• 公開日:2021年02月25日
  • | 更新日:2022年11月30日

LVDS・LVPECL/CMLの長距離伝送が可能 DS15BA101/DS15EA101の使用方法

最大1.5Gbpsの信号を20m以上離れた機器間で伝送したい

LVDS/LVPECL/CMLと言った高速インタフェースを長距離伝送した場合に、DS15BA101/DS15EA101をご検討してみてはいかがでしょうか?
DS15BA101/DS15EA101は組み合わせてご使用頂くチップセットです。図 1のように、送信する機器の出力にDS15BA101、受信する機器の入力にDS15EA101を追加頂くことで、この要求を簡単に実現できます。接続には、ツインアックスケーブル、ツイストペアケーブル、または、50Ω同軸ケーブルを使用します。

図 1, ツイストペアケーブル(上)と同軸ケーブル(下)の構成図

このチップセットを使用する際、送信用IC(DS15BA101)にどの様に信号を供給するか、また受信用IC (DS15EA101)からどの様に信号を取り出すか、あるいは、このチップセット間をどの様に接続したら良いかを信号入出力例を使用して簡単に解説します。

 

DS15BA101への入力

最初に、送信用IC(DS15BA101)に信号を供給する方法を示します。
下記は、LVDSドライバを内蔵した信号源(図 2)、CMLドライバ(図 3)を内蔵した信号源、LVPECLドライバ(図 4)を内蔵した信号源とのインタフェース例です。

 

図 2. DS15BA101とLVDSドライバとの接続

図 3. DS15BA101とCMLドライバとの接続

 

図 4. DS15BA101とLVPECLドライバとの接続

 

これらの信号源と接続するために、DS15BA101データシートに記載された、図 5の入力仕様を守ることが必要です。図 5より、入力コモンモード電圧を0.8V以上、Vcc-Vid/2以下の範囲に保つ必要があり、また、入力する差動信号の振幅は100mV以上、2000mV以下の範囲に保つ必要があります。図 2~図 4の各回路例では直流結合の例を示します。信号源(LVDS/CML/LVPECLなど)のコモンモード出力電圧が、DS15BA101の入力コモンモード電圧範囲を逸脱していないか、ご確認下さい。

図 5. DS15BA101のDC電気的特性

 

もし、入力コモンモード電圧を逸脱する場合は、経路にDC Blockコンデンサを設置ください。 DC Blockコンデンサの必要な容量は、取り扱う信号の低周波数成分が減衰なく通過できるだけの容量が必要になります。(1.5Gbps レートでPRBS-7(*1)相等の信号を扱うのでしたら、1uF低程度のコンデンサを推奨します)。AC結合で使用する場合、DS15BA101入力部にはバイアス回路が内蔵されているので、外部バイアス回路は不要です。

図 6. DS15BA101の入力AC結合

また、図 6の回路例ではDS15BA101の直近に100Ωの差動終端抵抗があります。これは、高速信号を受信する際の伝送路の反射を防ぐために必須です。この終端抵抗の配置は信号品質に大きく影響するために注意が必要です。100Ω差動終端抵抗は、DS15BA101の入力ピンにできるだけ近づけて配置します。100Ωの終端抵抗の設置位置については、類似製品のDS30BA101の評価ボードの配置(図 7)を参考に設置して下さい。

 

図 7. DS30BA101のEVMレイアウト

*1:正しくは、PRBS27-1になります。疑似ランダムはPRBS2n-1と表記でき、その周期は2のn乗マイナス1になります。その為、PRBS-7の周期は、127の周期になります。疑似ランダム信号は幾つの多項式を使ってスクランブルするかによりその性質が変わります。
(参考:https://www.macnica.co.jp/business/semiconductor/articles/basic/113989/)

 

DS15BA101とDS15EA101を接続

次に、送信用IC(DS15BA101)と受信用IC (DS15EA101)との接続例を示します。
DS15EA101はDS15BA101と組み合わせでの使用が必須です。その理由は、DS15EA101はアダプティブイコライザーを内蔵しています。アダプティブイコライザーを正しく動作させるためドライバの振幅を正確に800mVに保つ必要があります。このため、DS15BA101と組み合わせてご使用頂くことを推奨します。
図 8~図 9にDS15BA101とDS15EA101を接続する回路例を示します。 DS15BA101の出力はCML構造ですが、CMLに必要なバイアス電源と出力トランジスタのコレクタ間の抵抗が内蔵されていません。そのため、100Ωの差動伝送路を駆動するためにDS15BA101の差動出力ピンの外部には50Ωでプルアップが必要です。信号品質を保つために、この50Ωのプルアップ抵抗は出力ピンの直近に配置する必要があります。
また、直流バイアス電圧がケーブルに出力されないように、DC Blockコンデンサを付加します。DS15BA101の出力電流の設定をRVO端子で行います。50Ωの抵抗に800mVの差動振幅を発生させるため、RVOピンにつながる抵抗は953Ω(精度±1%)を使用します。
一方、DS15EA101の差動入力については、入力ピンの直近に100Ωの差動終端抵抗を設置する必要があります。理由としては、DS15EA105の入力がAC結合されているため、入力コモンモード入力仕様に合いません。100Ωの差動終端抵抗とDS15EA105の間をAC結合する必要があります。

図 8. DS15BA101とDS15EA101の差動接続

 

図 9の回路は、差動伝送路の代わりに50Ω同軸ケーブルを使用する例です。この場合もDS15BA101の差動出力は50Ωでプルアップします。
DS15EA101の入力についても、50Ωの抵抗でプルダウンして下さい。50Ωの同軸ケーブルを使用する場合、出力振幅は、差動モードに比べ、2倍の振幅が必要なため、ROVは487Ω(精度±1%)を使用します。

図 9. DS15BA101とDS15EA101の同軸接続

DS15EA101から信号を取り出すための回路

受信用IC (DS15EA101)から信号を取り出す経路例を示します。
下記に、DS15EA101とLVDSレシーバ(図 10)を内蔵したIC、CMLレシーバ(図 11)を内蔵したICとのインタフェース例を示します。

図 10. DS15EA101とLVDSレシーバとの接続

 

図 11. DS15EA101とCMLレシーバとの接続

 

DS15EA101はCML構造のドライバで、プルアップ抵抗が内蔵されています。そのため、外部にプルアップ抵抗は必要ありません。DS15EA101の出力コモンモード電圧はVcc-Vout/2で、出力振幅は750mV (typ)になります。コモンモード出力電圧と出力振幅を許容するレシーバであれば直流結合が可能です。高速差動信号を正しく受信するため、受信デバイス直近に100Ω差動終端を配置して下さい。
もし、出力コモンモード電圧が入力コモンモード電圧の条件を満たさない場合、図 12の様にAC結合をして下さい。

図 12. DS15EA101の出力AC結合

 

終端抵抗の配置について

最後に、部品のレイアウトに関する注意点について触れます。この問題のキーワードはスタブです。 DS15BA101は出力ピンにプルアップ抵抗が必要になりますが、もし、このプルアップ抵抗が出力ピンから離れた場所に配置された場合、何が起きるでしょうか? DS15BA101の出力ピンと終端抵抗の間に終端されないオープンスタブができ、信号の不正反射が発生します。不正反射を無くためにプルアップ抵抗は出来るだけ出力ピンの直近に配置し、オープンスタブを短くすることが重要になります。

図 13. DS15BA101の出力プルアップ抵抗が遠い場合

同様に、受信するDS15EA101の差動終端抵抗を入力ピンから離れた場所に配置すると、終端抵抗と入力ピンの間がオープンスタブになります。この状況を避けるためには、差動終端抵抗をできる限り、入力ピン直近に配置することが重要になります。

 

図 14. DS15EA101の入力終端抵抗が遠い場合

まとめ

DS15BA101/DS15EA101チップセットは、ツインアックスケーブル、ツイストペアケーブル、50Ω同軸ケーブルを介して、最大、1.5Gbps の信号を数10m離れた機器間で伝送することを可能にします。 このチップセットの能力を最大限生かすには、正しく信号を入力し、また、適切な方法で信号を取り出すことが重要です。 そのためには、適切なレイアウトも重要です。 本稿を参照頂くことで、信頼性の高い機器の設計が出来ると思います。
なお、このチップセットの性能を十分発揮させるには、取り扱う信号の性質も重要です。
取り扱う信号は、直流バランスが優れ、同じシンボル状態が続かない、所謂、スクランブル化された信号が前提となります。