPS65987EVMでは何ができるの?
前回の記事では、USB Power Delivery(以下USB PD)の概要と業界最高レベルの統合性を持つPDコントローラーTPS65987Dの特長をご紹介しました。USB PDは主に以下の特長がある事を説明しましたが、TI社が用意している評価ボード(TPS65987EVM)を使用すれば実機で簡単にこれらの動作を確認する事ができます。
- USB Type-Cケーブルで最大100W(20V/5A)の電力供給が可能に
- 電力(ソース/シンク)とUSBデータ(ホスト/デバイス)の役割をそれぞれスワップ可能に
- オルタネートモード※によりDisplayPortやHDMIといった通信規格をUSBケーブル上で伝送可能に
※USB Type-Cケーブルを使って、USB 以外の方式(DisplayPort等)でデータを送受信する機能
図1. TPS65987EVMの外観
出典:Texas Instruments –http://www.tij.co.jp/jp/lit/ug/slvubo9/slvubo9.pdf
TPS65987EVMのブロック構成と概要
以下に評価ボードのブロック図を記載します。青枠で囲まれているのはメインチップとなるPDコントローラーTPS65987D(U4)です。また、TPS65987Dに接続されているSPI Flash(U5)にはあらかじめデフォルト設定が書き込まれています。
図2. TPS65987EVMのブロック図※青枠はTPS65987D
出典:Texas Instruments –http://www.tij.co.jp/jp/lit/ug/slvubo9/slvubo9.pdf
TPS65987Dに内蔵されている2系統のパワースイッチ
ブロック図から、TPS65987Dは2本のパワーパス(20V/5Aまで)を内蔵している事がわかります。2本のパワーパスはデフォルトで一方はType-CコネクターからのSinkパス(PPHV1)、もう一方はType-CコネクターへのSourceパス(PPHV2)の構成になっています。これは、例えばノートPCを思い浮かべると、USB Type-Cの電源アダプタを接続してシステムへの電源供給(充電含む)を行う場合はSinkパス経由で給電、フラッシュメモリを接続した場合はSourceパス経由でVBUS供給すると考えるとわかりやすいかと思います。本評価ボードはバッテリを持っていないため、後者の場合はACアダプタ(J9)からの給電が必要な事がわかります。
ちなみに、評価ボードでは外部FETを使用したOptional SinkPathも実装されていますが、内蔵のFETより低いオン抵抗のFETを使用したい等の要件があった際などに使用できます。
ACアダプタとの接続(J9)
ACアダプタとの接続(J9)は評価ボードのメイン電源供給元です。アダプタ(20V)から接続先のUSBデバイスに供給(Source)するVBUS電圧(例えば5V/9V/15V/20V)の生成、また、TPS65987D自身の3.3V電源を供給します。評価ボードではこれらの電圧はDCDCコンバータを用いて生成されています。接続先のUSBデバイスに供給する電圧は、SPI Flashに格納されている自身の設定と接続先のデバイスの設定に依存し、CC1/2ライン上でのコミュニケーション(USB PDプロトコル)によって決定します。評価ボード上のSPI Flashにはデフォルト設定が書き込まれていますが、以下のツールで設定をカスタマイズし、生成したバイナリデータをSPI Flashへ上書きする事ができます。
また、バスパワーのUSBデバイス等、アプリケーションによってはSinkのみの機器もありますが、その際はJ9は使用する必要はありません。その際、接続されるSource機器に対して何Vの電圧を要求するかは、同様に上記ツールを用いてカスタマイズ可能です。
DP拡張ボードとの接続(J2)
J2はDP拡張ボード(10G-EXPANSION-EVM:別売り)との接続コネクターです。DisplayPort(以下DP)信号をUSB Type-Cケーブルで伝送したい場合は、評価ボードとDP拡張ボードを接続する必要があります。尚、DisplayPortのプロファイルはTPS6598X-CONFIG(前述)で設定可能です。
10G-EXPANSION-EVMは2枚の基板が用意されており、DPソース基板にはTUSB1046、DPシンク基板にはTUSB1064が搭載されています。これらのデバイスは、図3のようにUSB3.1の信号とDisplayPort信号の切り替えを行うリドライバ内蔵のスイッチです。USB3.1 Gen2(10Gbps)をサポートしています。TPS65987EVMは上記スイッチが搭載されていないため、これらの基板と接続する事でDisplayPort信号をUSB Type-Cケーブルで伝送できるようになっています。
図3. USB3.1Super Speed信号とDisplay Port信号のMUX/DEMUXを含んだシステム構成
図4はDPソース基板をTPS65987EVMに接続した例で、一番下のモニター(ディスプレイ)との接続例ではUSB Type-Cコネクター経由でDisplayPort信号の伝送を確認できます。図5はDPシンク基板をTPS65987EVMに接続した例です。
図4. DPソース基板(赤枠)をTPS65987EVMに接続した例
図5. DPシンク基板(赤枠)をTPS65987EVMに接続した例
PCとの接続(J3)
J3(micro B レセプタクル)はPCとの接続コネクターです。PC画面上のGUIからバイナリデータをSPI Flashに書き込んだり、TPS65987DのレジスタをWrite/readする事ができます。このGUIは前述したTPS6598X-CONFIGと同じです。
ちなみに、TPS65987EVMに搭載されているFTDIチップ(U1)の役割は、PC画面上のGUIからSPI Flashへ書き込み/TPS65987のレジスタにアクセス(I2C)するためのインターフェースチップですので、実際の製品へ搭載する必要はありません。
まとめ
ここではTPS65987Dの評価ボード(TPS65987EVM)の構成と何ができるのか、を紹介させて頂きました。
TPS65987EVMは評価ボード自体がパワーソース機器、パワーシンク機器として使用できますので、TPS65987Dを用いたハードの設計はこの評価ボードを参考にすればどんなアプリケーションでも設計できます。また、TPS6598X-CONFIGツールで最終製品仕様に合った設定を選択して生成されたバイナリデータをSPI Flashに書き込めば設定面も完了です。
USB Type-C シリーズ完結!
シリーズ記事としてUSB Power Deliveryについて概要から、実際に設計可能な製品を用いて概要編/実践編と全3話でご紹介しましたが、いかがでしたか?
ご参考になりましたら幸いです。