- 公開日:2021年09月08日
- | 更新日:2024年10月30日
ポップノイズとは ~シングルエンド出力編~
- ライター:Kato Sadanori
- オーディオ
ポップノイズって何?
オーディオ製品の電源をオン、オフした際にスピーカから可聴領域のノイズが出力される場合があります。そう言えば、経験したことがあるような…という方がいらっしゃるのではないでしょうか?同じノイズ音を聞いても人によって聞こえ方や表現の仕方はマチマチですが、「パツッ」、「プチッ」、「ポッ」、「ボツッ」などの言葉で表されることが多く、このような予期せぬノイズが発生する現象をポップノイズと呼びます。また、マイク録音時に息が吹きかかることによって生じるノイズもポップノイズと呼ばれますが、オーディオアンプICの電源をオンした際に生じるポップノイズにフォーカスしてお話したいと思います。
シングルエンド出力のポップノイズ
オーディオアンプICを使用し、シングルエンド出力(Single-ended Output)でスピーカを駆動した場合の電源投入時におけるポップノイズについて具体的にご紹介します。シングルエンド出力の例を図1に示します。オーディオアンプICの出力とスピーカの間にコンデンサを挿入し、スピーカに直接DC電圧が印加されないようにします。これはDC電圧に起因するボイスコイルの溶断を避けるための対策です。オーディオアンプICは単電源で動作し、VCCとGND間に所望の電圧を印加します。電源の投入と共にオーディオアンプICがシャットダウンモードから通常動作モードに自動的に切り替わるような使い方を想定しています。スピーカについてはコモンモード電圧がGNDのため、GNDを中心に動作します。
図1 シングルエンド出力の例
ポップノイズが発生する電源投入時の波形イメージを図2に示します。オーディオアンプICに電源電圧VCC(④電源電圧)を印加すると、オーディオアンプICの出力VOUT(②出力波形)が所望のコモンモード電圧に遷移します。この遷移のタイミングで、スピーカ出力(③Speaker出力波形)にポップノイズが生じます。図1の通り、オーディオアンプICの出力に接続されているコンデンサとスピーカインピーダンスによりハイパスフィルタが形成されています。VOUTがコモンモード電圧に遷移する際、スピーカ出力も同様に遷移しますが、その後のDC成分についてはハイパスフィルタによってカットされるため、スピーカ出力は時定数に応じて減衰し、最終的にコモンモード電圧のGNDレベルに遷移します。その後は入力された信号(①入力波形)を増幅し、正常に動作します。電源をオンする際のポップノイズについて言及しましたが、電源をオフする際も同様にポップノイズが発生します。
図2 シングルエンド出力の電源起動時におけるポップノイズ
ポップノイズの低減方法
ポップノイズを低減するためにオーディオアンプICの出力に接続されているコンデンサとスピーカの間にNPN Bipolar Transistorを追加した非常にシンプルなミュート回路を図3に示します。このNPN Bipolar Transistorはベースに接続されているミュート制御信号(VMUTE)によりオン、オフすることが出来ます。ミュート制御信号のロジックレベル(オン・オフのスイッチの目的でNPN Bipolar Transistorを使用するため、敢えてロジックレベルで表現します)が”High”の時にNPN Bipolar Transistorがオン(コレクタとエミッタ間がショート)し、スピーカ端を強制的にGNDに短絡します。一方、ミュート制御信号のロジックレベルが”Low”の時にNPN Bipolar Transistorがオフ(エミッタとコレクタ間がHi-Z)します。
図3 ミュート回路付きシングルエンド出力の例
ミュート制御信号を追加した電源投入時の波形イメージを図4に示します。図2の波形イメージにおいてはオーディオアンプICの出力VOUT(②出力波形)が所望のコモンモード電圧に遷移するタイミングにおいてスピーカ出力(③Speaker出力波形)に大きなポップノイズが生じていました。図4ではNPN Bipolar Transistorによりスピーカ出力を強制的にGNDにショートすることでポップノイズを低減しています。出力VOUTがコモンモード電圧に遷移し、安定した後にミュート制御信号のロジックレベルを”Low”にし、NPN Bipolar Transistorをオフすることで、通常動作モードに切り替わります。ポップノイズの低減効果は使用するNPN Bipolar Transistorのオン抵抗に依存します。また、ミュート制御信号はオーディオアンプICのVCCが供給されてない時にロジックレベルの”High”をキープしておく必要があるため、別の電源系統から制御することになります。ミュート制御信号に対するより安全な制御方法としてはVCCを常に監視し、所望の電圧で安定した際にミュート制御信号をロジックレベルの”Low”に遷移させることです。更にオーディオアンプICにオーディオ信号が入力されないように前段のDACをミュートしておくことも忘れないようにして下さい。最後にNPN Bipolar Transistorに関しましてVeboの高い製品の選定をお勧め致します。スピーカ端でGND以下のオーディオ信号がクリップしないように出力振幅レベル(例えば、±5Vや±12Vなど)に合わせてNPN Bipolar Transistorのベースに印可する電圧制御範囲(オン・オフするための電圧)を決定する必要があります。
図4 ミュート回路によるポップノイズの低減
まとめ
シングルエンド出力のポップノイズについてご紹介させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか?普段使用しているオーディオ製品の電源をオンした際に「ボツッ」と聞こえる場合、このようなメカニズムでポップノイズが発生しているのかもしれません。オーディオアンプICと周辺回路の組み合わせによってはミュート、アンミュート時においてもポップノイズが発生する場合があります。そのため、データシートに記載されている推奨回路の回路定数でのご使用を推奨します。また、ポップノイズの低減方法につきましては確実にポップノイズが低減出来ることを保証するものではなく、あくまで参考例としてお取り扱い下さい。